膝関節痛への対応(JAMA reviewより)

一般内科外来や, リウマチ膠原病外来をしていると, 膝痛の訴えを聞かない日はない. 
どこかでまとめて総論的に勉強できないものか, と思っていたや矢先, JAMAからReviewが出たではないか. (JAMA. 2023;330(16):1568-1580. doi:10.1001/jama.2023.19675)
これは読むしかなかろう.


膝の痛みの主な原因3疾患

■ 膝の痛みは日常診療の5%を占める主訴.
□ 主な原因は変形性膝関節症(OA. >40歳の23%で認められる),
 膝蓋大腿疼痛症候群(patellofemoral pain syn. 生涯罹患率25%)
, 半月板損傷(成人の12%)の3つ.

変形性関節症(OA)

■ OAは慢性経過の関節症.
■ 関節軟骨や軟骨下骨の局所的な異常だけではなく, 半月板, 滑膜, 靭帯, 周囲筋, 脂肪パッドの変化を伴うため, もはや軟骨中心の摩耗性疾患とは考えられていない.
■ 40歳以上の23%[20-26]で膝のOAが認められ,

 生涯(85歳まで)の症候性の膝OAの罹患率は45%[40-49]と予測される.

 45歳以上の成人でXPを評価すると61%でOAの変化を認める.
■ リスク因子は,
 
 女性 OR 1.68[1.37-2.07],
 肥満 OR 2.66[2.15-3.28]
 
 過去の膝損傷 OR 2.83[1.91-4.19]が挙げられる.
 
 他に職業(膝の屈伸, 負荷が多い職業), アライメント不整
 大腿四頭筋筋力の低下が関連している.

膝OAの症状/所見頻度

■ 症状は増悪, 改善を繰り返しつつ徐々に増悪する.

膝OAの診断

■ 2022年のNICEガイドラインでは, 
 
・45歳以上で
 
・活動に関連した関節痛があり, 
 
・強張りは<30分, または認めなければOAと診断可能としている.
□ 非典型的な症例(長時間の強張りや安静時の疼痛), 他の疾患を考慮する状況(CPPDなど), 急速に増悪/進行する場合(rapidly progressive OA), 臨床所見が変化した場合(発赤や腫脹, 夜間の疼痛)では画像や関節液検査を推奨.
□ 通常XPは診断には不要であるが, OAのステージングや手術の効果を検討する際には有用な情報となる.

■ ACRやEULARの基準では, 関節の軋轢や骨周囲の圧痛の有無,
骨肥厚などの所見も含まれる.

OAの治療

■ OAの治療の中心は症状の緩和であり, 関節構造の改善を目的とした治療はまだない.
■ 対症療法では,
 運動療法, 体重減量(肥満の場合), 歩行補助具/装具
 
 鎮痛薬(NSAID, 外用など)
 
 上記で効果が不十分な場合にステロイドの関節内注射を検討.
■ 外科治療は上記対応でも疼痛がコントロールできない場合, 関節機能が障害されている場合に考慮する.

OAの非薬物治療
OAの鎮痛薬の効果

■ Metaでは, アセトアミノフェン, 外用NSAID, 経口NSAIDで鎮痛効果や機能への影響はほぼ同等.

関節注射の効果

■ ステロイド関節注射は鎮痛, 機能改善効果があるが, 長期的には微妙
■ また, 長期的には関節構造の菲薄化のリスクがある.
□ 有症状の膝関節OAでエコー上滑膜炎所見を認める140例を対象としたDB-RCT
・3ヶ月毎にトリアムシノロン(副腎ホルモン) 40mg 関節内投与群
 vs 生理食塩水 関節内投与群に割付け, 2年間継続し, 年1回膝関節のMRIを評価し, 関節軟骨量と関節構造を評価. 
また疼痛をフォローした
・アウトカム: 関節軟骨の厚みはステロイド注射群で有意に菲薄化する結果.
 軟骨へのダメージも多い結果であった (JAMA. 2017;317(19):1967-1975.).
■ ヒアルロン酸は鎮痛効果なし.

