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『スラムダンク』をもっと知りたい! - 31

映画『THE FIRST SLAM DUNK』で初めて『スラムダンク』に触れた私が、井上雄彦氏のマンガ『スラムダンク』(ジャンプ・コミックス)を読んでいきます。これが最終巻です。なお、読んでいる単行本は通常版です(完全版、新装版ではありません)。

31巻「湘北高校バスケットボール部」

◆山王戦後半。残り時間1分9秒
◆赤木のフリースローから開始。きわきわの集中力で決める赤木。これで湘北 71 - 山王 76

あと1分9秒!

◆桜木のコンディションは最悪な状態だが、試合に出ると言い張る。当然ながら安西先生に止められる
◆「白状します。君の異変にはすぐに気づいていた……気づいていながら君を代えなかった……代えたくなかった」

安西先生の言葉のすべてが愛

◆安西先生が、桜木に腕を回しながら伝えるこの言葉がすごく好きで、映画版でも「いいなぁー」と思ったよ。教え子を愛して導くこと、才能を伸ばすことのよろこびがある
◆しかし納得の行かない桜木。安西先生を軽くタプってから「オヤジの栄光時代はいつだよ……全日本のときか?」と訊く

ホントに罪なせりふだ

◆まだ高校生の桜木が「オレは今なんだよ」と考えるのは気が早いし、ちょっと危ういんだけど(何歳からだってチャンスはあるし、「いつが栄光時代か」なんて本人にもわからないことが多い)、同時に、それがスラダンという作品の瞬間的な爆発のエネルギーにつながってもいると思う。すごく好きなせりふなんだけどね
◆この桜木のせりふについて、スラダン識者と語り合いたい!(「オレは今なんだよ」会議)
◆観衆の大歓声を浴びて試合に戻る桜木、しかし歩きながら背中をかばっている。この苦しそうな歩き方を絵で的確に表現してるのもいいね

もう普通に歩けてないんよ

◆「心細かったよーだね君達、オレ抜きで」「(ケガは)この天才にはちょーどいいハンデだ」と元気にビッグマウスする桜木。立つのもやっとなのに
◆桜木が戻って燃える湘北、「来いや山王!」と叫ぶ。たくましいぞ

もう汗まみれだ

◆魚住も「シシューーッ!」と叫んでいる(どうやら「死守」と言ってるようです)

クチビルかわいいの

◆河田弟にボールが回り、シュート。しかし桜木がブロック

この「ダンコ」は、安西先生の「ダンコたる決意」発言にかかってます

◆桜木のブロックが宮城に渡ってダッシュ。横からは流川が走り込む

走り込む宮城

◆いい位置にいる流川。ここで宮城→流川のパスが通るか?
◆と見せかけてのノールック!! クハーッ!! 映画でもあった大興奮シーン。宮城はパスが出せます!

カッコいいぞ!

◆宮城がパスを出したのは裏で走っていた三井
◆ボールをキャッチしてスリーポイント!

どこにそんな体力残ってた

◆三井はなおかつファウルも取って3点+フリースロー獲得
◆体力ゼロでどうやって走ったんだ、三井! 応援席の堀田徳男も誇らしくて泣いてるよ。歴史に名をキザめ〜〜オマエラ〜〜(はい)
◆熱狂する会場。これで湘北 74 - 山王 76(これからフリースロー)

もう1分切ってるけど2点差

◆いやーすごい。こんなマンガ読んでたら心臓もたないよ
◆三井のスリーポイントを見て、思わず涙する湘北の石井
◆私は31巻を朝の通勤電車で読んでいたのですが、このコマに書かれた石井の言葉でどうしてもこらえきれなくなり、電車内なのに泣き出してしまった

報われた瞬間

◆「湘北に入ってよかった」
◆スラダンは「報われた瞬間」を描くことがあって、そのたびに感動してしまう。陵南戦でのメガネ君スリーポイント。海南・宮益の堂々としたプレー。桜木を楽しそうに教える安西先生。海南戦で「オレは間違っていなかった」と気づいた赤木……。こうして、作品のなかで積み重ねられてきた「報われた瞬間」が、ラストの31巻、石井の言葉で大きな実を結んだ気がした
◆「自分たちはいま、信じられないような地点に到達した」「思い切って挑戦してよかった」という、全身がふるえるようなよろこび
◆途方もない試合だ! これは頭抱えちゃうよ

興奮する関係者席

◆フリースロー、三井は当然決める。外すわけがない

ひとりで4点取っちゃった

◆残り49秒、湘北 75 - 山王 76。ついに1点差
◆最高潮に達した会場。海南の部員たちも必死で湘北を応援する、魚住も、桜木軍団ももう夢中だ

魚住のシシュ顔よ

◆河田兄のシュートをブロックした赤木、こぼれたボールは桜木へ。しかし、背中の痛みで思うように動けず、沢北にボールを取られてしまう

背中がもう限界

◆そのままシュートに持っていく沢北
◆そしてここ! 映画版でも最高の興奮を味わせてくれた「返せ」

ここは燃えるんだよ!

