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[#毎週ショートショートnote]天ぷら不眠

歓迎会の帰り 夜風にあたりながら 東池袋の辺りをふらついていたら 小さな路地から菜種油のいい香りがしてきた。
「ヘェ~ ここはレトロな感じの店が並んでるな」
春樹は 赤提灯に天麩羅と書かれた小さな店の暖簾をくぐった。
店内はカウンターだけの小さな店でまるで昭和にタイムスリップしたかのようだ。
年季の入った店主に軽く会釈し お品書きを目で追った
「天麩羅のいい匂いに誘われてきたんです お薦めの天麩羅とお銚子1本お願いします」
「へい」
言葉少ない店主は チリチリと音を立て 天麩羅を 揚げ始めた
出された天麩羅は野菜のようだ
一口食べると少し苦みがあり春の香りがした
「親父さん これは?」
「へい 蕗のとう そっちはヨモギ」
良い店を見付けた、 足繁く通ってみたい 春樹は店の名前を確認した
不宇眠 『ふうみん』
ふうみん ふうみんと反芻しながら
店主に「美味しかった またきます」
と挨拶して店を出た
数日後 友達を誘って店を尋ねてみたがそれらしい店は見当たらない

春樹はその夜 ふうみん ふうみんとそれこそ不眠になるくらい 店のあった場所を思い出そうとした
無理もないそれには訳があった

あの日 春樹が店を出た後
店主がぼそりと呟いた

「すまんな 店は今日かぎりで終しめいだ」


終しめいだ😊

たはらかにさん いつも楽しいお題目ありがとうございます。 今回は字数多めですがお目こぼしを🙏
ショート ショートはもはや生き甲斐
いつかキレキレのやつ書いてみたい🔥

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