アグネスタキオンの憂鬱

 ごめん、タキオン。君は何も悪くない

 悪くないもんか。元はと言えば私の言い出した事だろう?止めないでくれ!


 深い深い沼。どろどろとした焦燥感。今までの自分の怠け具合を悔やむことすら烏滸がましい
 ああどうしたものか。こればっかりはいくらこの私でも解決しようが無い。誰かに助けを求めるか?いや、そんなことをしては今後に差し支える可能性が・・・
────────ふぅん。

 偉く間抜けなため息だった。私らしくもない。
 課題を目の前に頓挫するのはいつものことだが、今日はいつもより難題なようだ。

 どうしたものか

 こういうものは考えれば考えるほどわからないものである。いっそ考えないと言う手もあるが、それで最高の結果が出るのかと言われたら間違いなく首を横に振るのがこの私だ
 日頃誰かに助けて欲しいなんて思ったこともないから、こう言う時どうすればいいかもわからない。ので、こうすることにした

「カ〜〜〜〜〜フェ〜〜〜〜〜〜」

「なんですか?いつにもましてうるさいですね、実験なら付き合いませんよ。と言いたいとこですが・・・」

 彼女なりに何かを察したらしい。それもそうだろう、自分でも過去一情けない声を出した自信がある。加えて今の私の姿も情けない。机に突っ伏して頭を両手で抱えていることなど、実験に行き詰まってもやった覚えがない
 とてもとても恥ずかしい。同居人の前以外では見せられないだろう

「もう君しか頼れない!たのぶ!このぼぼいぃぃいい」

 顔を埋めているので半分以上聞き取れないだろう。もう自棄だ、どうにでもなれ。ここが野原なら大の字になって太陽にいじめられたい。そんな心境だ

「それが人にものを頼む態度なんですか?まあいいですけど」

 はぁ、とこちらもため息をひとつ。すると、しなしなとした声で話し始めた

「頼みというのもだね、私の『私服』を考えて欲しいんだ」

「・・・・・・・・・・・?」

 私服?あのアグネスタキオンが、私服?いつも実験ばかりで部屋を爆破させたり自分の担当トレーナーを発光させているアグネスタキオンが・・・?
 なにがあったのだろうか。・・・ん?あぁなるほど、そういう

「いいですよ」

「ホントかい?!」

 ガバ!という効果音がこれほど似合うシーンもなかなか無いだろう。勢いよく起き上がった彼女の目はいつになく爛々としている。相当悩んでいたのは容易に想像できた
 なので珍しく、私なりに彼女に手を差し伸べることにした

「それで、いつまでに用意しないといけないんです?」

「明後日だ」

 明後日・・・。
 時間がない。
 私たちはすぐにショッピングモールへと足を運んだ



「ありがとうカフェ、この恩は絶対に返すよ。コーヒーが紅茶味に変わる薬なんてどうd」
「結構です」

「冗談さ、今度美味しいコーヒー豆でも贈らせてもらうよ」

 やや食い気味に断られたので急いで訂正する。まあ、もともとそうする予定だったが

「━━━━楽しんできてくださいね」

「ああ!もちろんだとも」

 こうして意気揚々と、自室を後にするのだった


 迎えた当日、待ち合わせ場所に向かうと先に待っていたのは彼の方だった。マメな男だな、本当に

「待たせてしまってすまないね、トレーナーくん」

 お。とスマホから目を離して私の方を見る。すると

「タッ━━?!」

 という今まで聞いたことのないような細い悲鳴と共に、顔を手で押さえ悶え始めた
 途端に恥ずかしさと辛さが滲み出てきた
 そんなに悪かっただろうか、私の服は

「見るに耐えないのであれば今日はもういい!帰らせてもらう!!」

 あまりにも悶え続けるもんだから腹が立って踵を返した

「待って」

 手を掴まれた

「ごめん、タキオン。君は何も悪くない」

「悪くないもんか。元はと言えば私の言い出した事だろう?止めないでくれ!」

 ぐぬぬぬぬと無理やり手を引く

「違うんだタキオン、とても綺麗だよ」

 スッと頭の中がクリアになると同時に顔から火が吹き出す。今着ている白いタートルネックとも相待って、余計に映えていることだろう。それくらい、今の私には効果的な言葉だった

「ふ、ふん。最初からそう言えばいいんだ。回りくどいねぇ、本当に」

 ほっ。とため息をひとつ
 
 
 こうして、彼女の鬱々とした悩み事は綺麗に解決されたのであった


あとがき

 可愛い(確信)
 いつかやってみたかったお題を消化できてよかったですわ。ネタ的にはn番煎じですが、書いてて「はぁ〜俺のタキオン可愛いなぁ」となっていたのでいいでしょう
 こう言うのはまた違う子でもやってみたいですね。
 ではまた

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