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Paul McCartney & WINGS - 1972

[RADIO DAYZ] 1972 あの頃ラジオから流れていた懐かしい名曲を紹介します。

1970年ビートルズ解散後、メンバーがソロ活動を再開していく中で真打ポール・マッカートニーが71年に堂々の名盤『Ram』をリリースします。そして徐々にレギューラーのバンドメンバーを固めながら、新たな創作活動を充実させてシングル盤を連発していきます。

’72年2月、WINGS名義での最初のシングル「Give Ireland Back to The Irish (アイルランドに平和を)」をリリースします。ミディアムテンポで案外ハードなロックチューンです。ポールにしては珍しく政治問題を扱った曲。BBCでは放送禁止になりますが、UKチャートでも16位にランクインします。

ポール自身がアイルランドにルーツをもつようで、同年1月に北アイルランドで起きた民間のデモ隊に軍隊が発砲して死者が出た事件に衝撃を受けたポールが急遽制作し、予定していた楽曲を差し替えてリリースしたとのことです。そんな急拵えとは思えない出来に、やっぱりポールは天才だなと感心してしまいます。アイルランドのチャートは当然として、日本でもチャート1位になります。


そして同年5月、WINGS第二弾シングル「Mary Had A Little Ramb (メアリーの子羊)」がリリースされます。ポールお得意の牧歌的なスタイルの曲です。ポールとリンダの長女メアリーのために書かれた童謡とのことで、リンダの他にメアリー本人やリンダの連れ子のヘザーなど、新しいマッカートニー一家が総参加していて、どこか拙い長閑なコーラスが良い感じです。

UKチャートでは9位、USチャートでは28位を記録しています。


そして同年12月、この年3枚目のシングル「Hi Hi Hi / C Moon」がリリースされます。アルバム次回作のセッション中にシングル用にレコーディングされました。テンポの良いロック・ナンバーで以降のWINGSのライブでは定番となります。歌詞の一部に性的な表現があるとして、またもやBBCでは放送禁止となってしまいます。代わって両A面扱いの「C Moon」がUKラジオではよく流されていたそうです。WINGSのミニツアーでも演奏されたこともあり、UKチャートで5位にランクインする大ヒットとなります。

このジャケット写真を見てお気づきかと思いますが、どちらの写真も裏焼きです。ポールが右利きポジションでベースを弾いています。

このシングルのジャケットは各国で異なっています。同じ写真素材を使用して別デザインのジャケットも海外には存在して、日本と同様に右利きポジションの写真になっています ※(1)(2)(3)。よくこのジャケットでOKが出たものかと不思議でなりません。仮に間違えに気付き、ジャケットを印刷し直していたらリリース予定日に間に合わないとかの事情があったとしても、これはダメでしょ。

※(1)当時、こうした印刷に使用する写真素材はポジフィルムでした。フィルムは現物を見ると表裏は分かります。なので印刷所に入稿する時点で間違えた可能性はありません。そもそものデザインが変わりますしね。多分、Apple社から各国のレコード会社に表裏を間違えてデュープ(複製)したものが届いた以外に考え辛いです。

※(2)さらに、初めから正しい写真が提供されていたら、このデザインにならなかったような気がします。それは曲名の配置で、当初のものはポールが「ハイ…」と言っているように見えますよね。修正したものは明らかに不自然です。差し替えたデザインは、既に流通しているものとの違和感をできるだけ少なくしようとする意図が感じられます。ということは担当したデザイナーはポールが左利きだということを知らなかったのではという疑惑も浮かんできます。仮に知らなくても、発注したレコード会社の担当が知らないはずがありません。ということは、担当者のチェックが甘かったということに・・・うぅむ、妄想が膨らみます(笑)。

※(3)もう一つ言えば、当初の盤はC Moon面の右下に「東芝音楽工業株式会社」と写真に白抜き文字で印刷されています。差し替えられたものは白窓に「東芝EMI株式会社」と墨文字で印刷されています。写真に白抜きで文字を入れるには、写真を印刷するのに必要な4色分解(YMCB)した印刷用の製版フィルムを4枚を作り直す必要があり、費用が嵩みます。しかし白窓にしておけば墨(B)版だけを部分的に直せば修正が可能なので安価で対応できます。なので、既に東芝EMIに社名変更する可能性があった時点での作業だったのかなと推測されます。ということは修正ずみのジャケットで「音楽工業」のものも存在している可能性が・・・(汗)。

ちなみに曲名の部分は金色なので、もしかしたら四色+特色(金色)の5色の版で印刷している可能性もあります。ヒットが見込まれるポールのシングル盤ですから、製作費予算も上積みしていることも考えられます。そんなジャケットを差し替えるとなると、全くの他人事ですが、本当に大変でしたねと苦労が偲ばれます。

こうして正しい写真に差し替えられた別ジャケットの盤が、同年のクレジットで流通しています。コレクター泣かせです。このシングル盤を見る機会があれば、気にしてみてはいかがでしょうか。自分が持っているのはどっちだろうか…そもそもどこに仕舞い込んだのか、まず発掘するのが大変です(大汗)。

https://www.discogs.com/ja/release/11176600-Wings-Hi-Hi-Hi

カップリングの「C Moon」とは三日月のことですが、ここでは「丸」の象徴として用いられているそうです。途中の歌詞に「L7」という言葉があり、こちらは「四角」のことで頭の固い人のこと。それに丸を合わせて穏やかな性格になるという意味なのだそうですが、どこかのんびりとした曲調なので、三日月を眺めながら「気持ち良いねぇ」なんて雰囲気で聴いているだけではダメですかね(笑)。

ちなみにこの曲でポールはピアノとマリンバを叩いていて、ベースはギターのデニー・レインだそうです。この辺りはビートルズ時代のレコーディング風景を思い起こさせます。


私はこのシングル盤は珍しくリアルタイムで買いました。ラジオでも当然毎日のように耳にしていました。当時はこれらの曲はアルバム未収録でシングル盤だけのリリースでした。後にアルバムのCD化に伴い、前後にリリースされた作品やベスト盤に収録されていきます。

どれだけ気に入っていたのか、毎朝これらの曲を一度かけてから中学校に登校していました。毎朝この曲を聞かされていた家族には、いい迷惑だったことでしょう(苦笑)。

この年、2月の大学巡業ツアー?と7~8月のヨーロッパツアー、さらに次回作のアルバムのリハーサルとレコーディングを進めながら3枚のヒットシングルをリリースするなど、ポールの創作意欲に火がついたと言えます。そんな勢いを肌で感じていたのかなと思います。


ラジオに夢中になっていた頃の思い出をこちらでも語っています。

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