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君と異界の空に落つ 第2章

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浄提寺を降りて祓えの神・瑞波と共に、旅に出た耀の成長の記録。 ※BL風異界落ち神系オカルト小説です。 ※何言ってんだか分からないと思いますが、私の作品はいつもこんなです。 ※古…
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2024年4月の記事一覧

君と異界の空に落つ2 第31話

 まぁ、分からないでもない。  さえは耀を子供と見做し、体力を鑑みて、行きと帰りで一泊ずつ家へ泊めてやると口にした。客人の屋敷は”さえ”の家より尚遠く、雨だの都合だのをつけているうちに、あっという間に数日が過ぎてしまうと聞いたから。  帰りは一人で帰れるね? と聞かれた耀は、瑞波の為に「勿論です」と返しておいた。共に聞いた善持は耀を哀れんだ目で見遣り、寝る場所もねぇから気を付けろ、と。何の悪気も無いように、平気ですよ、と返した耀は「野宿には慣れています」と笑って二人を黙らせた

君と異界の空に落つ2 第32話

 寺を降り、集落を抜ける時、再び微妙な空気を感じた耀だった。玖珠玻璃の山へ向かった時のような、何処となく閉塞的で優しくない空気のそれだ。  素知らぬ顔で畑仕事をする人や、ちらちらと見てくるものの、目が合いそうになると逃げる人、好奇心のある子供、それを叱る大人の姿。構える訳ではないけれど、変な緊張感があり、妙な気を遣うように耀は”さえ”に続いていく。  気にしなければ良いのだし、それほど気にはならないが、あちらで構えられると少しは構えてしまう。これが”人は鏡”ってやつか、と、被

君と異界の空に落つ2 第33話

『思ったよりも穏やかだね』 『陽気がですか?』 『ううん。人柄。もっと殺伐としているかと思ったよ』  殺伐……と考え込んだ瑞波であるが『昼だからだと思いますよ』と、明るいから、と言ってくる。 『夜は危ない?』 『そう思います。日の光に当たるだけでも祓われますし、浄化されますからね。日が出ている時間に外へ出られなくなった者達が、跋扈している夜の方が危ないです。闇に紛れると言うのでしょうか、妖怪が好む逢魔時が一番危ないと思いますが、魔が好む丑三刻から寅四刻も危ないですね』

君と異界の空に落つ2 第34話

「ヨウさん、どうされました?」  此処にそうした文化は無いが、ウインクするようにお嬢様が手を伸べる。 「あ……ハタナカ様……実は迷ってしまいまして……」 「迷われた……? どちらに?」 「あぁ、はい。さえさんからクサカ様宛に、手紙を預かってきたのですが」  まぁまぁ、と桜媛(おうひめ)は中々の役者魂で、送って差し上げますが、まずはうちで休まれては、と。口を挟む間もなく耀をやんわり誘(いざな)って、断る隙も与えずに気付けば塀の中である。 「今、冷たいお水をお持ちしますね

君と異界の空に落つ2 第35話

「客?」 「はい。知り合いです。お疲れのようでしたので、お水を差し上げようと、私が中へ招いていたのです」 「…………」  桜媛が父親に伝えると、父親は彼女の手に乗った菓子の皿を見たようだ。知り合いの子供に菓子まで出そうとしたようで、そんなに仲が良いのかと不思議にも思ったが。  つ、と視線を戻した先で、大人しく伏せる子供を見ると、行儀は悪いが悪いなりに、無礼くらいは知るらしい、と。 「何をしていたと言ったか」  老齢ながら伸びた背筋で、厳しく耀に問いかけた父親だ。  耀は

君と異界の空に落つ2 第36話

「こんな事があるのだな……」  憤りを通り越し、驚愕に染められて、憔悴した気配を滲ませ男が言った。 「我々、占者は先ず、それを占なって良いものか、可否を聞くために伺いの占いをする」  不思議そうな顔をした耀に対して、父親はもう少し分かり易く教えてくれるらしい。 「占わない方が良いとする占いがあるのだよ。だから我々は占う前に、占って良いものか、道具に、その先の神に、必ず聞く事にする」  聞いて、成る程……という顔をした耀に向けて、だからな、と父親は続けて語る。 「君

君と異界の空に落つ2 第37話

「こちら、以前お伝えしていた”さえ”さんからの文になります」  来る途中で迷ってしまってハタナカ様にお世話になりました。本日、ハタナカ様のご厚意で、お屋敷にお邪魔出来る事になったので、もし返事が御座いましたら明日の朝に取りに参ります。 「今、目を通すだけで構いませんので、内容を確認して頂けたら助かります」  はきはきとそれらしい事を言う、童子に目を剥いた人達だ。  桜媛(おうひめ)と彼女の家の女房だけが”くすり”と笑い、ね? この子、凄いでしょう? と、それぞれに滲ませ

君と異界の空に落つ2 第38話

 エェイ! エイ! エイ! と、気合の入った声が響く。  天井の”むくり”で、音がよく響く造りであるのだ。  一際大きな体格の男が木刀を握って素振りをし、伸びた背で綺麗に進むので、型のようなものなのだろう、と目で追った耀だった。  席を外した若が、見慣れぬ子供を連れて来たのだ。門弟達も興味津々と耀を見て、この道場で一番初めに習う師範の元へ行き、彼が教えられずとも頭を下げた様子を見遣る。  随分と身分の良い者が習いにきたものだ。一度は思い、着ている着物の”褪せ”を見る。汚らしい