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『メグとばけもの』(PC / Switch / XBOX)

魔物の世界へやってきた子ども

今年3月に発売されたインディーゲーム『メグとばけもの』。いつも聞いているラジオ番組で話題になっていて、興味を持って遊んでみたのだが、いざ始めてみるとすっかり夢中になってしまった。いやー、これはいいゲーム。あっという間にクリアまで駆け抜けた。世間的には「泣ける物語」なんて言われているみたいである。感動する話はもちろん好きなんだけど、先に「泣けます!」って評判が立っちゃうと、そうかんたんには屈したくないという、あまのじゃくな私だ。結論からいえば、『メグとばけもの』はとてもよかった。ゲームシステムとしてRPGをベースにしてはいるが、ストーリーを体験する要素が大きい。実際にプレイすると、感動(泣ける)だけではなく、笑える内容でもあるし、とぼけた雰囲気のある会話も楽しめる幅の広さを感じた。さまざまな感情が表現された、魅力的なゲームなのではないだろうか。1650円とお手頃価格で、パソコン、Switch、XBOXで遊べるようになっている。私はSwitchを持って外へ出かけて、電車のなかやファミレスなどでプレイしたのだった。クリアまでに要する時間は、およそ5〜6時間といったところである。

ドット絵の親しみやすいビジュアルだ

あらすじは、ある日、魔物たちが住む世界、略して魔界に人間の女の子がやってくるところから始まる。名前はメグ。歳の頃はまあ、5歳とか、そんな感じ? まだ未就学児童だろうから、電車とかタダだと思うんだ。メグは家族ともはぐれて、ひとり魔物だらけの魔界で迷子になっていた。気の毒な未就学児童である。そのメグが、ロイという巨大な魔物に出会う。ロイは見た目がいかつくて背が2メートル以上あり、片腕がカニみたいなハサミになってるし、ツノも生えてて、普段は産業廃棄物みたいなむらさき色の物体を食べて暮らす面妖な生き物なんだけれども、なんかこう、メグがなついちゃって。それで、ロイの友だちであるもうひとりの魔物、ゴランのすすめもあって、メグと行動を共にすることになった。とはいえ、ロイとゴランがメグの面倒を見る最大の理由は別にある。これは驚愕の事実なのだが、メグが泣き出してしまうと地球がほろびるためであり、サードインパクトが起きて人類が破滅するからである。すごい女の子を保護してしまったものだ。人間核弾頭。お前はドルフ・ラングレンかっ、とツッコみたくもなるが、世界を破滅させないためにも、ロイはメグを泣かせないように適時、おもちゃやクレヨン、絵本などで機嫌を取る必要性が出てきた。そうしないとメグは泣き、地球は崩壊、ロイもゴランも死んじゃうのであった。彼らはメグを母親の元へ送り返すために、その方法を探り始めた。

女の子が泣くとサードインパクトが起こります

ゲームでなければ表現できない感情

『メグとばけもの』を遊んでいて、これは小説や映画ではなく、ゲームという表現手段でなければ感じられないおもしろさがある、と思ったのだが、なぜこの感覚が他のメディアでは得られないのかと考えると、うまい説明が思いつかない。ボタンを押すことでプレイヤーとしての主体性が宿るから、などとそれっぽい理由をこしらえてはみるのだが、どうも適切に言い表せていない気がする。メグは恐怖を感じると心が弱り、恐怖が最大限に達すると泣き出してしまうため、彼女が泣かないよう、他の魔物に襲われて大忙しなときでも、一緒にトランプで遊んだりして元気になってもらう必要がある。そこに何とも言えぬ「ケア」の感覚が宿っていて、メグが大事な存在に思えてくるのかもしれない。昔『ICO』(2001)というゲームがあり、それは主人公が女の子の手をひいて一緒に敵から逃げるものだったんだけれども、ゲームには「手をつなぐボタン」というものが設定されており、そのボタンを押すことに独特の感覚があったことを思い出したりもした。

ときには悲しい選択もせねばならない

魔界に住んでいる、バラエティ豊かな登場人物も忘れがたい。魔物だから、見た目が結構邪悪なもんで、人間の子どもに対してひどいことするのかなって思うんだけど、実際は親切だったり、深い考えを持っていたりする魔物も多い。そのギャップとか、魔物らしからぬ軽妙さもよかったのである。そもそも魔界、わりと狭くて、それはインディーゲームという手作り感の結果でもあるのだが、どうして魔界が狭いのかというあたりにちゃんと物語的な理由があったりして、そうしたストーリーの全体像が少しずつ見えてくる構成もよかった。どのキャラクターにも印象的な場面があるのが楽しいし、魔界ってわりには親切心が根付いているのもよかった。ほら、「魔界」っていうとさ、もう人情ゼロって感じじゃん。「魔界村」みたいな、もう鎧を着ててもすぐ裸にさせられて、あわててるうちにすぐ骨になって死んじゃう世界というか。そのあたりが心配だったけど、本作は比較的いい魔界だった気がするな。わりと慈悲ある魔界だったと思う。こうしたハートウォーミング物語が、ドット絵RPGというフォーマットを基本にしながら(そしてときおりRPGの構造をメタ的なギャグにしながら)進んでいくことで、今年の3月に出たばかりの新作ゲームであるにもかかわらず、登場したときから、どこか「懐かしさ」のようなムードをまとっている部分にも感心した。いいゲームなのである。「泣いた」と書くのは恥ずかしいけれど、泣かされてしまった作品であった。グッズ出たら買う。たぶん、買っちゃうな。

【私、スキンケアの本を出しまして、ぜひ読んでほしいです】

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