抗核抗体, 抗ds-DNA抗体陽性患者にTNF阻害薬を使用するとどうなるのか?

■ TNF阻害薬は薬剤性Lupusのリスク(Anti-TNF induced lupus: ATIL)となる薬剤であり, 抗核抗体や抗ds-DNA抗体の発現リスクとなることはわかっている.
■ では開始前に抗ds-DNA抗体のスクリーニングは行うべきなのだろうか?
 陽性例やSLE患者でTNF阻害薬を使用すると, 薬剤性LupusのリスクやSLEの再燃リスクになるのだろうか?


TNF阻害薬によるANA, 抗ds-DNA抗体誘導のリスク

■ TNF阻害薬によるANA, 抗ds-DNA抗体の誘導の機序は, 抗TNF作用によって誘導されたアポトーシスと, その結果生じる免疫刺激性核抗原の循環により誘導されると考えられている.
 (Ann Transl Med. 2021 Mar;9(5):430.)

■ RA, CD患者を対象とし, TNF阻害薬による抗体誘導を評価したMeta-analysisでは,
 (Expert Rev Clin Immunol. 2008 Mar;4(2):275-80.)
□ IFXによりANAは29-76.7%陽性となり
, 抗dsDNA抗体は10-29%陽性化する.
□ 一方でETNではANA 11-36%, 抗ds-DNA抗体 5-15%

□ ADAではANA 12.9%, 抗ds-DNA抗体 5.3%と
IFXと比較して頻度が低いことが指摘されている.

■ RAに対してIFX投与群とPlacebo群に割り付けしたRCTにて
IFX群156例とPlacebo群37例で治療開始後3ヶ月の抗体を評価した報告
 (ARTHRITIS & RHEUMATISM
 2000;43(11):2383–2390)
□ 抗体はCLIFT, RIAにて評価された.
□ 治療前に抗ds-DNA抗体陽性例は認められなかったが,
 
IFX群の22例はCLIFTで抗ds-DNA抗体が陽性化.

 RIAでは, 11例(7%)が>10 U/mL, さらに他の8例が>25 U/mLであった
■ IFX投与後に抗ds-DNA抗体陽性となった症例のうち,
1人を除く全例でIgMアイソタイプのみが陽性.
□ 実際臨床的にLupus症候群を発症したのは1/152であり,
その患者はIgG, IgM, IgAクラスの抗ds-DNA抗体を高力価で発現していた. Self-limitedの経過であった.
□ IgMのみの症例は発症しなかった.

■ TNF阻害薬を使用したRA 454例の解析では
 (Ann Rheum Dis 2014;73:1695–1699.)
□ 治療開始前にANA陽性は33.3%.
□ 開始後に陽性化したのが18.2%.
 陽性化までの期間は10.9ヶ月[1.3-80.0]

・薬剤別では, IFXが31.2%, ETNが11.8%, ADAが16.1%
□ 抗ds-DNA抗体は7.2%で陽性化. 陽性化までの期間は2年[0.8-4.2]
・薬剤別では, IFXが9.3%, ETNが3.3%, ADAが10.0%(ただし1/10)
■ ANAが陽性化した83例のうち, 薬剤性Lupusを発症した例は6例.
□ ANA陽性, 抗ds-DNA抗体陽性〜Lupus発症までの期間は様々であるが, 
ほぼ同時期に陽性化(陽性判明)している例が多く
, 継続的な抗体のフォローは薬剤性Lupusの予測に有用とは言い難い.

TNFα阻害薬で誘導される抗ds-DNA抗体はIgMアイソタイプが主であり, SLEの自己抗体がIgGアイソタイプが優位であるのとは対象的である.

■ 一部の研究では, 抗ds-DNA抗体において,
IgA, IgG/IgM比, IgA/IgM比の高値がループス腎炎と関連しており, IgG/IgM比は疾患活動性の高い多臓器障害を認めるループスで有意に高い報告がある.(PLoS One 2013;8:e71458.)
□ 従って, TNF阻害薬で誘導される抗ds-DNA抗体がLupus発症にどの程度関連があるかは微妙.
■ 一方で一部0.5-1.0%で高い親和性を持つIgGが産生され, それがLupus症候群に関連する.
□ しかしながら, 多くは軽症であり, Lupus腎炎を呈する例は少なく, 生じたとしても一過性の経過となる.
■ ANAや抗ds-DNA抗体を同様に, 抗リン脂質抗体もTNF阻害と関連し, 血管障害を合併する報告もある
□ 現状はTNF阻害薬による抗リン脂質抗体陽性化と血栓症リスクとの関連は明らかではない
□ しかしながら, SLEでIFXを使用し, aCL IgGが一過性に上昇した症例でDVTを発症した症例報告や
□ ループス腎炎でIFXを使用した患者が致命的な脳幹梗塞をきたした症例報告(死亡時のaPL抗体は陰性だが)があり, 必ずとも関連がないとも言い切れない
(Ann Transl Med. 2021 Mar;9(5):430.)

