見出し画像

友たる良書について

人生を彩る事柄は、千差万別だ。
人それぞれに好きだと思うこと、熱量高く持てるものはあって、どれも違って良いものだ。

私にとっての人生を彩る事柄は、
読書と旅である。

自慢できるほど多くを読んでいるわけではないし、誇れるほど旅で訪れた場所が多いわけでもない。しかし、私の中でずっと良書として友なる本が何冊か、心のアルバムに残る場所はある。
今回はその友なる本から得たエッセンスについて語ってみたい。

その友の名前は、「人間の土地」という。
「星の王子様」で有名なフランス人作家でパイロットのサン=テグジュペリがこの世に残してくれた良き友だ。

10代の頃、ふらっと立ち寄った本屋さんで見かけたのが出会い。
タイトルの奥深さと、宮崎駿氏が書き下ろした飛行船の表紙の妙さに目が止まった。ほぼ一目惚れに近い感覚だった。

シェークスピアは語った。
真の恋は、みな一目惚れから始まると。
それは本当だなと感じる、人に対しても、モノに対しても。

この友との出会いは、一目惚れ。
そこから十数年を経てもなお、色褪せない友であり続けている。

サン=テクジュペリの職業飛行家としての数奇な体験から、人間の真の姿を、自然の偉大さを、星々の間から地球を見つめ、生き抜いた彼ならではの視点から語られる美しい物語。

全て美しく、時に残酷で、時に愛おしく、時にやるせない。
この友たる物語から、私が特に心を打たれた文を共有したい。

”あのともしびの一つ一つは、見わたすかぎり一面の闇の大海原の中にも、
なお人間の心という奇蹟が存在することを示していた。あの一軒では、読書したり、思索したり、打明け話をしたり、この一軒では、空間の計測を試みたり、アンドロメダの星雲に関する計算に没頭したりしているかもしれなかった。また、かしこの家で、人は愛しているかもしれなかった。それぞれの糧を求めて、それらのともしびは、山野のあいだに、ぽつりぽつりと光っていた。中には、詩人の、教師の、大工さんのともしびと思しい、いとも慎ましやかなのも認められた。しかしまた他方、これらの生きた星々のあいだにまじって、閉ざされた窓々、消えた星々、眠る人々がなんとおびただしく存在することだろう…。努めなければならないのは、自分を完成することだ。試みなければならないのは、山野のあいだに、ぽつりぽつりと光っているあのともしびたちと、心を通じあうことだ。”

引用:サン=テクジュペリ著 堀口大學訳「人間の土地」(新潮文庫)

この文章から、私はまるで飛行艇で夜間飛行している気分になった。
まるで飛行艇から夜の街の営みを眺めている気分だ。
そして、全くの孤独を味わい、自分という存在にフォーカスし始めていた。

自分という存在こそ、何ものよりも中心に据えて、完成を努めること。
自分という存在を通じて、たくさんのそれぞれの輝きを携えたともしびたちと心を通わせるということを試みていくこと。

どんなに時を経ても、自分という存在とは旅立ちがくるその時まで
ずっと付き合い続ける存在。だから、自分の存在にフォーカスし、自分の人生を集中して生きていくことが、自分だけの旅路を切り開くことであろう。

どんなに時を経ても、自分という存在のそばには支えてくれる存在、厳しさを教えてくれる存在、愛おしいと思う存在、さまざまな光をもつ存在がいて、彼らとの軌跡を紡ぎ、心を通わせることが自分の成長にも繋がっていくであろう。これらは普遍の営みなのかもしれない。

この友たる良書から、私は人生において大切にする視座を得た。
この人生は、一度きり。だからこそ、自分を完成させよう。
だからこそ、そばにいる人たちと心を通わせよう。

いつも変わらずに、私の友であり続けてくれるこの良書に出会えたことに、
感謝を込めて書き綴る。

人との巡り合わせと同じくらいに、本との巡り合わせも、きっと人生を豊かにしてくれるから。

みなさんの友たる良書はどんなものでしょうか。
またどこかで素敵な私の友たちを紹介できると嬉しいです。

最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
Bless you:)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?