Systemic Capillary Leak Syndrome

Systemic Capillary Leak Syndrome: SCLS

■Systemic Capillary Leak Syndrome. 特発性のものは別名Clarkson病とも呼ばれ, 発作性の様々な程度のHypovolemic shock, 全身性の浮腫, 
血液濃縮, 低Alb血症を特徴する症候群.
□発作は通常24-48hr持続する.
□通常尿中Albは陰性であり, 非発作時は全く無症状.
 血清M蛋白が79-82%で検出される(M蛋白はIgG-κが80%を占める).
■文献報告ではPOEMSと同様の症候を示すものもあり,
混在, Overlap, 勘違いしている可能性もあるが,
典型的にSCLSの症状を来しているものも多数.
(POEMSではM蛋白はIgG-λ, IgA-λが主であり, ほぼ全例がλ. 一方でSCLSではIgG-κ)
□VEGFはSCLS, POEMS双方に認め得る.
(Internal Medicine 2002;41:211-5)(Mayo Clin proc. 2010;85(10):905-912)(Ann Intern Med. 2010 July 20; 153(2): 90–98.)


SCLSの背景疾患

(Kidney International (2017) 92, 37–46; http://dx.doi.org/10.1016/ j.kint.2016.11.029)
■血液系悪性腫瘍, 薬剤に伴うものの報告は多い.
■薬剤では原因としては未だ明らかでないものも多いが,
TNF, IL-2, Denileukin diftitox, Filgrastimは関連している.
□G-CSFやIL-2, Gemcitabineなど.
TNF-α阻害薬(Infliximab)でも報告例がある
□CLLに対するRTXにより生じた報告もあり.
 末梢血Ly >50000/µLは高リスクとなる.
■骨髄移植に合併する報告も多い
■自己免疫性疾患に伴うSCLSの報告は少ないが, 報告された12例の内訳はシェーグレン症候群が4例(内1例は全身性強皮症と合併), SLEが2例, 全身性強皮症が3例(内1例はシェーグレンと合併), 若年性皮膚筋炎が3例, 多発筋炎が1例. (Case Rep Rheumatol. 2019 Mar 4:2019:4865024.)
□疾患の活動性の増悪や感染症の合併, 身体的なストレスがSCLSの誘因となる.(Seminars in Arthritis and Rheumatism 46 (2017) 509–512)

悪性腫瘍に関連するSCLS: Literature reviewより62例を抽出.

(J. Clin. Med. 2018, 7, 418; doi:10.3390/jcm7110418)
■悪性腫瘍自体によるものが43.6%, 

 化学療法に関連するものが51.6%.

 骨髄移植に伴うものが4.8%.
■悪性腫瘍は血液系腫瘍が61.3%と多い
□主にリンパ腫(29.2%), 多発性骨髄腫(12.9%)に関連する.
□固形癌では腎細胞癌や大腸癌, 膵癌, 肝癌など. どれも1-4例の報告のみ.
■化学療法関連では,
 G-CSF(14.6%)やIL-2投与(11.4%)での合併例の報告が多い

SCLSの経過, 臨床的な特徴

■特発性SCLSの経過 (Kidney International (2017) 92, 37–46; http://dx.doi.org/10.1016/ j.kint.2016.11.029)
□まず前駆症状として倦怠感やめまい, 感冒症状を生じる
□その後急性経過でShock, 浮腫, 血液濃縮, 低Alb血症が出現
. 他にAKIや胸水, 心嚢水, 横紋筋融解など.
 稀にCompartment syndromeを生じることもある
□数日後に改善期となり, 所見は改善.
その際, Vol増加による肺水腫を生じる例もある.

Mayo clinicで1981-2008年に診断されたSCLS 25例の解析

(Mayo Clin proc. 2010;85(10):905-912)
■男女比はほぼ同等(M:F=13:12)
■
平均年齢は44歳.(≤18;2名, 19-29;4名, 30-59y;17名, ≥60;2名)
■発作回数は3回/yr[0.5-5.0]
■臨床症状の頻度

SCLS25例の診療症状

■合併症頻度

合併症の頻度

■検査所見
□蛋白電気泳動でM蛋白が検出されたのは76%
.
・IgG-κ typeが最も多い.
・IgGの数値は低く, 0.6g/dL[0-1.1].

・尿中M蛋白(+)例は7/23(30.4%)と低い.
□骨髄生検施行した18例中, 9例(50%)で
monoclonal plasma cellの増殖(+)を認めた. 
M蛋白(-)の例でも骨髄穿刺で5-10%の
monoclonal PCの増殖を認めた.
□フォローアップにて多発性骨髄腫を発症したのは1例のみであった.

