#シロクマ文芸部 金魚鉢 [金魚の憂鬱]
吾輩は金魚である
名前はまだ無い ともいえない
最近 この家の(伊東家)のママ(由紀)が名付けてくれた
その名前は……トメ! である ハァ~なんでトメ!正直 ぷっかり浮いてしまいたい
例えば ジョセフィーヌとかマリアンヌとか 付けられんのか!
何 そのしらけた目 ハイ 身の程知らずでした
吾輩は 夏祭りの夜店の金魚である
この伊藤家の坊ちゃん(はるま)にすくい上げられこの家にやってきた
まあるい朝顔の花びらのようなお定まりの金魚鉢に入れられ 小石がひかれ金魚草もゆれてだいじに扱われた
そう 最初の頃は
ところがである 最近 ママ(由紀)が金魚鉢に顔をすり寄せ愚痴り始めたのである
「コラ!トメ!ナンなのよ!はるまの中学受験の話になると パパ途端に逃げ出す まともに聞こうとしない 今からしっかり道筋付けとかないと パパみたいに万年 平……あたりで消えてしまう……まったく話になんないわ」
正直 金魚鉢の内側から 間延びした由紀の怒った顔は ビビる!
尾びれが恐怖で震えておるのがわからんのか
由紀「はるまー 塾に遅れるわよーたくーいつも いつもー 早くしなさい!」
はるま坊ちゃん むっつりした顔でトメを睨みつけ 玄関ドアを思いっ切り大きな音を立てて出て行く
その度に 金魚鉢は揺れて大きな波紋が広がる 吾輩にとっては 地震である ほんと迷惑な話
「コラ!トメ!ナンなのよ!部屋に点々とある脱ぎっぱなしの服 ズボンなんか見なさい ズルズルーっと脱いで蛇腹のようなこの形 一つ一つを拾って歩く 私はゴミ拾いかっちゅうの!まったくたまんないわ」
ハイハイ 何なりと愚痴りなさい吾輩由紀ママの頑張り見ておりますから
「トメ~ 今年もパパのボーナス無事に出ました ありがたや トメありがとう」
いえ 吾輩に感謝されても……パパにその言葉言ってくれ
「トメ 日頃のお礼に金魚の餌 ワンランク上げて高級 上質金魚の餌って書いてあるの買ってきたのよ」
おんなってもんは 高級って言葉に弱いね たいして変わりはしないのに
お礼に口から ぽわりと泡を吹いてやったら 由紀ママ 満足そうな顔をしてた
なんだかんだ言っても 伊東家は由紀ママでもっている パパも はるまもママに ゴロニャンだ
「パパ~ 今日スーパーの特売でステーキ肉買ってきたから 早く帰ってきてね 私もワイン 飲んじゃおうかなぁ」
アァ~肉の焼ける良い匂いがしてきた
由紀ママもワイン飲んでほんわりしている 楽しい夕餉だ テレビでは ドジャーズとヤンキースの試合 パパもはるまも大谷の大ファンだ 大谷が打てば二人抱き合って飛び跳ねている
吾輩 また金魚鉢が揺れて地震だけれど
笑い声はいいもんだ
伊東家も 泣いたり笑ったり喧嘩したりしてジタバタしながら生きている
それを見守るのが吾輩の役目だ
今日は由紀ママがご機嫌だ
お陰で吾輩今日はいい夢みられそうだ
おわり