#シロクマ文芸部 冬の夜 ペチカで夜話
冬の夜から始まる物語、始まり、始まり。
今日は朝からちらちらと雪が舞い、夜になるとさらさらと音もなく雪が降り積もってきました。そんな夜はペチカのまわりに集まってばあばのお話し聞いてみない。
ちいちゃんや翔太のパパがまだ子どもだったころのお話しよ。
毎週日曜日の夕方から世界名作劇場と言うアニメーションがあってね、ばあばもパパも大ファンだったの。その中で一番可哀想なお話しても良いかな、パパもばあばも泣いちゃた、でもとっても素敵なお話よ。それは
フランダースの犬ってお話、ちいちゃんも翔太も知ってるかな?知らない…、じゃあお話しするね。
昔、フランダース地方の都市アントワープ郊外の小さな村に15歳のネロと正直者な祖父ジェバン老人と老犬パトラッシュが慎ましやかに暮らしていたの、ネロの両親は早くに亡くなり病弱なお祖父さんが引き取って育てていた。パトラッシュは金物屋の主人にこき使われ、あげくに捨てられていたところをジェバンと幼少のネロに運よく拾われたの。パトラッシュは大型犬でドックカートを引くことが出来たから、ジェバン爺さんとネロはミルクを運搬する仕事を始めたのよ。暮らしは貧しかったけど穏やかな毎日だったの。
ネロの唯一の親友は風車小屋の一人娘の少女アロア、ネロより三つ年下ね。アロアはネロの絵の才能を早くから見抜いていて、絵を描くように励ましていたの。ところがアロアの父バース・コゼツは家柄の低いネロのことを快く思っていなかった。いつもかげからネロのことを憎々しく見ていたの。
ネロはアロアからもらった雑記帳に毎日夜遅くまで絵を描いていた、余りにも熱心に書くものだから寝ぼうして学校に遅れそうになってね、その時アロアの馬車に乗せてもらったんだけど二人とも遅刻してしまったの、その件でアロアの父親コゼツは腹を立ててジェバン爺さんにネロに絵を書くことを辞めるよう迫ったの、でもジェバンはネロに絵を書かせたかったから今以上に働いて画集や絵具を買ってやろうと思ったの。無理がたたったのね、ジョバンは倒れてしまった。ネロはジョバンに内緒で港の荷物の運搬を手伝うことにしたの、ジョバンに温かい美味しい物を食べさせたかったから、でもお給金をもらったその日にジョバンは亡くなってしまったのよ、可哀想ね…。
ネロはひとりぼっちになってしまった、アロアは心配してネロを励まし続けたの、あるときネロにアロアが書いたお祖父さんの絵を見せた時、ネロはその絵を見て気が付いたの、僕もジョバンお祖父さんの絵を描きたいと…、その年のアントワープで開かれる絵のコンクールにお祖父さんの絵を出すと決心したのよ。何とか書き上げ出品することが出来たの。でも生活はますます苦しく、食べる物もなくなって、パトラッシュも元気がなくなってきた。
そんな中、もっと悲劇が襲ったの、風車小屋でネロはアロアのお人形を拾って、それを届けた夜に風車小屋は火事にあい村の人の預けていた穀物を全部焼いてしまったのよ、村の人はネロを疑い怒りを全部ネロにぶつけたの…。住む家を追い出され、街をさまよっていると道に黒い袋が落ちていた、それには2000フラン金貨が入っていて昼間アロアの父親コゼツが無くして大騒ぎしていた袋だったの。それを拾ってコゼツに届けに行ったのに、こともあろうにコゼツはネロに疑いを掛けて泥棒呼ばわりするし、コンクールにひとすじの希望を掛けていたのに一等賞にはなれなかった。ネロは失意の中にいたわ…。雪の舞う中、アントワープの聖母大聖堂の前に佇んでいたの。その日はクリスマスの日、教会のミサが終わり皆が帰った後も、扉が開いたままになっていたの、ネロとパトラッシュは導かれるようにふらふらと大聖堂の中に入っていった。目の前には憧れていたルーベンスの描いたキリストの絵が迎えてくれた。絵をこころざすきっかけになったキリスト降架の画
ネロは夢の中にいたの、横たわるパトラッシュをだきこう言ったのよ
ぼくもう疲れたんだ。
何だかとても眠いんだ。
パトラッシュ…。
それが最後の言葉、
ネロとパトラッシュは教会のルーベンスの絵の前で亡くなったの。次の朝、コベツは盗みや放火はネロではないと分かりネロを探して謝ろうとしていたのに一足遅かった、絵も才能が認められ正式に絵を学ばせたいとコンクールの審査員から連絡があったの。その後
ネロとパトラッシュは手厚く村人達に葬られたそうよ。
ちいちゃん、翔太、クリスマスのとっても悲しいお話だったわね、でもネロとパトラッシュは神様に召されて幸せだったのかもしれない。
冬の夜のお話どうだった?
今度は楽しいお話しましょうね。
ペチカの前で
終わり