敗血症性ショックに対するβ遮断薬

今回, JAMAよりSTRESS-Lが発表され, 敗血症性ショック+頻脈に対するランジオロールの投与は臓器障害を改善させない, また死亡リスクを上昇させる懸念があるとの結果であった.

敗血症性ショックに対するβ遮断薬で, 自分がチェックしていた論文も踏まえてまとめてみようと思う.

敗血症性ショックにβ遮断薬を投与する意義

■ 敗血症性ショックは頻脈とHyperdynamicな血行動態により特徴付けられる病態である.
□ β遮断薬により過度な頻脈を抑制することは, 心臓の拡張期容積を上昇させ, 結果的に心拍出量を増やし, 昇圧薬の必要性も低下させる効果が期待される. 
■ 国内使用できる静注のβ遮断薬はエスモロール(ブレビブロック®)とランジオロール(オノアクト®).
 このうち, エスモロールは手術中の使用のみ適応があり, 敗血症性ショックにおいてICUで使用する場合はランジオロールが基本となる.

エスモロール(ブレビブロック®)の報告

敗血症性ショック患者のHRをβ遮断薬で
80-94bpmに抑える意義を評価したPhase 2 trial. (JAMA. 2013;310(16):1683-1691.)
□ 敗血症性ショックで, NAを使用している154例を対象としたopen-label RCT.
元々β遮断薬使用患者, 心不全患者(CI≤2.2, PAOP>18)は除外.
□ Esmolol(ブレビブロック)を使用し, HR 80-94bpmでコントロールする群

 vs 通常の治療のみの群に割り付け, 各パラメータを比較.
□ Esmololは25mg/hで開始し, 20分毎にDose調節を行う
□ 敗血症はEGDTを行い, ステロイドは全例に使用した.
■ 母集団では中央年齢は66-69歳. 肺炎がおよそ半数. 残りは腹膜炎.
 BMIが28-29と相変わらず海外Studyの肥満がすごい.
■ アウトカム
□ 投薬量と血行動態パラメータ
・Esmololの投与量は平均100mg/h程度.
・Esmolol使用してもNA必要量は特に変化なく, 
むしろ低下傾向となる.
・他の血行動態パラメータも両群で特に変わりは無い.
□ 臨床アウトカム
・腎機能(eGFR)は有意にEsmolol群で改善が早くなる.
・死亡リスクもEsmolol群で有意に低下: 28日死亡率が49.4% vs 80.5%とかなり低下する.
 院内死亡率が67.5% vs 90.9%.

>> いくらなんでも死亡率が高すぎる. コントロール群で9割死亡する敗血症性ショックって・・・ という印象.

Esmololを評価した5 RCTsのMeta-analysisでも, 
有意に生存率は改善する結果: RR 2.06[1.52-2.79]
(American Journal of Emergency Medicine 36 (2018) 470–474)
□ MAPは有意差なし.
□ どれも小規模のみであり, 大規模Phase IIIが必要.

ランジオロール(オノアクト®)の報告

J-Land 3S: 日本国内のOpen-label RCT.
(Lancet Respir Med. 2020 Sep;8(9):863-872.)
□ ICU管理となった敗血症患者で, MAP 65mmHgを保つためにカテコラミンを1時間以上投与, さらにHR>100bpm, 洞性頻脈, Af, AFが認められる患者群を対象
□ 通常の敗血症治療群 vs 加えて, Landiolol投与群に割り付け, 比較
・Landiololは1µg/kg/minより開始し, 15-20分毎に増量. HR<95bpmに維持するように調節する(最大20µg/kg/min)
. 96h後は経口, 経皮のβ阻害薬へ切替え.
 BPが20%以上低下する場合や, HR<60bpmとなる場合は中止.
■ 母集団では年齢中央値 67-68歳. 敗血症性ショックは91%.
 心電図は洞性頻脈が8割, Afが2割程度.
■ アウトカム
・1週間以内の新規不整脈の出現リスクがLandiololで有意に低下(9% vs 25%, HR 0.36[0.15-0.84])
・昇圧薬の使用期間やICU滞在期間は差は認めず.
・28日死亡リスクも有意差なし: 12% vs 20%
・合併症として, 低血圧エピソードが有意に増加(12% vs 0)

STRESS-L: 敗血症性ショック患者で頻脈(≥95/min)を認め, さらに24h以上NA投与(≥0.1µg/kg/min)を継続されている患者群を対象としたRCT
(JAMA. 2023;330(17):1641-1652. doi:10.1001/jama.2023.20134)
□ 疼痛や不快感による頻脈, 非感染症性の血管拡張によるショックは除外
□ 通常の治療群とLandiolol投与群に割り付け, 14日後のSOFAスコア, 28,90日死亡リスクを比較した.
□ Landiololは1.0µg/kg/minで開始され, 15分毎に1.0µg/kg/minずつ増減. 目標HR 80-94/minで維持された. HR <80/minで終了.
また昇圧薬が全て終了され, 12時間経過後にLandiololも終了.
■ 母集団では, 平均年齢は55歳前後と他のStudyよりもやや若い. 割り付け時にAfはおよそ1割. 肺炎が4割, 腹膜炎が3割と主.
■ TrialはLandiolol群で死亡リスクが上昇する可能性が示唆されたため,
当初N=340の予定が126例の時点で中止された.
■ アウトカム
・14日後のSOFAスコアは両群で有意差なし.
・28日死亡率はLandiolol群で37.1%, 通常治療群で25.4%, OR 1.75[0.73-4.22]
・90日死亡率は43.5% vs 28.6%, OR 2.13[0.88-5.16]
・他, 入院期間, ICU滞在期間もLandiolol群で長くなる傾向を認めた.
・乳酸値もLandiolol群で高い傾向: 
中央値21.3mg/dL[14.9-31.5] vs 19.7[15.7-25.7]


2013年に最初に出たエスモロールのStudyをみて, すごい死亡率さがるなぁ, でもこれ死にすぎだよね, という感覚であった. 小規模のみであり, 微妙だなぁと思いつつ, はや10年近く経過.

途中でJ-Land 3が発表され, 予後そんなかわらないやんか, となり.

そして今回のSTRESS-Lである. 

まあそもそもそんな使ってないから管理方法はかわりませんがね


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