アミオダロン甲状腺中毒症

抗不整脈薬であるアミオダロンは長期使用において複数の臓器障害が出現するリスクがある薬剤.
この中で有名なものの一つに甲状腺中毒症がある.

AIT: Amiodarone-Induced Thyrotoxicosisと呼ばれ, これにはType 1とType 2がある.

Eur Thyroid J 2018;7:55–66

■ Type 1 AITはヨード過剰摂取による生じるAIT. 
・アミオダロン100mg錠にはヨウ素37.2mgが含まれている.
・乾燥昆布 5g(5cm角)あたり, 8-9mg を考慮するとかなり多い.
・1日のヨウ素摂取量の推奨が0.13mgと言われている.
 日本人は特に世界でも多く1日あたり1-3mgのヨウ素を摂取している.
・こういった背景から, 国内ではType 1 AITの報告例はかなり少なく, 大半が後述するType 2である.
・Type 1 AITは主にヨウ素摂取量が少ない地域でリスクとなり, 甲状腺腺腫や無症候性のバセドウ病がある患者で生じやすい.

■ Type 2 AITは薬剤による甲状腺組織の破壊が原因のAIT.
・特に甲状腺疾患の既往がない患者で生じ, 破壊性甲状腺炎による甲状腺中毒症.
・日本国内におけるアミオダロン使用患者 225例のうち, 5.8%でAITと診断. その全てがType 2であった.(International Journal of Endocrinology Volume 2014, Article ID 534904)
 AITのリスク因子は年齢のみであり(HR 0.93[0.89-0.96]), 若年ほどリスクが高い.

■ 200例のAITの解析. Type 1が42例, type 2が158例.(European Journal of Endocrinology 2014;171:363-368)
・AIT 1の方が甲状腺容積は大きく, 抗TPO抗体も陽性となる.
・AIT 2では甲状腺容積は正常で
, 抗TPO抗体は陰性.
 甲状腺ホルモンはより高くなる.
・薬剤開始〜発症までの期間は
AIT 1で 9.9±11.8ヶ月
, AIT 2で 28.7±16.1ヶ月とAIT 2はより長期使用患者で生じる.

European Journal of Endocrinology 2014;171:363-368

AITの治療

■ Type 1 AITの治療(The American Journal of Medicine (2005) 118, 706-714)
・アミオダロンの中断が推奨されるが,
 中断不可能な場合は抗甲状腺薬の使用を考慮する.
・アミオダロンにはβ阻害作用, T4→T3変換阻害作用があり,
中止する事が甲状腺中毒症の症状の増悪リスクとなる可能性もある.
・中断できても半減期が長いため, その間は抗甲状腺薬が必要となる可能性もある.
□ type 1 AITに対する抗甲状腺薬
・甲状腺内に多量に蓄積したヨードにより, 薬剤の作用が低下するため, 経験的にMethimazole 40-80mg/dや
PTU 400−800mg/dと高用量が用いられる.

・
副作用にも十分注意が必要.
・2−3ヶ月投与しても甲状腺ホルモンが正常化しない場合
, 過塩素酸カリウムを使用. これは甲状腺へのヨード取り込みを阻害する.
 
 投与量は 200−1000mg/dを数週〜数カ月投与
 
 副作用は再生不良性貧血など. 日本国内では製剤なし.
・取り込みは低下しているものの, 放射線ヨード治療も選択肢となる

■ Type 2 AITの治療
・軽度の甲状腺炎(FT4, FT3の軽度上昇のみ)ならば
経過観察のみで数カ月の経過で自然に改善する可能性が高い.
・type 1と異なりアミオダロンの中断は必須ではなく,
 PSLの使用にてアミオダロン投与下でも改善する可能性がある.
・PSLは0.5-1.0mg/kg程度を目安とし, TSH改善後に1-2wkで減量/中止を行う.
 減量や中止がはやいと再燃する可能性がある.
・Type 1と2の混在したMixed AITもあり
その場合片方の治療のみでは改善が不十分となる.

アミオダロンの中止 vs 継続

□ 日本国内からの報告では, 50例のAIT type 2症例のうち,
アミオダロンを継続しつつ再発を認めたのは3例のみであり,
それも初回発症から数年間経ての発症であった.(Endocr J. 2006 Aug;53(4):531-8.)

□ AIT type 2患者36例を対象としたRCT(J Clin Endocrinol Metab 97: 499 –506, 2012)
・アミオダロンは継続しつつ, メチマゾール30mg/dに加えて,
 
A) PSL 30mg/d群
 
B) Sodium percholrate 500mg bid群
 
C) PSL + Sodium percholrate 併用群に割り付け, 甲状腺機能を比較.
・薬剤はTSH ≥0.4mU/Lまで改善した後に減量を開始し, 2wk程度でOff

 3ヶ月の時点でTSHを達成できない場合,
 A), B)群ではそれぞれ他の薬剤の併用を考慮.

 6ヶ月の時点で改善しない場合は主治医が最も適切と考える治療を行う(甲状腺切除やアイソトープなど)
・TSHが達成できない場合, アミオダロンを中止する必要がある場合,
 薬剤が継続できない場合を治療失敗と定義した.

短期予後

(J Clin Endocrinol Metab 97: 499 –506, 2012)

・3群とも良好に甲状腺中毒症は改善を示す.

 およそ12-20wkで改善する例が多い.

・PSL使用群のほうが速やかに改善を認める.
・TSHが≥0.4となるのにおよそ5wk程度であり, PSLの使用期間は2ヶ月前後という感じ.

2年間までの長期予後

(J Clin Endocrinol Metab 97: 499 –506, 2012)

・アミオダロンは継続されているが,
甲状腺中毒症の再発はほぼ認めない.

□ AIT type 2患者83例を後ろ向きに解析 (J Clin Endocrinol Metab 96: 3374 –3380, 2011)
・GCで治療がされた患者群で, 
アミオダロンを継続した8例(AMIO-ON)と4:1でマッチさせたアミオダロン中止群32例(AMIO-OFF)を比較した.
・GCはPSL 0.5mg/kgで開始し, 1-2wk毎に0.1mg/kgずつ減量するレジメ.

治療結果
・治療後TSHが正常化するのは
AMIO-ONで24日間
AMIO-OFFで31日間と差は無いが, GC投与中に正常化したTSHが, 投与期間中に再増悪した例が
AMIO-ONの5/7(71.4%), AMIO-OFFの3/32(9.4%)で認められた
・これら症例ではGCを再度増量が行われた.
・また, 長期フォローにおいて, 最終的に改善を認めなかった例が
AMIO-ONで25%, AMIO-OFFで3%. 

 サンプルサイズが小さく,
有意差はないものの, 
注意が必要である.


まとめると,
・日本国内で多いAITはType 2であり, これはアミオダロン開始後長期間で生じる破壊性甲状腺中毒症である.
・治療はステロイドが基本となる. 投与量は0.5-1.0mg/kgを目安に.
 TSHが正常化したら減量/中止を考慮. 減量で再燃に注意する.
・アミオダロンはType 2ならば中止せずとも改善が見込める. ただし再燃リスクは上昇する可能性はある.
 そもそもアミオダロンを使用している患者は心機能や不整脈で問題が大きい患者であることが予測されるため, 中止におけるリスク-ベネフィットをよくよく検討した上で判断すべし.

継続モチベーションになります。 いただいたサポートでワンコの餌にジャーキーが追加されます