手関節の米粒腱鞘滑膜炎

数カ月〜1年の経過で片側手関節の腫脹を認めた高齢男性の症例.
MRI, エコーにて腱鞘に沿った高度な炎症が認められた.
外科手術にて米粒状の組織が検出された.

組織病理・培養からは結核やNTMなどの抗酸菌は検出せず.
関節リウマチやSLEの特異抗体も陰性であった.

術後, 関節症状は部分的に軽快したものの, 炎症は残存.

どのような病態を考える必要があるのだろうか?


Rice bodyを伴う腱鞘滑膜炎

(World J Clin Cases 2022 November 16; 10(32): 11908-11920)
・1895年にRieseが結核性関節炎症例の関節より, 精白米に類似した組織を報告し, Rice bodyと命名した.
・病理的にはRice bodyは慢性関節炎における非特異的反応による好酸性の核とフィブリンより構成されている.
・Rice bodyの存在自体は疾患の進行や重症度, 予後の関連は薄い.
・結核性関節炎, NTM関節炎での報告が多く,
他に真菌感染症, 人工関節置換術での報告がある.
 膠原病ではRA, 血清陰性RA, SLEでの報告がある.
・主に肩関節や膝関節の滑液包や関節包で認められることが多い. RAに伴うものは膝関節で多い.
・この症例のように手関節における報告はかなり稀である.

Rice bodyの形成機序はまだ明確ではない

・滑膜と同じI型, III型コラーゲン, AB型コラーゲンが同程度の割合で含まれていることから, 滑膜の微小梗塞に関連した機序の可能性
・Rice bodyの一部に血管組織が含まれていることから, 滑膜の一部であった可能性が示唆されている.
・一方で滑膜との関連が乏しい報告もある.

まとめると, 滑膜微小梗塞と滑膜B細胞が関連しており, 
梗塞組織が滑液中に剥がれ落ちることで炎症細胞や滑膜B細胞, 血管組織を含む滑膜断片である初期Rice bodyが形成され, B細胞よりフィブリンが分泌, 沈着し, 最終的なRice bodyが形成されると考えられる.

画像診断におけるRice bodyの主な鑑別疾患は
滑膜軟骨症と色素性絨毛性滑膜炎.

・これらは主にMRIで評価が可能.
・MRIではRice bodyは米様形態の構造物として描出され, T1, T2で低信号
・滑膜軟骨症はT2WIで高信号
(軟骨組織が含まれるため)
・色素性絨毛滑膜炎では
ヘモジデリン沈着部位が信号空洞と
して描出される.

手関節のRice bodyを伴う腱鞘滑膜炎は稀.

・論文報告のReviewにて, 61例の症例を抽出
・高齢者で多く, 平均年齢は59.4歳(範囲3-90歳)
 
 男女比は1.54 : 1と男性で若干多かった.
・発症は徐々に進行するパターンであり, 大半が限局性であった.

 平均罹患期間は18ヶ月[0.5-60].
・手関節屈筋腱鞘が95.1%と多く, 伸筋腱鞘は3例のみとほぼ屈筋腱鞘である.

原因疾患は
 結核が21例(34.4%), NTMが15例(24.6%), 特発性が19例(31.1%)であり,
 抗酸菌感染症が最も多い原因であった.
 
 他はSLEが1例, RAが2例(seronegative 1), JIA 1例, カンジダ 2例

・治療は抗結核薬の使用, Rice bodyの外科的切除にて反応を認める例が多いが, 再発例もあり. 特にNTMでは40%で再発を認めた.

まとめ

・手関節のRice body腱鞘滑膜炎では, TB, NTMの評価は重要.
・組織検体を用いて上記検査はしっかりと行う.
・治療は上記ならば抗菌薬, 抗結核薬を使用. 
 全体的にRice bodyの切除は病勢の抑制に有用と考えられる.
・DMARDについては情報がほぼない. 試されてはいるらしい.


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