見出し画像

北欧⑦農家のB&B ノルウェーで一番美しい村ノールハイムスン

早朝フロムから地元の路線バスで、ノールハイムスンに向かった。
フロムがある観光地化されたソグネフィヨルドには、興味がなかった。
目差したハダンゲルヴィッタフィヨルドは、四大フィヨルドのなかで最もゆるやかで、のどかな牧歌的な風景を持っていると言われている。
果樹園が広がり山の斜面には、りんごやさくらんぼの花が咲き見事だという。
今回は7月だったために花は見られなかったが、
もっとも女性的な美しさを持つといわれる雰囲気は、満喫できた。
ここの果樹園は、今から 800年ほど前にこの地を訪れた僧侶が植えたものだ。
春は花で満開となり、秋にはその実を収穫する。
山の斜面には、ひつじが草を食み、自然との共存が穏やかさを増していた。

ただそこに行く過程は、一つのミスも許されなかった。
まず路線バスでヴォスに行き、そこで乗り換えヴルヴィックまで行き、
今度はフェリーでアイフィヨルドというちいさな村に行き、そこから高速船に乗り換える必要があった。
朝一番のバスに乗れないと、このスケジュールはおじゃんとなるのだ。
フロムの案内所で、必死になる必要があったのだ。
だが順調に、ルートを進むことができた。
バスは、山々を縫うように、トンネルを抜け、がけ道を走った。
樹の緑がまぶしい、なだらかな山々に囲まれたフィヨルドを、眺めながら走った。
ハダンゲルヴィッダは国立公園にもなっており、ノルウェー第3の規模をもつフォルゲフォンナ氷河 といった見どころもあり、ハイキングもお勧めだった。
そのハイキングがたのしみだった。

途中の小さな村のアイフィヨルドで、フェリーを待つ時間があった。
波ひとつない穏やかな海を見ながら、散策をした。
ニュージランドのひとり旅で、ミルフォードサウンド・フイヨルドの1泊2日のクルージングを体験した。
翌朝の朝もやの中、カヌーでの散策があった。
カヌーに乗ると、目線が水面とほぼ同じぐらいだった。
海面をすべるように進んでいると、海と一体となった。
海というより、波が全くなく鏡の上を滑るような感触だった。
そのときの感覚がよみがえってきた。
穏やかさと静けさのなかに自然が自分の中に入り込んでくるような感覚だった。

あちらこちらの山斜面に、かわいい家が建っていた。


窓やベランダには花が植えてあり、緑に囲まれた風景の絵本をみるようであった。
どこからか妖精がでてきても可笑しくない風景で、そののどけさに、こころがとろけて行った。
案内所に寄ると絵本があった。
ノルウェー民話で有名なトロールの絵本もあった。



なんと日本語の絵本もあったので、孫の土産に買った。
トロールは想像上の生き物だが、本当にこの森に居そうな環境だった。

ようやくフェリーに乗り、ノールハイムスンに到着した。

ノルウェーで一番美しい村 ノールハイムスン

ここにもホテルはあるのだが、やはり高かった。
ここではB&Bに泊まる予定で、案内所を探した。そこには20代の青年がおり、パソコンでB&Bを探してくれた。
わたしたちは徒歩で行けるところか、送迎をしてくれる宿を希望した。
やがて一軒の家を、紹介してくれた。しかし、ここからは距離があると言った。でも今日はもう閉店で帰るので、自分がこれから送って行くと言った。地図を見せてくれたが、さっぱりわからなかった。ずいぶんと田舎のようであった。明日はバスがあるから、バスでここまで来れると言った。
B&Bからバス停までは10分と言ったし、熱心に勧めるのでそこに決めた。夕食の買い物のために、近くのスーパーに寄り、彼の車で出発した。車は海沿いの道を、ドンドンと走っていった。車ですぐと言う話だった。だが10分以上も、走った。するとこんどは山道を登り始めた。わたしは「明日は送ってくれないと、この道は歩いていけない」と何度も繰り返した。すると彼は「大丈夫かも」と明るく言った。may be~では困るのだ。必ず送ってくれる約束がないと、重いスーツケースをひきずっての山道は下れない。そんなこんなしているうちに、山の頂上付近の農家に着いた。広い敷地だった。畑や野原や開墾途中の土地に囲まれて、農家はあった。農家らしいどっしりした重厚な家だった。宿泊所は納屋を改造して作られていた。彼が帰る時に、更にわたしはバス停まで車で送ってくれないと泊まれないと言った。しかし彼は「ノープログラム」を繰り返すのみだった。主婦である初老の女性が、出迎えてくれた。英語は、多少大丈夫だった。彼女にも、明日の送りを頼んだ。家の傍に車があった。その車は主人のものだから、わたしは運転できないと言った。でもトライすると言ったので、不安ながらも泊まることになった。

