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鉄砲隊初めての演武

「嫌だ! 怖い! 家に帰りたい!」
4月29日、設楽原歴史資料館オープン記念日、初めての演武で、甲冑を身に着け鉄砲に火薬を詰めながら私は心の中で叫んでいた。

「何が怖いの? 教えられた通り、練習通りやればいいじゃない。大丈夫だって!」
そう言い聞かせるのだが手も足も震えだす。
初めて銃を持ち火薬を使って撃ったのは、一か月前の合同練習だった。作務衣姿で12発、不発時の所作も教えてもらい個人練習を重ねてきたのだからそれを活かせば良いのだ。とは解っているのだが、新たな不安材料が増えていく。
ワラジがきつく、踏ん張ると足先がキリキリ痛む。籠手の締め加減が悪く銃を構えると両脇が引きつる。腰紐の締め位置が高すぎて鎧の肩が浮き上がり銃を構えると肩と銃がぶつかってしまう。さらにそのせいで右脇の紐がほどけてしまった。加えて初めてつけた兜の重みで首が痛くなった。
そんなことが一々気になった状態で隊長の合図が頭に入るはずがない。

放て!の合図で・・・


放て!の合図で引き金を引くと右側の隊員から順番にバンバンと銃声が鳴る。
「ああ、しまった! 順射(順番に撃つこと)なのに・・・1番の人と一緒に撃ってしまった。」

しかも、なんでちゃんと聞いていなかったんだろう?と考えているうちに次の合図が何の構えだったかを聞き漏らしてしまった。
固まっている私に隊長が再度「千鳥一斉!」と言ってくれたのだが、頭の中が真っ白でもはや「千鳥」がどういう姿勢だったか忘れてしまっている。

そんな失敗が続くと今まで出来ていた基本動作すら出来なくなる。
火縄が火バサミにしっかりはまらず引き金を引く前に火縄がパラリと落ちる。不発となり一歩前に出て一人だけもう一度やり直すのだが、腕力の無い左腕が悲鳴をあげだし、銃の重みに耐えられずに震えだす。
「ああ、嫌だ、家に帰りたい」
そんな風に思いながら撃つとろくな結果にならない。二度続けて不発になりリタイヤ。後ろに下がって待機となった。

もう撃たなくても良くなった、とホッとするするも直ぐに自問自答が始まる。あれがいけなかった、これがいけなかったと後悔と反省で胸が一杯になり、自分ならできるという自信がぐらつき「おいおい、大丈夫か?」と気弱になってしまった。


そんな失敗続きのデビュー演武となったが、その後、隊員の方々が代わる代わる声をかけてくれ、次には失敗しないようにと助言や指導をしてくれたので、くじける間もなく気持ちの切り替えが出来てありがたかった。
それ以降の演武では余計な不安材料をなくし銃を撃つことに集中できるように、時間をかけて身支度をし紐の結び方等に気をつけている。

約一年たった今、不発や失敗はあるものの初回のように家に帰りたいなどとは思わなくなった。
それよりも「弾込め」から「放て」までの僅か数十秒の動作に子供のように夢中になっている自分を発見し少し驚いている。周りの隊員の方々も楽しそうで見ていて心強い。所作やこだわりも大変勉強になる。
今後は、隊長の言う「一放 一念 浄の音放つ」が心と身体に染みついて、堂々と演武が出来るように体力と精神力を身に着けていきたいと思っている。

この記事は、愛知古銃研究会発行の「あい砲」22号に載っているものです。