Raynaud現象やしもやけ患者に勧めるVBL


はじめに

冬になると, 一般内科外来は風邪や腸炎が増え, 救急では心筋梗塞が増える.
そして膠原病外来ではRaynaud現象の症状が増悪する患者さんや, しもやけの背景疾患の精査よろしく, という紹介が増える.

そんな季節になってきた.

Raynaud現象やしもやけ患者さんには秋〜冬にかけてきつい季節となるが, やはり手足を冷やさないことが重要である.

また, しばしば温度変化もRaynaud現象の誘因となるため, 
「できるだけ暖かい状態を維持し, 冷えないようにする」のが理想

■ 手足の保温では手袋や厚手の靴下, 手首に巻くカイロなどを指導することが多い.
■ 手首や足首に巻くようなカイロや保温素材が症状の緩和に有用である報告はある
□ 手関節部装着式カイロ(巻きポカ)
 (https://jglobal.jst.go.jp/en/detail?JGLOBAL_ID=201902285273133247)
□ 足関節部装着式のウォーマー(レグぽか・ミニ)
 (https://www.iyaku.info/archive/up_img/1633597986-447289.pdf)
■ 他には電熱線のウォーマー(手袋型, ポケット型)もある.

■ 巻きポカを勧めた時の欠点(患者の訴え)として,
□ 暖かいが, 汗をかいて結局寒い.(温度変化)
□ 水仕事をすると湿ってしまうため, やりにくい. 結局外してしまう.

■ 電熱線タイプはあまり勧めたことはないので個人的な印象だが,
□ ポータブルバッテリーが必要でコストが高い
□ 中華製など, 品質によっては低温やけどしたりしないか心配.
□ 電力切れると無用の長物になる(大体2時間〜5時間)
□ 結局汗をかいてしまい, 外すと冷たくなっちゃう.(温度変化)

そもそも冬期っていうのは

■ 冬は気温・湿度が低いため, 皮膚からの蒸散が行われやすい.
■ 発汗や蒸散による体温低下が夏や他の季節と比べると著しく大きい.
■ これは外気温-体温差による伝導よりもよっぽど大きい.
□ 暖かい吐息で手を温めようとすると, 実はもっと冷たくなる罠

そこでVBL(Vapor Barrier Liner)

■ 個人的な経験より
□ 毎年冬山, 雪山で狩猟.
 銃やナイフを扱うためにしばしば素手, または薄手の手袋のみ.
 手は当然冷える. また汚れるために頻繁に洗う.
□ これを解決する方法として, Vapor Barrier Liner(VBL)を導入.

VBLとは/方法

■ 皮膚からの蒸散を抑制することで, 皮膚からの発汗や不感蒸泄で失われる熱を無くす方法.
■ ニトリル性の薄い手袋(なるべく手にピッタリとしたサイズ)を着用し, その上に普通の手袋(革でもなんでも)を着用.
■ 足の場合は手っ取り早くはビニール袋を素足に被せて, その上から靴下を履く.
■ 驚くくらい暖かい状態が持続する.

■ さらに2倍厚の作業用ニトリル手袋もあり, それだと手袋1枚のみでも十分活動が可能(冬山での狩猟において).

日常でVBLを使用する利点

■ 常に着用し, 外さないことで温度変化を抑制する.
■ 汚れたら気軽に取り替えることが可能であり, 手洗いの代わりになる.
(取り替える時は一回でも手を洗って, 乾燥させた方が着用しやすい)
□ Raynaud現象やしもやけ患者では, この手洗いやアルコール消毒がきつい人も多い.
□ 1箱50-100枚入りで1000円前後.
■ 湿度閉じ込め, 常に100%の状態であるため, 皮膚の保湿効果がある.
■ 指先の保護にも有用. 怪我をある程度避けられる.
□ Raynaud現象やしもやけ患者では指先の怪我の予防も重要.
■ 細かい作業の邪魔にならない. なんならスマートフォンやタッチパネルもそのまま操作が可能.
■ 作業時には一時的に外側の手袋は外すものの, その「外した時の冷える感じ」が圧倒的に違う. 外しても手が冷たくならない.
(これはびっくりするので試してほしい)

よくある疑問点

Q. 中が湿ってグショグショになりそう

 A. そんな気にならない. 汗が溜まるようなことは基本なし.
 ただし感じ方には個人差がある.
 
 ほぼ隙間がなくなるようなピッタリしたサイズならばなお良い.
 
 隙間があるとその部分に汗が溜まるかもしれない.
Q. 色が恥ずかしいかも

 A. 青は目立つ. 白がおすすめ. 
黒だと日が出ている時はそれだけで暖かい(特に2倍厚).

個人的なアドバイス

・1日つけっぱなしでも特に気にならない.
・ただし, 夜に手が乾燥した感じになるので, お風呂後に保湿剤をつけて寝るとよい
・基本的につけっぱなし(たまに手洗いの代わりに交換する感じ). 外さない. つけっぱなしが肝.
・室内や暖かい環境にしばらくいる場合は外し, 手足を乾燥させる(特に足).

 流石に四六時中この状態では, 皮膚がふやけて水疱のリスクとなり得る(特に圧がかかる足)
(日中くらいは問題ないことが多い)
・巻きポカとの併用は試したことはなが, 多分かなり有用.

足用はどうする?

・手のVBLではニトリル手袋を用いれば安価に可能であるが, 足の場合VBLのためのソックスは登山用であり, 高価. また普段使いしにくい.
・登山家の間ではビニール袋に素足をいれてその上から靴下を履くと-40度でも快適という話がある(そして驚くことに蒸れない).
〜〜 A plastic bag pulled over the bare foot makes a vapor-barrier liner, which traps and contains the warm moisture of sweating feet. At - 40° C and 0% humidity, this is quite comfortable and, surprisingly, doesn't give the feeling of standing in a swamp.〜〜 (Phys Sportsmed. 1989 Jan;17(1):134-44.)

足首から足先までで, 普段使い可能なVBLソックス, できると思うのですが, 誰か作ってくれませんかね?

VBLのエビデンス: はまだ無い.

■ Raynaud現象やしもやけ患者を対象とした報告はない. 軍隊の冬山の訓練における足のVBLは革製のスキー靴と比べて足凍傷のリスクを大きく軽減するする報告はある. 
■ だれかエビデンス作ってくれると嬉しい(他力本願)


■ 356人の海軍兵士が冬山で18日間訓練をした際の受傷リスクを評価した報告;
積雪地域において, 49.6%がVapor Barrier bootを用い, 37.6%が革製のSki-march bootを用いた. (12.8%は記載なし)
□ 足のCold injuryのリスクは, Ski-march bootでOR 30.1[4.21-215.3].
 
 1日>20本の喫煙がOR 19.7[1.82-212.6]と他のリスク因子.
 
 11-20本はOR 3.5[0.65-18.6]であった. (Mil Med . 2000 Dec;165(12):905-10.)

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