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気象の不確実性をマネジメントする

この記事は、第4回気象ビジネスフォーラムWXBC主催:2020年2月4日開催)のトークセッションに登壇した際に、ショートプレゼンした内容についての解説です。全スライドはこちらをご覧下さい。

天気予報の予測精度は日進月歩、近年はかなり精度が高くなっています。それでも100%当たるものではなく、時に大きく外れてしまうこともあります。天気予報なんて当てにならないと、揶揄されることもしばしば…
それでは天気予報はまったく使わないか、というとそんなことはないと思います。天気予報は100%は当たらないことを受け入れ、その前提に立てば、うまく活用していくにはどうしたらよいか、議論ができそうです。

気象予測の不確実性をコントロールし、最大限に恩恵を受けようとする試み、それが不確実性のマネジメントのテーマです。

不確実性のマネジメントの概念を理解するため、まずは超簡易な仮想的ケースを考えてみましょう。完全にバーチャルな問題設定で現実離れしたところもありますが、あまり細部にツッコミを入れずに、クイズだと思って考えてみて下さい。

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あなたはある物品の管理者です。その物品は価値が500万円ありますが、気温が25℃以上になると劣化してしまい、価値がゼロになるとします。そこで管理者のあなたはエアコンで空調管理しますが、エアコンは外気温が25℃未満であれば電気代100万円で済みますが、25℃以上になったら200万円掛かるとします。無駄な電気代も避けたいあなたは、天気予報で予想気温が25℃以上だったらエアコンのスイッチをONにします。

さて、ここで天気予報の予想気温が24℃だったとします。あなたはエアコンのスイッチをONにしますか?それともOFFのままにしますか?

繰り返しになりますが、このケースは不確実性のマネジメントの概念を理解するための仮想的なものですので、不自然な点はいろいろあります。ですので、エアコンの電気代が25℃を境に100万円も不連続に異なるのはおかしいとか、500万円の物を保管するのに200万円もコストをかけるのかとか、気温を感知して自動でエアコンがつくようにすればいいとか、そういったツッコミは胸にそっとしまっておいてください。純粋に思考実験の一種、ゲームの一種だと思って、楽しみながら考えて下さい。

さて考えはまとまったでしょうか?では私が用意した答えは…

どちらでも、基準を決めて運用すればよいと思います!

ただし、気象予報士としては気温予測が1℃くらい外れることはあることを知っているので、エアコンのスイッチをONにする「検討」をして欲しいとは思います。

さてそれでは、24℃予報だったら毎回スイッチをONにした方が良いでしょうか?でもそれでは、単に閾値を25℃から24℃に変えただけ、とも言えます。そこで天気予報が外れる可能性を考慮した判断をするため、不確実性のマネジメントの登場となります。

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不確実性のマネジメントでは、確率予報の考え方を導入します。例えば過去データをたくさん集め、予想気温が24℃だったとき、実際には何℃だったのか調べて集計すると、図のように予想気温が24℃のときの実況の出現分布が得られます。これを予測の不確実性の大きさを表す確率分布として活用します。
(ちなみにアンサンブル予報を使ってこの確率分布を作る方法もあります)

さて集計の結果、予想気温が24℃のときに実況が25℃以上だった割合が2割だったとします。すなわち、予想気温が24℃のときに20%の確率で25℃以上になるとします。このときエアコンをONにするかどうかで、以下のように考えられます。

(a) エアコンを付けない場合
20%の確率でその物品が劣化して500万円の損失
(b) エアコンを付けた場合
20%の確率で電気代200万円、80%の確率で無駄な電気代100万円

このように整理すると、損失やコストの期待値、まとめてロスの期待値が計算できます。

(a) エアコンをつけない場合
ロスの期待値 = 0.2 × 500万円 + 0.8 × 0円 = 100万円
(b) エアコンをつけた場合
ロスの期待値 = 0.2 × 200万円 + 0.8 × 100万円 = 120万円

期待値を比べると、エアコンをつけない場合の方が小さい値となっています。すなわち(a) エアコンをつけないという運用を続けていった方が、トータルでロスを小さくできるということになります。

ここで、予測の不確実性を少し変えてみます。予想気温が24℃のときに30%の確率で25℃以上になるとします。この場合のロスの期待値は以下のようになります。

(a) エアコンをつけない場合
ロスの期待値 = 0.3 × 500万円 + 0.7 × 0円 = 150万円
(b) エアコンをつけた場合
ロスの期待値 = 0.3 × 200万円 + 0.7 × 100万円 = 130万円

今度はエアコンをつけた場合の方が、ロスの期待値が小さいことがわかりました。この場合は、(b) エアコンをつけるという運用を続けた方が良い、ということになります。

つまり予測の不確実性が異なると、期待値が変化して最適な判断も変化するということです。この他にも、予想気温が異なると、物品の価値が異なると、電気代が異なると、期待値が変化して最適な判断が変わってきます。

すなわち不確実性のマネジメントとは、気象予測の不確実性を活用して、利益の期待値を最大化(損失の期待値を最小化)し、意思決定に活用しようとする考え方なのです。

気象予測は本来このような不確実性・・・ブレ幅や外れる可能性を持った情報だと理解した上で、最適な使い方を考えていく必要があります。しかし、社会において不確実性のマネジメントのような考え方に基づいて気象予測が使われている例は、あまりないと感じています。

不確実性のマネジメントは、例えばエアラインの運航可否判断や、電力マネジメント、商品の発注・在庫管理、気象に関する最適な人員配置などで役に立つのではないかと思っています。
不確実性のマネジメントに基づいた気象予測の活用が広がり、今まで以上に価値ある情報が社会に提供されるよう、私も気象予報士として貢献したいと思います。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

【参考論文】冨山芳幸(2017)
予報の不確実性を知って利益を改善する:太陽光発電事業での可能性
天気, 64, 85-91.


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