◆沢北のシュートを桜木が「返せ」ブロック! もうどうなってるの
◆原作の読者ならリバウンドが何かもよくわかっているけど、バスケを何も知らない映画版の観客に対して、リバウンドを「カッコいい」と思わせる描写ができるのがすごい
◆こぼれたボールを拾った流川、そのままドリブルでシュートまで持っていくが、河田兄のブロック
◆またしても外に出そうになったボールを飛び込んで拾う桜木、あらためて流川にパス

ボールにくらいつく桜木

◆ここからマンガもついに無音に!!!
◆せりふ、オノマトペ、その他コマからいっさいの文字がなくなり、バスケットをする10人のプレイヤーの動きだけが描かれる

無音のコマ

◆そうか、映画版の無音演出は、あらかじめマンガで使われていた手法だったんだ
◆桜木が身を呈して戻したボール、流川がシュート

これが入れば逆転

◆会場の全観客が見守るなか、湘北の得点

本当に「音がないマンガ」なんだ!

◆残り時間24秒、湘北 77 - 山王 76。ついに湘北逆転
◆もうコマに「ワアア」「ドシッ」「ダッ」といったオノマトペも、登場人物の「ウォー!」という叫び声もない。プレイする選手の絵だけ
◆1秒、1秒と経過していく時間。映画版にあった、「チッチッチッ」という時計の針音はこれだったのか

ほんの数十秒に無限が詰め込まれている

◆この場面で、山王の監督がタイムを取ろうとして止めた理由が、原作では説明されている。「10番(桜木)は限界を過ぎている。ならば事実上5対4の状況のままで── 最後のタイムアウトを放棄する代わりに、交代する間も与えない」。なるほど、映画版で山王の監督がタイムを中止する合図をしていたのは、こうした理由だった
◆ボールが山王に渡り、沢北が、流川・赤木の2枚のブロックをものともせずシュート
◆ここにきて沢北がなんと得点。残り9.4秒。湘北 77 - 山王 78

山王監督の表情、すばらしい絵

◆無音のマンガを初めて読んだ、と思った。そもそもマンガは紙に書いてあるから、どんなマンガも音は出ないはずなんだけど、それでも、この山王戦ラストは、完全に音が消えたマンガ、サイレントのマンガの体験ができた。音のない世界で激しい試合が進んでいて、没頭しているうちに、マンガのページと自分の意識が完全に一体化したような感覚に陥ってしまう
◆湘北と山王が全力でぶつかりあっている様子、それだけで涙が出てきてしまい、電車のなかで、泣いてる顔をタオルで隠しながら読んだ

赤木剛憲

赤木剛憲。私自身とはもっとも遠い性格のキャラクターだと思っていたけれど、読んでいくうちに、意外なほど似ている部分をたくさん見つけた。繊細な一面もある人物だと思う。赤木のまっすぐさが好きだ。記憶に残るエピソードには、ほとんど赤木が関係していた気がする

宮城リョータ

宮城リョータ。映画版からスラダンに入った私にとっては、ずっと主人公の存在。7番。ドリブルしながら右手の人差し指を上げて「1本取ろう」と声をかけるのが本当に好き。彼が独創的なパスを出すコマには、何度も胸が熱くなった。映画を先に見たので、原作のどんな場面でも、彼の母親や妹、死んだ兄の姿が自然に浮かんでいたと思う

流川楓

流川楓。寡黙なキャラクターで、原作を通して読んでも謎の多い男だった気がする。口が悪いようでいて、実は意外に優しい面がある人物だと思う。海南戦でパスミスをした桜木に「昨日のてめーは実力の何倍もの働きをした。湘北にとっては計算外のラッキーだ」「お前のミスが勝敗を左右するなんてことはねー」と声をかける場面が印象に残っている。あれ、桜木を励ましてたんだね

三井寿

三井寿。最悪すぎる第一印象から、本当に大好きな存在へと変わっていった登場人物。ひとりのキャラクターに、こんな複雑な感情を抱いたことはなかった。過去を悔やみ、自分を責めながら、それでも好きなバスケにしがみつこうとする、あきらめの悪い男。「なぜオレは あんなムダな時間を……」「ここで働けなけりゃ オレはただの大バカヤロウだ」。彼には弱い男が発するふしぎな色気があり、どうしても応援したくなってしまうのだった

