骨パジェット病

骨パジェット病: Paget's disease of bone(PDB)は局所の骨リモデリングの増加, 変形を生じる疾患.(N Engl J Med 2013;368:644-50.)
□ 軸骨格に多い.
 骨盤(70%), 大腿骨(55%), 椎体(53%), 
頭蓋骨(42%), 脛骨(32%).
□ 55歳未満では稀だが, その後頻度は上昇し,
報告では80歳台の女性5%, 男性8%がPaget病とされる.
□ 人種差もあり, ヨーロッパ系の人種で多く,
インディアン系, アジア人では少ない.
・典型的なPaget病の15%で家族歴が陽性であり,
 遺伝子異常の関連も示唆されている.
・家族歴が陽性のPaget病患者の40-50%,
孤発性患者の5-10%でSQSTM1 の変異が認められている.

 p62をコードし, 骨破壊を調節するタンパクをコードする遺伝子.


骨パジェット病の頻度

■ 腹部骨盤CTを評価した1295例を後ろ向きに解析した報告(Acta Radiol. 2023 Mar;64(3):1086-1092.)
□ 平均年齢59歳, 18-98歳.
□ 骨Paget病変を認めたのは0.39%(5例)

 全例が≥55歳であり, 骨盤病変を認めた.
 
≥55歳の患者群の割合では0.62%

■ スペインにおける腹部CT検査4528例の解析では(Bone. 2008 Dec;43(6):1006-9.)
□ 骨Paget病変は≥55歳の患者群のうち1%[0.7-1.3]で認められた.

■ イタリアにおける骨盤CT検査の解析では(J Bone Miner Res. 2005 Oct;20(10):1845-50.)
□ Sienaでは16/1778(0.89%), Turinでは41/6609(0.62%)で
骨Paget病変が認められた.

■ 骨盤部病変の頻度が60-90%であることを考慮すると,

 これらデータから, 骨Pagetは1%前後の有病率であることが推測される.
□ また, 加齢に伴い頻度は増加する;

骨Paget病の症状, 所見

■ 無症候性が多く, 大半が偶発的にXP異常や, 
ALP上昇によって気づかれる.
□ 診断時に有症状であるのは30-40%のみ. 多いのは骨痛.
 
Paget病全体で症状を認めるのは5-10%と推測されている.
■ 症状で最も多いのは骨痛.
 骨のTurnoverやOsteroarthritis, 脊柱管狭窄, 偽骨折(骨皮質に垂直にスジが入る所見)によるもの. 
頭蓋骨病変による難聴も認められる.
■ Osterosarcomaは0.5%と稀な合併症で,
急速な骨痛や腫脹の増悪を来し, 予後は不良.
■ 他の稀な合併症;
□ 閉塞性水頭症, 高拍出性心不全, 
体動困難患者における高Ca血症.
■ 臨床所見は骨変形, 罹患部位周囲の皮膚の熱感.

■ 肥厚した骨組織内では血管新生も亢進している
□ その結果, 整形外科手術時の出血の増加や,
稀であるがシャントによる高拍出性心不全を生じる.
□ また, 脊椎病変は脊髄の圧迫による麻痺を生じ得るが,
血流増加による盗血も脊髄障害の1つの要因となる.
□ 他には肥厚した骨組織による難聴, 病的骨折
□ OAも多い合併症であり, 
骨Paget病ではOAのリスクはOR 3.1[2.4-4.1]
(J Bone Miner Res. 2019 Apr;34(4):579-604.)

