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美容雑誌を毎月7冊買って読み続けた中年男性は何を学んだか

美容雑誌とは何か

みなさんは、女性向けの美容雑誌を知っているだろうか。女性誌には、ファッション雑誌とは別のカテゴリーとして「美容雑誌」があるのだ。男性向けの雑誌にはないジャンルなので、その存在を知らない男性も多いかと思う。「雑誌、冬の時代」といわれるなか、逆境もなんのその。美容雑誌はよく売れており、高い人気と売り上げを誇っているのだ。メイク、スキンケアに特化した誌面が特徴で、新製品の紹介やメイクの方法、美容に関する読みものや有名芸能人の愛用コスメなどについての情報が載っている。読んでみるととても楽しい雑誌なのだが、ほとんどの男性は一度も手に取ることないまま人生を終えるはずである。「オレには関係ないよ」と思うかもしれない。かく言う私も、つい最近まではそうだった。

いま私はおそらく、美容業界の関係者を除けば、日本でもっとも美容雑誌をよく読んでいる中年男性である。毎月7冊の美容雑誌を購入し、ひたすら読み続けているのだ。「美的」(小学館)、「MAQUIA」(集英社)、「VOCE」(講談社)、「&ROSY」(宝島社)、「美ST」(光文社)、「LDK the Beauty」(晋遊舎)、「upPLUS」(アップマガジン/隔月)。こんなにたくさんの美容雑誌を買っている中年男性は、まずいないと思う。日本でいちばん美容雑誌を読むおじさん。当初は、スキンケアの勉強のためだった。昨年のある時期に、男性スキンケアをテーマにした書籍を出すことが決まり、「とにかく勉強しなければ」という気持ちで買い始めた美容雑誌。実際に読んでみて、そのきらめくような世界に夢中になってしまった。もうキラキラ。すごいの。まぶしくて目がくらみそう。美容雑誌の発売日は毎月22日に集中しているのだが、その日が近づくと「もうそろそろだな……」「早く美容雑誌が読みたい」と心待ちにするようになった。美容雑誌には、中年男性が普通に暮らしていては絶対に味わえない、ときめきと輝きが詰まっている。私がそれまで見ていた黒と灰色でできた世界とは真逆の、極彩色ワールドが広がっていたのだ。

まったく美容を知らない中年男性が、美容雑誌を毎月7冊買い続けると何がわかるか。何がどう楽しく、どこがおもしろいのか。また、美容雑誌のどの部分が理解しにくかったか。私が感動したところ、また困惑した部分についてなど、読んだ経験のない男性の方に伝わるよう解説してみたい。ぜひ男性のみなさまにも、めくるめく美容雑誌の世界を体験してもらいたいのである。

美容雑誌はここがすごい

圧倒的なきらめき

ステキだな〜〜憧れちゃうよ

グラビア誌としての側面が強い美容雑誌。読者の目に飛び込んでくるのは、美しくメイクした女性のきらびやかな写真だ。その繊細な美には「ウワーッ!」と驚くしかない。私自身のくたびれた顔との違いに衝撃を受ける。私、こんなにキレイな状態になったことが生まれて一度もない。人はここまで艶やかに、魅力的に変身できるものなのか! メイクってとんでもない技術だと感動したのである。みごとなアーチを描く眉。複雑な色を使い分けて彩られる目。しっとりと輝く肌の質感。頬やくちびるの色も印象的だ。こんな風に変身できたら、さぞや気分がいいだろうと思った。ページを開くたびに炸裂する、まぶしく鮮烈なメイク。こうして自由に、自分を変化させて楽しむ女性がうらやましかったのである。この記事を読んでいる男性も、ぜひ「オレには関係ないことだよ」と決めつけず、スキンケアやメイクといった技術や製品がどれだけ人の印象を変え、本人によろこびや自信を与えてくれるかについて、ちょっと想像してみてほしいのである。「変化する」ことは、多くの男性が考えているより、ずっと大きな心理的インパクトがある。「変わる」ってすごいですよ。スキンケアやメイクで、人は変わる。その変化がもたらす圧倒的なきらめきを、私は美容雑誌を通じて知ったのである。

付録メッチャついてくる

付録の量が松屋の特盛級

美容雑誌がなぜこれほどに売れているか。それは大量の付録がついてくるからだ。メイク用品のサンプル、スキンケア製品の試供品。美容雑誌といえば付録であり、たくさんのおまけがついてくるのを読者は楽しみにしている。毎月書店へ行くたび、それぞれの雑誌がどんな付録をつけるかを気にして確認する習慣がついた。読者のなかには、買う雑誌を限定せず、よさそうな付録のついている雑誌を月ごとに選ぶ方もいるはずだ。私は美容雑誌の付録でスキンケアし続けていたが、毎月7冊買っているので、使っても使っても次々に付録がやってきてしまい、すべては使いきれなかったほどだ。雑誌を読んでいるだけで肌がキレイになるから不思議。美容業界には、とにかくサンプルを配って試してもらおうという、妙に気前のいい風習があり、これも私には新鮮に映った。何かっていうとサンプルくれるね、美容業界。付録の嫌いな人はあまりいないと思うが、美容雑誌の付録は毎号テンションが上がるものばかりだった。

