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後ろ姿でしかわからない彼女

あ、この髪は…
後ろ姿を上から下までモニターした。
そうだ絶対、あの子だ。

通勤電車の時間を変えるまで朝いつも一緒になっていた彼女だ。
一年ぶりくらいだ。
なぜ思い出したかというと、とにかく髪の毛先まで綺麗だからだ。
ポニーテールにしていて、その先がくるりんと縦ロール。
その毛先までもがツヤツヤなのだ。久しぶりのその日も、やはりツヤツヤで綺麗だった。

毛先まで毎日手をかけている人はあまりいないように思う。
髪型がおしゃれだったり、綺麗にまとめてあっても、毛先が少しパサついている人が多い。
まあ、なかなかここまではねえ…。

彼女はおそらく20代か30代。OLっぽい。
いつも膝丈のスーツに黒い無難な靴。
きっと毎日他の人と同じように忙しいと思うのだが、とにかく髪の毛が綺麗だ。
降りて歩き始める時、ポニーテールの先を手で一度丁寧になでる。
いやもうこれは絶対毛先まで意識が届いている。

同じ駅で降りるのでその後ろ姿を毎日見ていた。
だから後ろ姿でわかる。
毛先でわかる。

なのに…

顔は知らない。
見た覚えがない。
私が見ていたのは本当に毛先だけだ。

久しぶりだったその日も、電車を降りて後ろを歩いたときに気づいた。
真正面からじゃあわからなかっただろうなあ。
でもやっぱりツヤツヤで綺麗だったのでなんか満足。

その夜、私はドライヤーの熱から髪を守るというヘアミストを、パッサパサでボッサボサの髪につけてみた。



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