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倉本酒造を訪ねて(奈良県都祁吐山町)

倉本酒造は奈良県奈良市都祁吐山町(つげはやまちょう)にある酒蔵で、『KURAMOTO SE』や『KURAMOTO R1』を醸しています。市町村合併により奈良市になりましたが、もともとは都祁村で地元の酒屋代わりに地元のためのお酒づくりをしていました。1871年の創業から今に至るまで、寒暖差の大きいこの地域で裏山から採取される水で仕込んでいます。

蔵元の倉本隆司さんは1981年生まれの二児の父。ここ都祁吐山町に生まれ育ち、東京農業大学を出て森永乳業に勤めた後、蔵に戻り酒造りをしています。昔からお酒造りをしたいと思っていた倉本さんですが、学生時代に興味を持ったのは麹や酵母ではなく乳酸菌でした。奈良県では清酒発祥の地である正暦寺において毎年「菩提酛研究会」による酒造りが行われていますが、その菩提酛においても「そやし水」という乳酸菌の働きを使った室町時代の醸造方法を取り入れていることから、倉本さんの興味は乳酸菌にありました。

就職先の森永乳業では製造部門にいましたが、当時の経験は今でも酒造りにおいて役立っているといいます。食品づくりに必要な衛生管理の基本や醸造学科時代から培われてきた科学的な物事の考え方は、倉本さんの酒造りの試行錯誤にも表れています。スタンダードラインの『SE』や『R1』は、ここ数年で大きく話題になった香り「4MMP」を特徴とするお酒。世の中に製品として出したのは倉本さんが最初と言ってもいいほどで、新しい香りのカテゴリーとして注目を浴びましたが、そのお酒造りにも試行錯誤の成果が窺えます。

もともと倉本さんには造りたいお酒というものがありませんでした。ただ森永乳業時代に、狛江の酒販店『籠屋 秋元商店』の誘いで福島県の宮泉銘醸『寫樂』を飲んだときに感動したことがきっかけで、お酒づくりへの進出を本格的に検討したそうです。とにかく酒造りがしたいと会社を辞めて蔵に戻り、父と二人三脚で学びながら、翌年には広島県の酒類総合研究所で研修を受けます。その当時の同期が、三重県名張市で『天下錦』を醸す福持酒造場の羽根清治郎さんや、福井県永平寺町で『白龍』を醸す吉田真子さんでした。

酒類総合研究所時代、自分が目指すお酒は何なのかを知るためにとにかくいろいろなお酒を飲んだそう。その中で、研修生の間でも話題になったのが今では4MMPとして認識されている香りのお酒でしたが、当時はその科学的な解明はあまり進んでおらず、実際の商品も「たまたまできた」といったものがほとんどでした。しかし、蔵に戻ってからもその香りが忘れられなかった倉本さんは、再び酒類総研に問い合わせをして4MMP研究の第一人者、飯塚幸子先生と出会い半年間の共同研究を進めました。

4MMPの香りを出すには一般的に「低グルテリン米(低たんぱく米)」を使用するのが良いとされています。これはもともと腎臓病患者向けに使用されていたお米でしたが、低グルテリン米の一種『春陽』を使って『KURAMOTO SE』を醸した際、4MMPの再現に成功。香りの生成と原料の正体が判明したことで全国の酒蔵から『春陽』というお米が注目を浴びることになりました。

しかしこの4MMPという香りは扱いが厄介で、ソーヴィニヨンブランの特徴的な香りとされていますが、飲用時にはときに「猫のおしっこのような香り」とも評され、好みが分かれることも多いそう。同時に、4MMPは醸造においても技術が求められ、特に『SE』や『R1』が目指す低アルコールながら甘みを感じられる厚みのあるお酒を目指そうとすると、様々な制約に当たるといいます。他の香りとの競合やアミノ酸、グルコースとのバランスを考えると「ただ低グルテリン米を使えば4MMPが出る」と簡単には言えません。そうした絶妙なバランスの味わいと香りを持つお酒を造るために、現在も飯塚先生の協力を仰ぎながら4MMPを中心とした醸造と研究における科学的なアプローチに邁進しています。

倉本さんの酒造りは「日本酒を飲む人が増えるような酒造り」だといいます。それには「シーン(scene)でお酒を選んでもらう」ような見せ方をしたいというのが本心ですが、自身ができるのはお酒造りまで。販売は全国の特約店(酒販店)に一任しています。お酒造りから新しい消費者に対してアピールできることもあるはずだ、と始めた取り組みの一つがこの新しい香りです。まだまだ生産量が限られている倉本酒造ですが、科学的なアプローチによる試行錯誤と新しい飲み手獲得に向けた造り手としてのチャレンジに、期待が集まります。

倉本酒造株式会社
奈良県奈良市都祁吐山町2501
Web: https://kuramoto-sake.com/
Instagram: https://www.instagram.com/kuramoto_sake_nara/

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