骨Paget病の病期と経過

■ Paget病では, 初期に骨の再吸収が生じ, その後無秩序な骨沈着が生じ, その結果病的なリモデリングが生じる.
 骨再吸収が様々な活動期を経て静止期に至る.
□ 初期では破骨細胞の活性が優位であり, その為骨が融解したような所見となる.
□ その後 破骨細胞と骨芽細胞の双方が活動期となるが, 骨芽細胞の活動の方が優位(混合期).
□ 最終的に骨芽細胞活性が低下する不活性期となる.
■ さらに, 骨硬化構造が維持されたまま, 骨活動が正常, または亢進する非活動・硬化期も報告されている.
■ 特徴的な所見は, 骨質の乱れ “disorganisation”である.
(Wien Med Wochenschr (2017) 167:9–17)

骨Paget病の診断

■ XP所見で典型的なものは, 局所的な骨融解と骨梁(小柱構造)の粗大化, 骨の肥大化,
皮質の肥厚化.
■ 病変の範囲, 部位の判断にはシンチが有用.
■ MRIやCTは脊柱管狭窄やOsteosarcomaが疑われた場合に
選択すべき検査となる.
■ Lab検査では, Ca, Alb, ALP, VitDのチェック.
□ 肝酵素はALPが肝胆道系由来ではないことを確認するために必要.

XP所見からは

■ 活動期には骨融解所見, 過剰な骨吸収が認められる.

 長管骨では, 関節底から骨幹部に沿って進行.

 頭蓋骨では骨融解が明瞭な領域として描出される.
XPは腹部, 頭蓋骨, 顔面, 両側下腿を評価することでPDBの93%を評価可能.
 腹部のみでは79%と感度は低下
する.
(J Bone Miner Res. 2019 Apr;34(4):579-604.)
■ 混合期では, 初期融解像と後期の骨芽細胞活動の双方が認められ,
骨融解と骨梁の粗大化, 肥厚, 皮質の肥厚が認められる.

 骨盤では, 腸骨線, 坐骨骨線の肥厚として認められる.
 寛骨臼の突出もよく認められる所見.

 脊椎では椎体の拡大が認められる.
頭蓋骨では綿毛状の外観が認められる
■ 後期の休止期では, 骨芽細胞の活性化が骨硬化像として認められる.

 粗大化した海綿骨パターン
頭蓋骨の肥厚による所見はTam-O-Shanter capと呼ばれ,
 椎体の肥厚はPicture frame vertebraと呼ばれる.
■ 1箇所の骨病変の中に活動期〜休止期が混在することもある.

 また複数病変がある場合も様々な時期が認められることがある
(Wien Med Wochenschr (2017) 167:9–17)

Wien Med Wochenschr (2017) 167:9–17

椎体病変

■ 椎体病変は骨盤病変に次いで頻度が高い部位であり,
29-57%で認められる.
□ 多いのは腰椎であり, 特にL4-L5で多く認められる(58%),

 次いで胸椎であり(30%), 仙骨や頚椎はそれよりは少ない(14%)
□ 椎体病変のパターン(リモデリングのパターン)は以下の図参照
・多嚢胞性パターンは最も多い
 薄い硬化した骨梁, または正常な骨梁が1-5mm, 5mm以上までの大きさの嚢胞腔を構成する.
■ 椎体病変において, よりPDを示唆する所見は
・びまん性の多嚢胞性, メッシュ構造
・椎体の腫大所見
・椎体〜棘突起まで全体に病変が認められる
・MRIで脂肪, 正常の椎体

Joint Bone Spine 82 (2015) 18–24

骨シンチグラフィーはXPよりも高感度で病変を評価可能

■ しかしながら, 非活動性の病変への集積は認められない.
□ 23例のPDBの病変部位の評価では, XPの感度は74%, シンチは94.5%
 
 XPのみで検出できた病変が5.5%で認められた
(J Bone Miner Res. 2019 Apr;34(4):579-604.)

PDBにおけるMRIやCTの意義

■ 頭蓋骨のCT所見をFibrous dysplasiaとPDBで比較した報告では,

 すりガラス状の所見や副鼻腔, 蝶形骨洞, 眼窩, 鼻腔を侵すのはよりFDで多く,
 左右対称性の病変, 皮質の肥厚はPDBで多い.
■ 脳底部や脊椎,
Osteosarcomaなどの病変は
MRIやCTでの評価が有用
(J Bone Miner Res. 2019 Apr;34(4):579-604.)

