MuseScore4からAbilityPro4への移行

<はじめの一歩>

昨年(2023年)の7月からMuseScore4での試作を重ねてきましたが、MuseScore4で出来ることと出来ないことがかなり見えてきました。半年の試行錯誤の結果、結論としてMuseScore4は譜面作成ソフトとしては非常に良く出来ていて、なおかつ強力な再生機能を付与することで、限りなくDAWソフトに近いパフォーマンスを発揮できるものの、より実演に近い再生を実現するには不足している機能が多くある、ということが分かりました。

音楽というのは基本人間が実演するもので、(もちろんそうではないアプローチで新しい音楽表現に取り組んでいる人もいることは事実ですが)、コンピュータに制御された完璧なタイミングで1000分の1秒の狂いもなく正確に演奏されるものは、かえって不自然さを感じてしまいます。人間が演奏するからこその微妙なずれ・・・いわゆるヒューマナイズを実装することが必要になるのですが、MuseScore4ではそれは提供されていません。

Abilityはその前身であるSingerSongWriterを昔少しだけ使っていた時期があって、ある程度なじみのあるユーザインターフェースを備えており、とくに音符のプロパティでDeviation(Dev)という発音のズレをミリ秒単位で制御するものがあり、自分が求めているものに近いことができるのではないかという期待があります。

そのような経緯で今年からAbilityでの制作を始めることとしました。

<出来すぎた高機能-Ability>

まずはお勉強から、ということでチュートリアル動画を15本ほど見まくりました。
まー何でもできるみたいです。
様々な演奏パターンが各楽器ごとに用意されていて、表示される選択肢からそれを読み込むだけで、指定したコードに合わせたパターンが作れちゃいます。アレジとしてある程度まとまったフレーズ集もあり、それを使えば簡単にそれらしい楽曲ができちゃったりもします。
便利です。
便利ですが、ふと考えると、それじゃ誰がやっても同じようなものになってしまうんじゃないか。カラオケの伴奏みたいなものならばそれでもいいのかもしれません。お仕事で大量のDTM作品を提供する人もいる訳で、それが無駄だというつもりはありません。
しかし僕がDTMでやりたいことは、僕でしか表現できない音の世界を造ることです。
ちまちまと、こまごまと、細部にこだわって、いじりたおして、DTMなのかナマなのか分からないような作品が造れたら、表現者冥利に尽きると思うのです。
なので、こつこつとオタマジャクシを打ち込むことから始めます。

<MuseScoreとAbilityの違い>

Abilityのスコアエディタは、もちろん譜面作成ソフトではないので、きれいな譜面を作ることは出来ません。機能としては音楽記号(ff~pp,<>,スタッカート,スラーetc.)を打ち込んで、それを音に反映させる事はできますが、それをやるとステップエディタのミリ秒単位のデータがかなりめんどくさいことになってしまうのです。
他にもAbilityにはピアノロールエディタやソングエディタなどがあって、局面に応じて様々な角度から進捗度を確認することができます。
しかし、僕はどちらかというと音楽制作ではアナログ派の方で、まずは楽譜ありきで作って行きます。アレンジのアイデアなんかも、譜面を見ながら構想します。その意味ではAbilityのスコアではいろいろストレスが溜まってしまいます。

一方、MuseScoreの方はちゃんと演奏者に渡せるほどの完璧な譜面が作成できます。音楽記号のデータの反映はMuseScore内部の処理に任せることになるのですが、一応それらしいアーティキュレーションを実現します。モックアップとしては申し分ない機能です。
ただし、MIDIで扱うVolumeとExpressionは制御するところがありませんし、Velocityのコントロールも一音ごとになるので、作業が面倒です。(せめて複数音を選択して、一括で変更できる機能が欲しいです。それも絶対値での指定に加えて、現在値からの増減という方法も。)
コミュニティの有志によるオープンソースプログラムで無料で使用できるのですから、贅沢を言ってはいけませんが、ミキシング機能の強化も含めてあと少しの改良ですごいものになるとは思うのです。今後のバージョンアップに期待するしかないですが。

<Debussyから始める>

Abilityでの最初の作品を何にするか、いろいろ迷いました。
便利な出来合いの演奏パターンを利用して、リズム隊を簡単に構築することは出来そうなので、MuseScoreでは挑まなかったブラジル系に挑戦することも考えました。サンバやボサノバのグルーブをどう実装するかについては、それなりの知見を持っていますし、Ability上で細かな調整を加えるという道筋も見えています。
チュートリアルの流れだと、それが王道らしいです。
でも、簡単に作れるということは、簡単なものになってしまう恐れがあります。
まだ<ど>初心者な訳ですから、ここは謙虚に単一楽器で、音がどのように作られるのかを確認しつつ、進めるのが良いと思いました。
MuseScoreでの最初の試作もDebussyの「月の光」でした。
大好きな作曲家の作品ではじめの一歩を踏み出そう・・・選んだのはアラベスク第二番でした。

<音源の問題>

まずはピアノ音源をどれにするか決めなければなりません。
ところがAbilityにはピアノ音源だけでも何十も提供されているのです。購入したときにオマケで付いてきたVSTi音源も沢山あります。しかも我が家の貧弱なオーディオ装置ではそれらの違いを明確に切り分けられるほどの音質は再現できません。
付録音源のうちWorkstation社のUVI ModelDという音源がかなり優秀だという記事を見つけて、それを試しに使ってみることにしました。
すごいです。
スタンウェイのグランドピアノみたいです。
Velocity値に対する発音の違いも明瞭で、これならば「ある程度いけるんじゃね?」という気持ちになりました。音源ダウンロードとアクティベーションのめんどくさいやり取りはひとまず置いておくとして、「Workstationさん、ありがとう!」

<Youtube公開まで>

作業の進め方は、人それぞれだと思うのですが、私の場合はちょこっと二小節くらい音符を打ち込んで聴き返し、アーティキュレーションやテンポを確認しながらやるという方法です。アラベスク第二番にいったい音がいくつあるのか、数えたことはありませんが、間違いなく全ての音に対してチェックを行いました。
人気の楽曲なので動画もたくさん上がっているのですが、この曲、演奏者によってかなり表現方法が異なっていました。なので誰かの演奏をモデルにするというよりは、「自分ならこう聴きたい」という感覚優先で進めました。
実際に演奏するわけではないのですが、やはりこれは私の演奏なのでしょう。

ということで、取り組み始めて約一週間。ようやく最初の試作を公開することができました。
YoutubeのTousiuChannelで公開しています。

https://youtu.be/z1kz2KpUdNU


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