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思いの丈

その知らせを聞いた時、身体から意識がふわっと浮いた。そしてその後から文字の上を目が滑っていく。何度も何度も読み返す。滑っては戻りを繰り返す。浮いたままの意識が少し身体に戻ってきた時、心臓がバクバク脈打って涙が溢れた。だけどまたすぐ涙は止まり、意識がふわっと宙に浮く。

貴方との出逢いは高校1年生、初々しくて瑞々しい日々の途中。私が中学3年間片想いしていた人と同じ高校に通っていて、私が通っていた高校の友達の地元の友達。よくある繋がり、よくあるきっかけだった。初めて会った日にオールをしてそこから私達は親友になった。私は人を信用するのが苦手で、友達だと呼べる人も少ない。ましてや異性の友達なんて出来ないと思っていた。だけど貴方はあの一晩で私の親友になった。フィーリングや価値観が似ていたから、放課後は河川敷で落ち合って、よく恋愛相談をし合っていた。お互い辛くて泣く事もあったね。何があっても貴方だけは味方だと思えて乗り越えられた事は数多くあったよ。社会人になってからはウィルコムをプレゼントしてくれて、遠く離れた場所から支えてくれていた。貴方の新しい出逢いや恋の話を聞くのも大好きだった。“もしお互い出会いがなく老後になったら一緒に住もうね”と言い合っていたね。二人で老後にひたすら怯えていたのを私はずっと覚えているよ。だけど先に結婚してごめん(笑)私が結婚してからはお互い連絡もグッと減ったけれど、毎年お誕生日のお祝いをラインでしてくれるマメさも本当に好きだった。もう貴方からしかきてなかったよ!あ、変な呼び名で呼ぶのも大切な宝物だった。お互い仲良いのに“さん”付けで呼び合うのも心地よかったんだ。貴方との思い出の中に嫌なことなんて一つも無かった。本当に一つもなくて、目を瞑って想い馳せると、笑顔と落ち着いた声と笑い方が私を笑顔にしてくれる。

もうすぐ日本に帰国する私は、貴方に伝える事もせず、勝手に会うつもりでいた。sonにも会ってほしかったし家に招いてhusbandとみんなでご飯を食べる事も決めていた。誘ったら、貴方は絶対来てくれるからもう私の中で決定事項だった。ジムニーにも乗せてほしかった。かっこいい愛車買ったばかりだったでしょ?私は、貴方のInstagramのストーリーズでジムニーの写真を見る度にコメントしては羨ましいと嘆いていた。これからこのジムニーで色んなところへ行くんだな。いずれその話も直接聞けるんだな、楽しみだな、って全部全部勝手に思っていた。思っていたのに。

なんで、どうして、と問うたって答えが返ってこない事は分かっている。だってもう10年程大人として過ごしているので、このような事は無駄な事だと頭では分かっているのだけれど、どうしても飲み込めない。なんで貴方だったのか、なんで貴方じゃなきゃダメだったのか。いくら考えても分からない。本当に優しくて優しくて繊細で素敵な人なんだ、貴方は。もっといっぱい人生を楽しむべき人、なのにどうして。

思いの丈をここに綴れば何かがどうにかなるかと思ってここまで打ち込んでみたけれど、私の知らない現実が、知りたくない現実がそこに転がっているだけで、自分が綴った文字の上でさえ、目も心も滑ってしまっている。今の私は、転がった現実を拾うことが出来ない。ただ少し斜め上からそれを眺める事しか出来ない。

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