見出し画像

『スラムダンク』をもっと知りたい! - 28

映画『THE FIRST SLAM DUNK』で初めて『スラムダンク』に触れた私が、井上雄彦氏のマンガ『スラムダンク』(ジャンプ・コミックス)を読んでいきます。全巻を読み切れるよう、がんばります。なお、読んでいる単行本は通常版です(完全版、新装版ではありません)。

28巻「2年間」

◆27巻最後で、「ヤマオーはオレが倒す!」とジャイアンの声で宣言してしまった桜木(私は映画版を先に見てるので、あの声優のボイスで再生されてしまうのだ)。会場からはブーイング
◆「これで勝つしかなくなったぜ」。退路の断ち切り方が乱暴なのよ

もう引っ込みつかないよ

◆とはいえ、後半は残り10分ちょっとで点差は24。しかし桜木はあきらめていなかった
◆「バスケかぶれ」っていう言い方がまたグッとくる。ここでみんなが「行けるかも……」と考えだすのがいい

いま24点差です

◆自信満々に「シロートだからよ」と言い放つ桜木。なんかもう、この会話を見てるだけで熱くなるんだよね。たぶん桜木、心のなかで「どうやってコイツらをやる気にさせようか」と必死で考えてるんじゃないかと思う
◆盛り上がる応援席。この描写もいい。桜木軍団はどこか直感的に、桜木の判断を理解できていて、「これならまだいける」と思っているというか

Sakuragi is not dead

◆相手チームのユニフォームひっぱりからのリバウンド、得点。桜木がようやく反撃。後半、ずっと点を取れてなかった湘北、残り10分ちょっとでようやく初得点。長かったな〜
◆この場面、映画版でも描写があるんだけど、一瞬審判が笛を吹くか、吹かないか、身を乗り出して判断するというショットが挟み込まれるのがアツいんだよ。もうルールぎりぎりを攻めてる感じが

映画でも出てきた、審判の笛吹きそうで吹かない様子

◆TBSのラジオ番組「アフター6ジャンクション」で、元プロのバスケ選手が話していたんだけど、試合には目に見えない「流れ」があって、劣勢だったチームが、あるワンプレーで流れをつかむといったことが実際に起こるのだという

◆「スラダン」における、勝負事の「流れ」描写は、本当に最高レベルに達していると思うんだけど、桜木がムチャをしてから流れを取り戻していく展開は読んでいてワクワクしてしまう

この描写のうまさよ

◆流れは戻りつつある、しかし完全ではない。足りないのは何か? そう、赤木が完全に復調し、湘北の精神的支柱として爆発することなのだ

どうすれば赤木は調子を取り戻すか?

◆こうしてテーマを明確に伝わりやすく、なおかつ読者の心に響くやり方で伝える「スラダン」は、世界文化遺産に指定した方がいい(なるべく早めに)
◆リバウンドを脅威のジャンプで奪った桜木、パスを赤木にまわす
◆赤木は河田兄への対抗心ばかりがつのり、河田兄のディフェンスに突っ込むような強引なシュートをして、体育館の床に叩きつけられる
◆映画版だと、ここでバスケ部のイヤな先輩が出てきて「このまま横になってろよ」と気分が悪いことを言うのだった
◆一方で原作、倒れた赤木の前にあらわれたのは……う、魚住?

スラダン最大の衝撃

◆まったく意味がわからなくて、しばらく同じページを眺めてしまった
◆なんでバスケットのコートで大根のかつらむきをしてるんだ、この男は
◆これまで27冊、『スラムダンク』を読んできた私。バスケマンガが読みたかったのに、実際は半分ヤンキーマンガでケンカばかりしていて、読むのがつらかった8巻までの展開。9巻以降、バスケマンガとしての軸がブレなくなってからは、最高の体験をさせてもらっていたが、まさか終盤も終盤、28巻まで来て、またしてもバスケマンガの枠組みではとうてい収まりきらない超絶事件が起ころうとは
◆このシュールレアリズム展開、どうやったら思いつくの?
◆桜木のイタズラがかわいらしく見えてきたぞ
◆困惑する審判から、きわめてまっとうな指摘

「かつらむきだ」じゃないのよ

◆警備に退場させられる魚住。しかし去り際にすごいことを言う

板前だから例えがぜんぶ魚
すばらしい言葉

◆「泥にまみれろよ」。読んでいて涙が出てしまった。胸に突き刺さる言葉。もしかして魚住、最高の友だちなんじゃないか?
華麗かれいに勝利を収めようと空回りする友人に、かれいのように「泥にまみれろよ」とアドバイスする魚住。そこにあるのは深い友愛だ
◆魚住に感謝する安西先生。確かにいいアドバイスだったけど、この魚住って人かなりブッ飛んでますよ

魚住に感謝する、肝の座った安西先生であった

◆こうなると、映画版のハイクオリティ映像で魚住の登場を見たかった気もするが、そもそも陵南高校を知らない原作未読の観客からすると、「これまで一度も劇中に登場していない、身体の大きな見知らぬ男が、なぜかいきなりバスケットコートで大根のかつらむきをしている」という、デイヴィッド・リンチの映画みたいな場面になってしまうので、いまのバージョンに変えておいてよかった
◆魚住のかつらむきが何の比喩だったか、異様に理解力の高い安西先生

最速理解

◆魚住の身体を張った応援で、仲間を信じる大切さを知った赤木
◆「河田は河田、オレはオレだ。奴の方が上だとしても、湘北は負けんぞ」。赤木はようやくこの境地に到達できた!
◆考えてみれば、大学スカウトのくだりから「インターハイで活躍すれば大学が決まる」というプレッシャーがあった赤木には、せっかくのチャンスをふいにしたくないとの思いから、よくない焦りが出てしまっていたのだった。こういう細かい描写の積み重ねもすばらしい
◆ふっきれた赤木の咆哮が響き渡る。熱い!