PDBのマーカー 

■ PDBで最もよく知られているのがALPの上昇
□ 肝障害に関連しないALPの単独上昇を認める55歳以上の高齢者で画像を評価した報告では, PDB病変を認めるリスクはRR 10.9[4.8-24.9]
□ ALPの上昇は感度57.7%[38.9-74.5], 特異度88.9%[85.9-91.3],
 LR+ 5.19[3.45-7.82], LR- 0.48[0.30-075]でPDBを示唆
ALP上昇の感度はおよそ半分程度 = PDBの半数はALP上昇はない
(J Bone Miner Res. 2019 Apr;34(4):579-604.)

■ 他の骨代謝マーカーも有用 (J Bone Miner Res. 2019 Apr;34(4):579-604.)
□ PINP(procollagen type I N-terminal propeptide)の感度はよく, 94%

 一方でBALP(bone ALP)は82%, ALPは76%
□ 尿中cross-linked N-terminal telopeptide(uNTX)は96%と良好

 一方でuPYD(pyridinoline)は69%, uDPD(deoxypyridinoline)は71%
uβCTX(cross-linked beta C-terminal telopeptide)は65%

 Osteocalcinは34%のみ.
□ PINP, BALP, NTX, DPD, Osteocalcin, CTX(ICTP)は血液検査にて可能.
感度からはBALP, PINPあたりが良い選択となるか

■ 推奨としては, まずALPを評価(肝酵素と共に)し, 
正常で, PDBを疑う場合はBALP, PINP, uNTXの評価が良い選択

骨Paget病の治療

(J Bone Miner Res. 2019 Apr;34(4):579-604.)
PDBの治療では, 骨代謝の亢進を抑制するため, 破骨細胞を阻害する作用のある薬剤を使用することと, 
疼痛などに対する対象療法を行うことがある.
骨代謝抑制のために主に用いられるのがBisphosphonate.

 他にGlucagon, Mithramycin, Actinomycin D, Gallium nitrateなどの報告も少ないもののある.
□ Denosumab, Calcitoninも試されるが, しっかりと比較された研究はまだ無し.

Bisphosphonateにより骨痛の低下を認めるのは
45% vs 23%, RR 1.97[1.29-3.01], NNT 5[2-15]
□ ゾレドロン酸 4mgの1回投与は, パミドロン酸 30mgの2回投与(2日間投与/3ヶ月)よりも骨痛改善効果は良好. RR 1.30[1.10-1.53], NNT 5[3-11]
□ また, パミドロン酸60mg/3ヶ月とアレンドロン酸経口40mg/dは骨痛改善効果は同等.
□ ゾレドロン酸 5mgの1回投与はリセドロン酸経口30mg/dよりも良好. 
RR 1.36[1.06-1.74], NNT 7[4-24]

Bisphosphonateは骨痛に対してエビデンスはあるものの
身体機能や骨折予防, OAの進行, 難聴の改善
出血の抑制, 骨変形, 神経障害の予防や治療効果はについては評価されておらず, 不明である.
無症候性患者へのBisphosphonateの意義は不明確であるが,
骨代謝マーカーの低下, 溶骨病変の改善効果は期待できる

Calcitonin ⇒ 骨代謝の阻害作用
 骨痛の軽減効果が見込めるが, 使用頻度は少なく, 
Bisphosphanateが投与できない患者群でのみ考慮される.
 顔面紅潮や悪心が問題となることが多く,
また, 長期使用にて耐性を獲得する(抗体産生)
Denosumab; Osteoclast阻害薬も効果的だが,
 適応症となっていない.
 骨痛の改善効果は認められる.

継続モチベーションになります。 いただいたサポートでワンコの餌にジャーキーが追加されます