健康記事が充実している

健康を大事にする姿勢、見習いたい

美容雑誌というと、「どうやってキレイになるか」だけが書かれているような気がするが、実は健康に関する記事がかなり多い。健康記事は欠かせない要素であり、多くの女性は健康な状態を保つことに大きな関心がある。これも発見だった。かくいう私自身はあまり健康に興味がなく、生活もだらしなく「とりあえず身体が動けばそれでいい」としか考えていなかったので、健康記事からは学びが多かった。やはり身体の状態は、常日頃から気を配っておいた方がいいのである。冷え性、肌のかゆみやかさつき、睡眠など、なるほどと思う内容ばかりだったし、生理や更年期障害についての記事もある。女性の配偶者や恋人がいる男性にとっては、女性の健康について知るためのテキストにもなると思う。何より私は「これまでの人生で、身体のことをほとんど何も考えていなかったな」と感じたことが大きかった。

美容雑誌はここがビックリ

何が書いてあるのか読めない部分がある

テラコッタピーチってなに

美容雑誌は読むのが難しい。専門用語が多すぎるのだ。「レイヤードしても軽やか」「眉にグロウな質感をプラスして毛感を活かす」「締め色なしでもOK! 立体感で十分盛れます」「赤みブラウンの口元に負けないシアーな秋色シャドウでプレイフルな抜け感」「血色チークを内入れで寄せる」。全部日本語で書いてあるのに、何を説明されているのかよくわからなかった。「内入れで寄せる」の意味が想像しにくい。特にメイクの記事は、ほとんど暗号で成立していると言っていい内容だ。「パーソナルカラーを超えるときも、色の鮮やかさか、ペールカラーを意識」といわれても、何を意識すればいいのかまったく見当がつかない。「パーソナルカラーを超える」って普通にさらっと書いてあるけど、どういうことでしょうか。また、マスタードイエロー、カッパーブラウン、モーヴピンク、カシスレッドなど、使われる色のバリエーションも豊富すぎて、「世の中にはこんなにいろんな色があるんだな〜」と勉強になった。そんなにたくさんの色知らない。こうした暗号を解読できるようになるまでの過程も、楽しいものだった。そんな美容雑誌も、いまではスラスラと読める私である。慣れってすごいね。

四十代以降の美容雑誌では、悩みがガチになる

Umeboshi in My Chin(Omoide in My Head 的な感じで)

美容雑誌は、読者を主に対象年齢別でわけているが、私は、四十代以降の女性に向けた「美ST」を特に愛読していた。「美ST」の健康、美容面の悩みは、同年代である私にとっても共感できるものばかりだった。悩みが直球。「太って指輪が取れなくなった」「顎のシワが梅干しみたいになっている」「昔の友人、複数に会うと、老けている人と若返っている人が同時多発で時空が歪む」「写真を撮られるときは、グラスを顔の横に置いて輪郭をカモフラ」など、どれも「うん、そうですよね……」と納得するものばかり。読んでるだけで泣いちゃう。美容はたたかいだ。まったく同じ悩みを持つ私にとって、「美ST」は自分の思いをもっとも代弁してくれる、親身な友だちのような美容雑誌となった。歳を取れば、いろんなところに不具合が出始めるのが人間なのだ。しかし、そこであきらめるのではなく、美容の力で対抗していく気合いが「美ST」にはある。他の雑誌とはひと味違う本気度ガチを感じた「美ST」を、他誌以上に応援している私だ。負けないで、「美ST」世代!

手かげんなしでダメ出しする雑誌がある

いや言い方よ

どの雑誌も、基本的には分別のある大人が作っているので、掲載した製品に対してひどいことは言わない約束になっている。雑誌に載せる以上「心地よい使用感です」「肌が元気になりました」とポジティブに説明するのが、雑誌と化粧品会社のあいだの暗黙の了解だ。私はそれでいいと思っているし、社会とはそのように、ある種の馴れ合いで回っていくものである。しかし、異様に緊張感のあるダメ出しを毎号のように繰り出し、それが人気の秘訣となっている雑誌が「LDK the Beauty」だ。専門家を使った製品テストを行い、シビアに採点するのが売りの同誌では「美肌どころか塗ると老ける」「ヨレすぎて鏡を見たくない」「痛いし描けないし、もはや使い道がナゾ」「ぜーんぜんうるおわないのにこの価格!?」(全部、実際に誌面に書いてある文言そのままです)と正直すぎるレビューが並ぶ。ちょっとオブラートほしいですね。しかも、この遠慮ない文言と共に、実際に売っている商品の写真とメーカー名、商品名が載っているのだから、びっくりである。こんな記事を書いて怒られないのかしら。私は気が弱いから、「LDK」を読んでいるだけでハラハラしてしまう。しかし、この雑誌はその辛辣さゆえに大人気で、多くの人に愛読されているのだから驚きである。

美容雑誌について、語りたいことはまだまだたくさんある。2月24日に刊行される私の著書、『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました』(平凡社)は、美容雑誌7冊それぞれを個別にガッツリと掘り下げた完全レビューが読みどころのひとつ。7誌がそれぞれどんな特徴なのかも解説してある。めくるめく美容雑誌の世界。ぜひ書店で手に取っていただき、いま美容雑誌はどのような状況になっているのか、その全貌を確かめていただきたいと思う。

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