外科治療

各ガイドラインよりOA治療の推奨

Patellofemoral Pain: 膝蓋大腿疼痛症候群

■ 膝蓋骨の後方, 周辺の疼痛を認める.
 ランナー膝や膝蓋軟骨軟化症とも呼ばれる.
■ 膝蓋骨のずれや筋力のアンバランス, 膝蓋骨の骨内圧の上昇などさまざまな因子が関連している.
■ 一般外来で診る膝痛の11-17%の原因.

 40歳以下の活動性のある若者で多い.

 思春期におけるPFPの頻度は22.7~28.9%と推測されている.
■ リスク因子:
 
 大腿四頭筋筋力が弱い(BMIに比して)
 
 股関節外転筋力が強い 場合にリスクとなる.

PFPの症状, 経過

■ 階段を登る際など, 膝を屈曲した状態で力が入る姿勢で増悪する,

 膝前方の疼痛となる.

 座位などで負荷がかかっていない時は疼痛は認められない.
■ PFPを診断する決定的な検査はなく, 基本的には除外診断.

 スクワット時の膝前面の疼痛は感度91%[79-96], 特異度 50%[31-69]

□ 除外疾患には膝蓋腱疾患, 膝蓋骨亜脱臼, Osgood-Schlatter病, リウマチ性疾患がある.
□ 膝蓋大腿部のOAに付随して生じるPFPもある.

■ 経過はSelf-limited〜数年持続する慢性経過とさまざま.

PFPの治療

■ 運動療法が有用である.

 足底板や膝蓋骨テーピングを併用した運動を行うため,
Physical therapistとの連携は重要(図参照)
□ 3ヶ月以内の運動療法で疼痛や機能は有意に改善;
 
 疼痛 -1.46[-2.39-0.54], 機能 1.10[0.48-1.63]
□ 足の装具により疼痛の緩和も認められる

PFPのリスクや足底板, 膝蓋骨テーピングの方法

半月板損傷

■ 半月板は膝関節内の線維軟骨構造で, 内側と外側にある2つの半円形の構造物.
 荷重を伝達して関節の安定性を保持に関連する.
□ 半月板断裂は線維構造の剥離であり, 

 外傷性: 過度な剪断力により損傷する

 変性性: 劣化した半月板に力が加わる事で損傷する の2つの機序がある.

■ 外傷性は18-40歳のスポーツをする活動的な若年者で多く,
しばしば前十字靱帯損傷を伴う.
■ 変性性では高齢者で多く, 膝関節OAと合併しやすい.

■ 無作為に抽出した米国人991名中, 症候性OAを有する群の63%で半月板損傷も認められた.

 受傷歴のない40歳以上の成人の19%[13-26]で無症候性の半月板断裂あり.
■ リスク因子
 
 サッカーやラクビーなど急回転が多いスポーツ,
 
 膝に負荷がかかる姿勢, 行動が多い仕事や趣味
 
 高齢者などはリスク因子.

半月板損傷の症状, 経過

■ 関節裂隙に沿った疼痛と関節腫脹が認められる.
 
外傷性では急性の経過, 変性性では緩徐な経過で発症.
■ 膝関節のクリックやロッキングなどは感度32-69%, 特異度45-74%と幅あり
■ 診察では, 誘発試験が行われる.

□ McMurray試験は感度61%[45-74], 特異度84%[69-92]

□ 関節裂隙に沿った疼痛は感度83%[73-90], 特異度83%[61-94]

□ 上記の組み合わせではLR+ 2.7[1.4-5.1], LR- 0.4[0.2-0.7]
■ 画像検査ではMRIが有用(感度78-89%, 特異度88-95%)

誘発試験, 圧痛部位の評価方法

半月板損傷の治療

■ 半月板損傷では損傷した半月板を摘出/修復する外科手術, または運動療法が行われるが, 外科手術が優れているというエビデンスはない.
■ 外傷性では, 
まずは3ヶ月の理学療法を行い, それで改善しない場合,

 または前十字靱帯損傷を合併し, その修復が必要な場合
 
バケットハンドル断裂(重度の転移を伴う断裂)の場合は外科手術を考慮する.
■ 変性性では, 運動療法が第一選択となる.
 
 外科手術は保存的治療と比較して優れている証拠はない.

まとめの表

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