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[#毎週ショートショートnote]一方通行露天風呂

平家の落人伝説の残るこの村に御山と崇められる高々しい峰があった。
朝日が昇れば御来光を仰ぎ 日が沈めば 漆黒の闇と化す
最長老の婆バが申すには この御山の何処かに 片道だけの(帰れずの)露天風呂があり
村の若者が探しに行ったが誰一人として帰ってこんじゃたと……
なんでもその露天風呂は現世を洗い流し 真人間として生まれかわるんじゃと…
芳一は婆バ様からその話を聞いて行ってみたくなった
賭博で借金をこさえヤクザもんが毎日取りたてに来るし 揚げくに女房には逃げられる有様なのだ
「よっし 今度こそ真人間になってやる」
芳一は夜明けとともに御山へ向かった
道なき道を尾根づたいに彷徨い続けること五日 とうとう湯けむりの立ち上る露天風呂を見付けた
「言い伝えは本当だったんだ」
意識が朦朧とする中 芳一は手を合わせ お湯の中に足を入れた
すると中から手がぬるりと出てきて
「行きは良いよい帰りは怖い 怖いながらもはいりゃんせー」と どこからか歌の聞こえてきて その白い手は優しく芳一を招き入れた
芳一は 赤児のような顔をして
笑いながら消えていった 
とな……

おしまい

たはらかにさん お世話になっております
今回は 納涼怪談話にしてみました👻

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