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【エッセイ】蛙鳴雀躁 No.19

 大勢の若い子たちと知り合う中で、婦人警官から女性刑事になった女子がいました。先に、お断わりしておきますが、人物設定で彼女と類似した点はまったくありませんと言えば、ウソになります。
 背が高く、美人で、骨格がしっかりしていました。

 つたない私の小説に登場する警部補の女性刑事とはまったく異なる気質の女の子でした。
 気取らない性格で、だれとでも気軽に話していました。男っぽいわけでもなく、女らしいということもなく、何事にもこだわらず、あっけらかんとしていました。目立つ服装をしていないのに、存在感がありました。
 ひと言でいうと、大柄ですがすがしい、べっぴんサンでした。

 年に一度、恒例の旅行があり、そのとき、みなで腕相撲をやろうということになりました。
 私自身は、参加したくても、筋力がゼロなので、見物していました。彼女は男女を問わず、だれと試合をしても、負けなかったのです。それも接戦の試合は一度なく、秒速で男子を倒していくのです。
 驚きました。
 運動部に入っているのかと、訊ねると、「家業を手伝わなくてはいけないので、入っていない」と言うではありませんか。

 フランス料理店のお嬢さんでした。お店を訪ねると、一階と二階に広いフロアがあり、彼女は、左右の手に大皿を二枚ずつ、のせて2階にあがってきたのです。
 めいっぱいひろげた手に料理をのせた大皿を、片手にふた皿、計四皿を落とさずに持てることにまずびっくり仰天しました。
 なんのてらいもなく笑顔でこなす姿に、敬服しました。

 どんな仕事に就くのか、予測できませんでしたが、事務職につく彼女の姿は想像できませんでした。

 警官になる試験に受かったと聞いたとき、その道があったのかと、納得でした。卒業後、訪ねてきてくれたとき、警察学校がつらくてなんどもやめたいと思ったと言っていました。直後に、もらったピンクの封筒に入った同色のカードには、「実務研修の三ヵ月は地域(交番)の警察官とちがい、とてもしんどい仕事ですが、被疑者の逮捕や裏付け捜査に出させてもらい、地域とはまったく違う仕事に新鮮さを感じています。覚えなければならないことがたくさんあって、たいへんですが、やりがいもあります」と、要約するとこのように書いてありました。それからしばらくしてもう一度、来てくれました。
 刑事になったと聞き、彼女なら当然だと思いました。

 刑事に昇格した後の彼女がどうなったのか、知るよしもありませんが、今頃、どうしているのだろうと時々、思い出します。


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