European Clarkson disease registryより
1997-2016年に登録された69例を解析

■患者群はM蛋白血症を認め, Capillary leak syndromeの症状, 所見があり, 他疾患が除外される群を対象とした.
□男女差はなく, 発症年齢は52±12歳
□M蛋白はIgGであり,
κが68%と多い.
□誘因は感染症や
感情変化が挙げられる.
■合併症としてコンパートメント症候群が33.3%, 骨髄腫が7.2%

SCLSの治療

■急性期は血行動態の維持が重要 (Ann Intern Med. 2010 July 20; 153(2): 90–98.)
□急性期は補液, 昇圧薬が中心. 
25%アルブミン, コロイド輸液がVol expansionに有効.
□血液濃縮によるDVT合併や,
コンパートメント症候群のモニタリングも重要.

・急速なK上昇のリスクがある.

■維持療法(発作の抑制); 殆どがEmpiric治療 (Ann Intern Med. 2010 July 20; 153(2): 90–98.)
□細胞内cAMPを上昇させるβ刺激薬(terbutaline; ブリカニール)
□Phosphodiesterase阻害薬(テオフィリン)もcAMP不活を抑制.
□初発のSCLSでは, テオフィリン+ブリカニールが推奨.

・テオフィリン; <60yrでは400-1600mg/d, 
1-9yrでは10-36mg/dの投与量が推奨.
 血中濃度を10-20mg/dLに維持.
□抗VEGF mAb(Bevacizumab)が慢性SCLSに有効かもしれない
□MM, POEMS, smoldering MMに対する治療も
効果的かもしれない(合併している場合)
■IVIGは重症発作頻度を低下させ, 死亡リスクを軽減させる可能性がある(The American Journal of Medicine (2017)130,1219.e19-1219.e27 )

慢性経過のSCLS

■SCLSは急性の発作を繰り返す病態であるが, 慢性経過のSCLSの報告例もある.
□慢性経過(月単位)の全身性浮腫を認め,
他の浮腫を来す疾患は除外.
・
C1-inhibitor, ANAは陰性であり, IgG-κが陽性となる.
□急性例と異なり, ショックを来すことは無い.
(Clinical Nephrology, Vol. 91 – No. 1/2019 (59-63) )

■2019年のLiterature reviewで6例のみ.
□IgGκ, IgAκのM蛋白例で報告がある. それぞれ4例と1例. 他は記載無し.
□多発性骨髄腫等でしばしば原因不明の浮腫で, 利尿薬で管理できてしまう症例はたまに経験することがあり, それも広義のSCLSかもしれない.
□治療はSCLSに準じて試されるが, 効果は不明確. IVIGが有用であるとの報告もある. ただNが少ないため情報は足りない.

■2019年〜の症例報告より
■23歳女性. 1型DMあり. コンロトール良好. (Allergy Asthma Clin Immunol (2019) 15:34)
□2ヶ月間の浮腫, 胸水貯留, 心嚢水貯留.
□浮腫の原因精査ではIgGκのM蛋白以外は異常なし.
 炎症反応や自己抗体, 補体も正常
IgG 936, κ/λ比 3.08. アミロイド染色も陰性.
□様々な治療; IVIG, GC, テオフィリンなど使用するが改善とぼしく, 最終的にはESRDとなった.
 腎組織はTubular necrosis

■Sjogren症候群において
CSCLSのような病態となった症例.
■Sjogren症候群(25年前に診断)の70歳女性. (Case Rep Rheumatol. 2019 Mar 4:2019:4865024.)
□1ヶ月の経過の浮腫と呼吸困難, 体重増加(3kg)で受診.
 CTにて胸腹水貯留あり.
□血液検査にてHb 14.9g/dL, TP/Alb 6.1/2.9, BUN/Cr 9.2/0.7
LDH 176, CRP 0.11mg.dL, IgG 982, IgA 257, IgM 241.
□ANAセントロメアパターン 640倍, SS-A 48.2.
□胸水は単核球 92%(WBC 470), Prot 3.6g/dL. LDH 108
□M蛋白の検出はなかった.
□心機能は正常. 他に浮腫の原因となる疾患は認めず.
(尿検査所見は記載無いけども)
■対応;
□SSに伴う漿膜炎を考慮し, NSAIDを使用するが改善なし.
□PSL 35mgを使用したが, 血液濃縮や胸水貯留は増悪.
□慢性SCLSと判断し, Terbutamline, Theophyllineを使用したが, 効果無し.
□IVIG + PSL 30mgを使用すると, 血液濃縮は改善
 浮腫や体液貯留も改善を認めた.
□その後PSL 2mgまで減量したところ, SCLSが再燃.
 今回はIVIGのみ行ったが反応がとぼしく,
 + PSL 35mgに増量し改善が得られた.


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