SLE患者に対するTNF阻害薬は再燃や増悪のリスクになるのか?

■ SLE症例に対するTNFα阻害薬の使用を大規模に評価した報告は認めないものの,
小規模の報告からは, ANAや抗ds-DNA抗体価は上昇を認めるものの, それによるSLEの再燃リスクを上昇させる報告はない.
■ それどころか, 投与中は関節炎の改善やループス腎炎の改善効果を示す報告もある.
■ TNFα阻害薬により誘発される抗ds-DNA抗体はLupusの病原性とは異なっている可能性もある.
(Ann Transl Med. 2021 Mar;9(5):430.)

■ SLE患者7例にIFXを4回投与(〜wk 10)した報告では
 (ARTHRITIS & RHEUMATISM 2007;56(1):274–279)
□ 5/7で抗ds-DNA抗体は上昇.
 さらに, 4/7で抗Histone抗体の上昇,
 6/7でChromatinの上昇, 4/7でIgM aCLの上昇が認められた.
□ 上昇のピークは4-10wkであり, その後は基礎値以下まで低下.

■ 中等度活動性のSLE 6例に対してIFXを使用した報告
 (ARTHRITIS & RHEUMATISM
 2004;50(10):3161–3169)
□ 抗ds-DNA抗体価やaCLは4/6で上昇したが, 
血清補体価の低下や血管障害, 再燃は認めなかった.
□ さらに疾患活動性はIFX投与中も低下し(特に関節炎),
IFX投与終了後8-11wkで再燃した.
□ LNの4例でもIFX投与中の蛋白尿は低下を認めた.

ANA陽性や抗ds-DNA陽性, またTNF阻害薬投与中の陽性化は, 薬剤反応性不良に関連している

■ RAで初回のBioとしてIFXを使用した111例を後ろ向きに評価し, IFX開始前後でANA, 抗ds-DNA抗体を評価し, 治療反応性との関連を評価した.
 (Arthritis Research & Therapy 2011, 13:R213)
□ 治療前後でANA陽性(≥40倍)の患者は変化ない(78% vs 82%)が,
ANA≥160である患者は有意に上昇(25%→40%)した.
□ 抗ds-DNA抗体陽性例も有意に上昇した: 3%→26%
■ ANA, 抗ds-DNA抗体とIFXへの反応性
□ 治療前後のANA陽性(≥160倍)は
IFXへの反応性不良に関連する.
□ 治療前後でANA titerが上昇した
症例では77%が反応不良である.
□ IFX投与後に
抗ds-DNA抗体陽性の21例中
16例(76%)が反応不良であった.

 反応良好が2例,
寛解達成例は0例であった.

■ RAでTNF阻害薬を使用した454例の解析では
 (Ann Rheum Dis 2014;73:1695–1699.)
□ ANAと治療反応性不良の関連をみると,

 初回反応不良例ではANA 5.4%

 2剤目反応不良例ではANA 21.6%と陽性率は増加している.

■ 皮膚乾癬 146例の後方視研究よりADAやETNへの治療反応性を予測する因子を評価した.
 (Journal of Dermatological Science 76 (2014) 180–185)
□ ADAへの治療反応性不良, 副作用にて継続困難のリスク因子は,

 過去のTNFα阻害薬の使用 HR 1.63[1.11-2.40]
 
 基礎の抗ds-DNA抗体(/U/mL) HR 1.06[1.01-1.11]が挙げられた

■ TNFα阻害薬で治療を行った乾癬患者97例の解析では
 (Br J Dermatol. 2010 Apr;162(4):780-5.)
□ 初回のTNFα阻害薬の使用, 1剤不応, 2剤不応, 3剤不応で分類

□ 不応が多くなるほど, ANA, 抗ds-DNA抗体陽性率が上昇する.

□ TNF阻害薬使用中にこれら抗体が出現するのは
治療反応性の低下に関連性があるかもしれない. 

まとめ

■ TNF阻害薬はANAや抗ds-DNA抗体を誘導する.
□ ANAは1割前後〜半数と様々. 抗ds-DNA抗体は1割弱程度の頻度.
 特にIFXでリスクは高く, ETNやADAでは若干リスクは低下する.
□ 元々ANAや抗ds-DNA陽性例, SLE患者でもTNF阻害薬の使用により抗体価は上昇する.

■ しかしながら, 抗体の出現, 増加が薬剤性Lupusの発症, SLEの再燃に関連している証拠はまだない.
□ TNF阻害薬による誘導されるのは抗ds-DNA抗体IgMが主. 一方でSLE病態や疾患活動性に関連しているのはIgAやIgGである.
□ SLE患者に使用することで, 抗体は上昇するが, 疾患活動性は低下する報告もある
□ 抗リン脂質抗体も誘導されるリスクがある. 症例報告では血栓症の報告があり, しばしば致命的となるため, 注意が必要である.

■ TNF阻害薬使用中のANA陽性化や抗ds-DNA抗体の出現はTNF阻害薬不応を予測する因子になり得る.

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