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もうきっと会えない人を思い出して

過去に仲良くしていたのにいつの間にか疎遠になり、今どこでどうしているのかはおろか、連絡先すらもわからなくなってしまった人たちがいる。

これはきっと普通のことで、誰しもにそういう人がいるのだろう。

15年ぶりにふと、ある人のことを思い出した。

中学高校生の頃、仲間内で俄かにホームページ制作が流行り、私は好きなアーティストのファンサイトを運営していた。
運営と言ってもライブレポという名の私的感想を掲載したり、当時BBSと呼ばれていた掲示板で数える程度のファン仲間と交流したりというくらいで、オンラインで活動しているファンが誰しも知るようなファンサイトとは違ってあくまで小さな個人商店だ。
個人商店はたくさんあり、その中のいくつかを運営している数人のファン仲間と仲良くなった。
今思うと彼女たちとの触れ合いは私にとってオアシスのようなひとときだった。

私の好きなアーティストのファン層は自分よりもやや年上の女性がメインだった。ファン仲間も当時16歳くらいだった私に対して25〜30歳のお姉様たちだった。
たまたまではあるが彼女たちは関西や九州に住んでいて、近郊のメンバーではたまにオフ会を開催していたようだった。
私は関東に住んでいたし、バイトもしていなかったからお金もなく、フラッと会いに行けるような感覚ではない。
年齢も離れているし、子供だと思われていないかななどとドキドキしながら毎日BBSでコメントをやりとりした。
それでも、お姉様方は寛大で、敬語じゃなくてタメ語でいいよと言ってくれ、日々たわいない会話をしてくれ、正月には自作の年賀状を送ってくれる人もいた。
10歳以上も年上のお姉様の日々を切り取った写真がパッチワークのように繋げられた年賀状は私の宝物になり、長い間部屋に飾っていた。

一人だけ、オフラインで一度会うことができた人がいた。

その人は私の好きなアーティストのファンであるのと同じくらい、宝塚のファンだった。彼女のブログには宝塚のこともたくさん書かれていた。
関西人である彼女の書く小気味良い文章が私は大好きで、また当時彼女もまだ看護を学ぶ学生だったらしい中で自分の現状や将来に対するさまざまな苦悩も表現されており、彼女という人格にも心惹かれていた。そして彼女の好きな宝塚にも興味が湧いた。
そのことを彼女に伝えたところ、わざわざ気に入りの舞台のDVDやビデオを何本も我が家へ送ってくれた。彼女も自分の好きなものを広めたい気持ちはあったのだろうが、純粋にとても感激した。箱の中には手紙も添えられていて、彼女の直筆にどきどきした。
自宅でDVDを一気見した。宝塚は私の想像を遥かに超えて独特の世界であったが、推しっぽい俳優さんもできた。何より彼女の好きな世界を垣間見れたことに興奮した。
お礼と感想をしたためた手紙は便箋4枚にもなったのを覚えている。

そんな体験を通じて彼女のことがますます気になる日々を過ごしていたところ、彼女から思いがけないメッセージがきた。

「今度、ゆりこちゃんの高校の文化祭の日にちょうど東京に観劇に行くから、文化祭にお邪魔しようかな」

最高潮に嬉しかった。
文化祭は当時私が勉強も恋愛もせずに青春のすべてを費やした部活の集大成の場でもあり、それを彼女に見てもらえるのも、さらに彼女に会えるのも夢みたいだった。
こんなキラキラした出来事があるんだなと思った。

そして、当日。
無事私たちは高校の校舎内で会うことができた。これが最初で、たぶん最後の機会だった。
会ってみると、彼女は思っていた以上に小柄で、関西弁で時々毒も吐く文章とはやや印象が異なり、可愛らしく、笑顔を絶やさない人だった。
私は緊張しすぎていて、会ったときに何を話したのか残念ながらあまり覚えていない。今だったらゆっくりお茶でもできたのだろうが、高校生で文化祭のバタバタの合間だったので、立ち話しかできなかったのが悔やまれる。

その後私は大学受験勉強に突入し、またmixiなどSNSの台頭によりホームページ制作がやや下火になり、ファン仲間の更新頻度も徐々に減っていって、私のファンサイトの運営も交流も、いつのまにか途絶えてしまった。
こういうのは本当に、どれだけ大好きでも、意識して繋ぎ止めようとしない限り、いつのまにかなくなっている。


深夜にふと彼女のことを思い出して、猛烈に会いたい気持ちになり、FacebookやインスタやXで検索してみたけれどそれらしき人はいなかった。

お互い多分まだ生きているだろうに、もうきっと一生会えないという事実に小さく絶望しつつも、こういう珠玉の出会いがあるから人生ってやめられないな、と思う。

大好きな人とはできるだけ離れたくないけれど、離れてしまっても、いつか思い返して噛み締めることができると思うと、あまり悲しいことはないのかもなという気がしてくる。

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