見出し画像

この仕事を始めたきっかけ

 僕をライターの世界へ導いたのは、親しい友人でした。彼は悪い女性に騙されて負債を抱え、複数の借金取りから逃げて自宅に帰ることができなくなっていたんです。「かくまってほしい」と言われ、断り切れず僕のアパートにしばらく泊めてあげることに…。

 そんな中、お風呂から戻ってくると、ニヤニヤ笑いながら僕の日記を勝手に読んでいたんです。

「これは面白い。ライターの素質がある。俺、実はライターやっていて、自己破産したら、またこの仕事に戻るつもりなんだ。一緒にやらないか?」
 
 冗談で言ったのかと思ったら、本気だったようです。破産宣告して借金取りの追及がなくなると、少しずつ取材の仕事を回してくれるようになりました。一番最初の取材は結婚相談所。そのときの様子は、今でも鮮明に覚えています。

 思い出してみると、今まで何一つ褒められたことがなかったのに、作文だけは小学生の頃から先生に評価されていました。

 自分のことは案外わからないもので、他人の評価でこの世界に入る決心がついたんです。10代の頃まで、親からはどうしようもないダメ男と思われていたのに、仕事を通じて初めて自己肯定感が満たされるような気がしました。

 人生に大きな成功なんてめったにないから、小さな成功体験を積み重ねることが自分を好きになるきっかけとなります。同居した友人のおかげで、最も自分に向いている楽しい仕事に就くことができました。

 もし、あの日に彼をかくまっていなかったら、今はどんな生活をしていたのでしょう。きっと向いていない仕事を生活のためと割り切って、続けていたような気がします。 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?