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先駆者

音楽や芸術の分野で、強い衝撃が多くのフォロワーを生む現象は珍しくない。しかし、先駆者が革新を続ける限り、後進がオリジナルを超えることは容易ではない。

Sine Qua Nonというワインがある。カリフォルニア・ワイン好きの間で長く崇められてきた銘柄だ。漫画「神の雫」で使徒の一つに選ばれ、随分と話題になったこともある。今でも好事家達の憧れのワインと言って良い。

創設者であるManfred Klankl氏は、元々、ワイン業界の異邦人だが、趣味が高じて作ったワインがロバート・パーカー氏に高く評価され、後のカルトワインであるSine Qua Nonを創設した。まるでガレージ・ロックのバンドが突然ビルボード・チャートの上位に躍り出るような、華々しいデビューだった。

*詳細は以下を参照

Sine Qua Nonの人気が不動のものとなる中、2007年、Manfred氏は更にNext of Kynの名でSyrahとTouriga Nationalを主とした二種類のワインをリリースした。

Next of Kynのワインは、Manfred氏がSanta BarbaraのOakviewという無名の産地に開墾したCumulus vineyardの果実から作られている。なお、Sine Qua Nonは、買い葡萄と自社畑の果実を併用している点に違いがある。

Next of Kynのワイン名は、リリースの度に番号が一つずつ変わっていく。リリース開始から12年目に作られたNo.12というワインは、Jeb Dunnuck氏によれば、47.7% Syrah、23.4% Grenache、21.3% Petite Sirah、5.6% Mourvedre、Petit Mansengのブレンドで、うち41%の果実は全房発酵が行われているという。

黒系果実を中心に、複雑な芳香がグラスから飛び出してくる。飲み口はシャープで滑らか。超高圧で圧縮したかのような猛烈な果実の凝縮感。極めて高いアルコール度数が想像されるものの熱は一切なく、過剰な突出は存在しない。むしろエレガンスすら感じる。とてつもなく長いアフター。唯一無二のワインと言って差し支えないだろう。

Manfred氏のワイン作りの系譜は、今や様々な生産者たちに受け継がれている。筆頭は、同氏の息子夫婦が作るFingers Crossed(旧Faethm)で、多くの評論家から高い評価を得ている。もう一つは、Andremilyだ。Sine Qua Nonで働いていたJim Binns氏が作るワインは、好事家が取り合う人気銘柄となっている。最近、San Luis ObispoにあるSlide hill vineyardをLindequistから買収し、更なる発展が期待されている。

有能な後進が育つ中、高齢となり、一時バイク事故で生命の危機に陥ったこともあるManfred Krankl氏が、今後も先駆者として先頭を走り続けられるかは分からない。ただ、Sine Qua Non、Next of Kyn、The Third Twinという、名実共にカリフォルニアでトップレベルのワインを次々に作り上げてきた手腕を考えると、後進がオリジナルを超える日はまだ遠いように思われる。

本日のワイン:
Next of Kyn No.12 2018
98pts
http://nextofkyn.net

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