よし、もうこれで赤木は大丈夫だ

◆映画版でも赤木は「ウオーッ」と言ってたけど、その裏にはこんな心理があったのね。そりゃ友だちがバスケの試合中に、目の前で大根のかつらむき始めたら、「ウオーッ」以外のリアクションないよ
◆山王の攻めに対して、これまで以上に果敢に立ち向かう赤木
◆シュートをブロックしようとしたが、ダブルクラッチでかわされてしまった赤木。しかし2枚目のブロックに入った桜木がみごとハエ叩き成功。自分だけで勝つ必要はない。仲間がいるのだ

ハイタッチ好き

◆そして宮城の「1本コール」来た。私がスラダンでいちばんほっこりする描写、それは宮城の「1本コール」

「1本コール」はいいよな〜〜

◆赤木覚醒の一方、三井もまた目覚めつつあった。前半、激しいマークで体力を奪われ、走るのもやっとという状態になっていた三井。しかし、彼はそれでもスリーポイントを奪っていた

もう完全に三井が好きなんよ私

◆ここで三井の過去へフラッシュバック。赤木とスタメン争いをしていた1年生の頃
◆やはり三井には過去の後悔がある。バスケから離れていた時間。そこにクヨクヨしてるからこそ、読者にはたまらない魅力となって惹かれてしまう
◆そしてこのコマ。私は三井がたばこ吸ってると思い込んでたけど、まわりの不良連中が吸ってるコマがあったのを、本人の喫煙だと誤解してしまっていた。本人は吸ってなかったのだった。21巻の感想で「たばこを吸ってイキっていた三井」と書いていたものがあったので、訂正と追記しました。三井スマン

三井はたばこ吸ってなかったです

◆体力の限界に近づきつつもスリーポイントを決める三井。「もうオレにはリングしか見えねえ──」の名言

魂のスリーポイントだ

◆疲れ果てて倒れ込む三井、大丈夫か?

「へろへろだ」

◆「へろへろだ」の韓国語訳は「ネギキムチ三井」
◆三井寿は「ネギキムチ三井」という新しい称号を得たぞ
◆もはや身体も思うように動かず、完全にネギキムチとなった三井を支えているのは、チームメイトへの信頼のみ

ネギキムチになっちゃったけど、心は成長したんだ

◆いや、すばらしいね。人を信じる強さを持てた三井の成長
◆そして、またしても「流れ」「リズム」への言及。井上氏がストーリーテリングでもっともこだわった部分だ

スラダンいちばんの魅力はここ

◆赤木はこう考える。「湘北にいいリズムをもたらしているのは桜木だ。奴がことごとくオフェンス・リバウンドを拾ってくれるからだ。晴子……。お前が見つけてきた変な男は、湘北に必要な男になったぞ……」

信頼が大事

◆いいね、チームメイトの関係性が深まっている。それを証明するかのように、赤木もパワフルなダンクを決める。完全復調だ
◆一方、湘北がリズムを取り戻したのは桜木がキーマンだからだ、と気づいた山王は、河田に桜木をマークさせることに
◆あの初心者桜木に、日本の高校生ナンバーワンセンター河田のマークがつく。いやー、アツい展開だね
◆河田におさえ込まれるかと思いきや、シュートをしっかりブロックする桜木であった

桜木も負けていないぞ

◆湘北が反撃のきっかけをつかみ、29巻へ

28巻の感想

◆27巻で出てきたゾーンプレスからようやく脱して、どうにかリズムを自分たちに引き戻すまでを描いた28巻。赤木、三井と登場人物の内面を描写しつつ、メンバー同士の連帯感が高まっていく過程を見せてくれた
◆特に、苦しんだ赤木が「チームとして勝利したい」と願い、調子を戻していくまでの心理描写は最高だった
◆韓国では、三井がネギキムチと呼ばれていることが判明した。愉快な情報を教えてくれた、韓国のスラダンファンに感謝だ。スラダンを愛する気持ちに国境はない
◆そして衝撃の大根かつらむき事件。ここまで緊迫した試合の途中で、いきなりのかつらむき
◆スラダンの底知れなさを感じた。井上氏はどうやって「バスケのコートで大根のかつらむきをする男」を思いついたのか。そしてそのエピソードをなぜ入れようと思ったのか
◆スラダンは一筋縄ではいかない作品だ
◆また、そこで魚住が言い放ったのが「泥にまみれろよ」という、しびれるようなせりふだったのもたまらない。もしかしたら、スラダンのせりふでいちばん好きかもしれない
◆魚住の「泥にまみれろよ」には深い友愛がこもっている
◆その言葉が「板前の格好でバスケのコートに立ち、急に大根のかつらむきを始める奇人」の口から出るのが、さらに深みを増している
◆私には、魚住のような友だちがいるだろうか……
◆いや違う。むしろ、私が魚住のように、誰かをアツく励ますことのできる人間にならなければいけないのだ
◆ありがとうスラムダンク!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?