草枕
グレン・グールドは草枕を愛読していたらしい。彼のバッハと草枕の世界は、静かな美しさで通底している。ひとつの樹木を見ている時のような深い感慨がある。メランコリックであると同時に楽観的な、特殊な優しさがある。
高校時代から夏目漱石は好きだった。文体に人間が感じられた。ブレーズ・パスカルの言葉を思い出す。
文体。自然な文体を見ると、人はすっかり驚いて大喜びする。なぜなら、一人の著者を見るのを期待していたところを、一人の人間を見出すからである。
漱石の作品のうち、殊に草枕は好きだった。医者として、現実の日本社会が抱える病根や矛盾に触れ、どうしても厭世的になる時、不意に思い出すのがこの小説だった。
しばらく、草枕を熟読してみよう。固より急ぐ旅ではない。
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