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取材日記 仕事で命を奪う医師

 取材者と出会い、たった一度で心を開いてくれる人はめったにいません。やはり、どこかに警戒心が働いているのでしょう。しかし3回、4回と取材を回数を重ねるうちに、何となく通じ合える人は徐々に本音を出してきます。今でも忘れられないのは、40代の産婦人科医の言葉でした。

「僕は人の命を救いたいと思って医師になりました。ところが、現実はまったく違っていました。救う命より、奪う命のほうが圧倒的に多いんです」

 それは中絶を意味していました。ある日、女子高生が友人と数人でクリニックを訪れ「先生、堕ろしてよ」とケラケラ笑いながら言ったそうです。彼は「命を奪おうと思って来たなら笑うんじゃない。それに君は未成年だ。親と一緒に来なさい」と叱りました。

 中絶は若い子ばかりではありません。実は40代後半から50歳くらいまでで、もう妊娠しないと思って避妊していないとき、妊娠するケースがかなりあるそうです。

 信じられないことに中絶を勧めるのは決まって義理の母。特に田舎では「恥かきっ子だ。みっともないから堕胎しなさい」と迫るんだとか。母体よりも世間体を気にするわけです。同じ女でありながら、その痛みもわからない姑がいることに驚きました。

 少子化だ、子どもが生まれないと言いながら、近年日本では、年間で15万人が中絶されているそうです。赤ちゃんが生まれることは、おめでたいと思っていたけど、望まない妊娠も世の中にはたくさんあるだなと取材を通じて知りました。

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