桜木花道

桜木花道。天真爛漫な中心人物。バスケを何も知らないがゆえに、誰にも予想のつかないような展開を引き起こすトリックスター。エアジョーダン1ブレッドを履いて、どこまでも高くジャンプする男。井上氏が桜木というキャラクターを発明し、アマチュアイズムを物語の軸にすえたのは、本当にすばらしいセンスだと思う。彼がいなければ、スラダンは絶対に成立しなかった。いっけん単純なようでいて、山王戦で見せた細やかな内面にも惹かれた

◆沢北のゴールから、湘北ボールで試合再開
◆急いでゴール下へ走り出す桜木

リング下へ走り込む桜木

◆残り8秒、赤木がパスの出しどころを迷う。必死にディフェンスする河田弟

がんばる河田弟

◆残り5秒、パスを渡すよう声を出す流川

「パスくれ!」

◆残り4秒、赤木からパスを受けた流川がドリブルで攻め込む

疾走する流川

◆残り3秒、沢北が止めに入る

沢北を抜けるのか

◆残り2秒、流川がシュート体勢、河田兄と沢北の2枚がブロック

このふたりのディフェンスはキツい

◆パスを待つ桜木、山王のディフェンスがついていない

誰のマークもついていない、フリー

◆ここで桜木、「左手はそえるだけ」のせりふ。あー、映画版はこのせりふも外したのか!!! この重要な言葉すら外してしまう勇気!!!

この言葉をなくして無音にする映画版の凄みよ!!!

◆残り1秒、流川から桜木へのパス

残り1秒でパス!

◆パスを受けた桜木がシュート、ボールが手を離れたところで0秒

2万本シュート練習で鍛えたフォーム

◆桜木得点。湘北 79 - 山王 78 で試合終了。湘北勝利

79 - 78

◆そして、映画版を初めて見てから1ヶ月ちょっとかけて、ようやくこの場面にたどり着きました

◆山王戦は、試合前からカウントすると61週かけて描いている。1年が52週だから、1年以上だ。全体の連載は6年。連載当時、6年ずっとリアルタイムでスラムダンクを追いかけて、最後にこのハイタッチのコマにたどり着いた読者は、いったいどんな気持ちだったんだろうか

湘北は勝った

◆試合途中からの無音。ふたたび音が戻ってくるのは、山王監督の「はいあがろう。『負けたことがある』というのが いつか大きな財産になる」の言葉だった
◆相手チームにも拍手したくなるような、すがすがしい試合だ
◆山王のメンバーも強かった、みんなすごかった

山王戦が終わって

◆このあと、31巻には短い後日談がついている
◆湘北はインターハイの3回戦であっけなく敗退したこと、次期キャプテンは宮城になったこと、赤木は大学の推薦を取れなかったこと、流川が全日本ジュニアに選抜されたこと
◆どれも大げさなエンディングを避ける、さりげないエピソードで、とてもよかった
◆彼らはまた普段通りの生活をしながら、放課後にバスケをするのだ
◆桜木は江ノ島あたりの病院でケガのリハビリをしていた。晴子から来た手紙を読んでいる。早く部活に戻ってきてほしいと、晴子は書いていた。いま晴子は、バスケ部のマネージャーなのだ
◆この静かなエンディングを読みながら、私は、1巻の最初に井上氏が書いた「著者のひとこと」を思い出していた。私はこの文章がとても印象に残っていたのだ

高校のころはバスケ部でした。すげー弱い学校とこだったけど、バスケットはおもしろくて、おもしろくてしかたなかった。何かを「好き」というときには、なんつーか、一種の照れみたいなもんがあって、うまくいえなかったり、ごまかしたり、嫌いだといっちまったりすることも、あるんだけど、バスケットだけは照れずに「好き」といえるのであった…。

◆「何かを好きであること」を描き続けたスラムダンク。そのすべては、1巻の最初に書いてあった通りのような気がする
◆桜木はリハビリを終えてから、湘北に戻って、また大好きなバスケをするのだ
◆何かを好きな気持ちを、絶対に離さないようにしよう。自分が好きなことを、大切にして生きていこう

31巻の感想

◆31巻は時間や音の感覚が消滅して、バスケの試合の世界に没入するような体験だった
◆当初、さすがに映画版ほどの興奮は得られないだろうと思っていたけど、原作の山王戦も本当にすばらしかった
◆スラムダンクを知らないままの人生でなくて、本当によかった
◆スラムダンクの主人公は桜木だけれど、目立たない人物にも、あたたかいまなざしが注がれる。そこが好きだった。あらゆる場所に主人公はいる、と思う
◆読みながら、井上氏の人柄を感じる描写が多かった。公平さと愛情があった。世代的に近しく、共感できる部分も多かった
◆ついに、スラムダンクをすべて読み終わってしまった。もうこの話の続きは残っていないのだ
◆井上先生、このみごとな原作と、とてつもない映画版を見せてくれたこと、ありがとうございました

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