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運動スキル学習-運動スキルが創造されるまで(その2)

 今回から運動スキル学習の過程を明らかにしていきたいと思います。

 運動スキル学習は、障害などで手や脚が動かなくなります。そうするとそれまで使われていた運動スキルが低下・消失してしまいます。

 そうなると改めて、障害のある体で必要な課題達成のための運動スキルを新たに生み出す必要があります。この障害で変化した体で新たに必要な課題達成のための運動スキルを生み出していく過程がCAMRで言う「運動スキル学習」です。

 今回から片麻痺患者さんが分回し歩行を生み出す過程を詳細に観察しながら運動スキル学習の過程を明らかにしたいと思います。

 まずは杖を持ってしばらく立てるようになった患者さんに、歩いていただきます。セラピストが付き添って、「大丈夫、こけないように支えますよ」と腰に手を添えて説明します。

 そうすると患者さんは麻痺側下肢を振り出そうとされるようです。身体各部に細かな動きが見えたりします。あるいは揺すっているようにも見えます。全身を探って使えそうな身体リソースを見つけては試しているのです。この患者さんはやがて頸を傾げてセラピストに「脚が出ない」と訴えられます。

 これは障害で未知の体になって新たに運動課題を達成しようとするときに見られます。健常者では未知の運動課題や非常に難しそうでやり方の検討がつかない課題に出会ったときにみられます。CAMRでは「探索の過程」と呼びます。

1. 探索の過程

 当然患者さんは元気だった頃の運動スキルである股関節を屈曲して下肢全体を持ち上げて前へ振り出そうとされるわけです。しかし力が入りませんし脚もずっしりと重く動きそうにありません。そこで利用可能な運動リソース(運動のための資源)を探して、身体の様々な部位に力を入れて試したりされます。

 この利用可能な運動リソースを身体の内外に探索して、様々に試行錯誤する段階を「探索の過程」と呼びます。

 この探索の過程は患者さんの個性によって様々です。上記の方は諦めるのが早いようです。セラピストにすぐに報告されて、動くのをやめられましたね。中には諦めずに様々に体を揺すったり、健側の下肢を動かしたり、杖の位置を変えたりと活発に探索する方もいます。少し休んではまた探索の再開を繰り返す人もいます。周りを見回して「あれ(平行棒)を使う」という方もいれば、「なんとかせえや!」とセラピストを叱りつける人もいます(^^;)実に様々ですね。

 探索の過程は障害の発生直後から見られますが、特に何か必要な課題を達成しようとする時に強く見られます。傷害直後には動かない手を動かそうとして「動かない」という結論しか出せない患者さんがいます。患者さんが動かない手だけに焦点を当てて動かそうとしているからです。

 そんな患者さんも「歩くため」とか「あそこまで行く」といった具体的な課題を提示すると、全身の身体リソースを探索し、試行錯誤して、新しい可能性が見つかるようになります。

 先ほどの諦めの良かった患者さんには、「全身を使ってみて」などとアドバイスすると、急に全身の動きや大きな重心移動の動きが見られたりします。最初はおそらく元気な時のように、麻痺側下肢の股関節屈筋などを使う運動スキルを試されたのです。

 探索が進まないときには、上記のように患者さんが元気だった頃のやり方にこだわっていることもあるので、「元気な時に知っている体とは違っています。色々と試して新しいやり方を見つけてみてください」などの声かけが有効なこともあります。

 この探索の過程をセラピストが更に助けることも可能です。たとえば麻痺側の靴先に靴下の先っぽを切って袋状にしたものをかぶせるのです。そうすると靴と床の間の摩擦が小さくなって、患者さんがほんの少し体を揺すったり、重心移動をしたりで患側下肢がほんの少し振り出されるようになります。

 このようにすると健側へ重心移動して、患側下肢を体幹などによって振り出すという「分回し」の歩行スキルを、患者さん自身が早く発見・創造することができるようになります。

 次は「協応構造創出の過程」です。(その3に続く)

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