部屋は2階にあった。
一部屋ごとにそれぞれ、工夫がされていた。
こころのこもった部屋作りで、昔の家具や備品が置かれていた。
手作りの布やレースが素敵だった。
主婦が自分の趣味でインテリアに工夫している様子が、ありありと見受けられ親近感を覚えた。
天井には大木の梁が横切り、柱も太く安定感をかもし出していた。
ただ、トイレとシャワー室と台所が別棟にあった。
一度、建物から外に出てからでないと、行けなかった。
そこも納屋を改造したものだったが、納屋らしさが多く残っており、
コンクリートのままであったり、昔の設備そのものだった。
その別棟の横に、テントが張られていた。
ドイツ人家族がそこに滞在していた。
妻が話しかけてきて、このホテルは良くないと言った。
「夜は寒いから気をつけて」とも教えてくれた。
シャワー室は、コンクリート床そのままで、隣とは板仕切りだった。
わたしが一番にシャワーを使った。
お湯の出し方に苦労したが、なんとかシャワーを浴びた。
他の2人もシャワー室に行ったが、すぐに戻ってきた。
水がお湯にならなかったと怒っていた。
寒い中、裸になったのに暖かいお湯が出なければ当然であろう。
寝る前の会話で、このB&Bは案内所の彼の親戚か知り合いに違いないと
3人で確信をした。
朝食は、部屋の雰囲気から楽しみであった。
1階にある食堂から、コーヒーの香りが漂ってきた。
そこに入っていくと、素敵にテーブルセットが並んでいた。
台所の隅に、ご主人らしい姿がチラッと見えた。
メニューは簡素だった。
パンとヨーグルトのみだった。
ハムもチーズもなかった。
くだものは、缶詰のカットフルーツでがっかりした。
B&Bは朝食付きなので、それが楽しみだったのに。
ドイツ人の妻の話が、頭を横切った。

出発時間まで、散策のつもりで周りを歩いた。
山頂に向かう道があったので行こうとしたが、ぬかるんで水が貯まっていたので諦めた。
ただ広然とした風景のみで、下のほうには、海が見えていた。
バスの時間が近づいてきたので、カバンを運んだ。
朝食時に、ご主人がバス停まで送ってくれると言われた。
だがバス停まで車で5分と聞いた。
そこでトレッキングもできず、散策も思うようにならなかったので、下り坂でもあるし、
荷物だけ車で運んで頂き、2人は歩いて降りることにした。
バス停まで、徒歩20分ぐらいと聞いていた。
30分あれば余裕と思い、車より早めに出た。
山に囲まれた坂道を、歩き始めた。
下へ降りるごとに民家が、増えてきた。
10分過ぎたときに、友人を乗せた車が通り過ぎて行った。
山道ゆえに曲がりくねった道を歩いた。
所々では海が見えていた。
20分過ぎても、まだ半分も過ぎていないような感じだった。
バスが走る車道が、まだずい分と下の方に見えていた。
2人は焦ってきた。
この調子では、時間に間に合わない。 バス便は少なかった。
予定のバスに乗らないと、午後までバスはなかった。
走り始めた。
坂道を転げるように走り、汗でびっしょりになった。
友人の方が、足は速かった。
「先に行って、バスを止めておく」の言葉を見送った。
その姿を追うこと数分で、山道は終わり、バス停が見えた。
すでにカバンと共にバス停にいた友人が、心配顔で待っていた。
何とか間に合ったようだ。
そこには、ご主人の姿はなかった。
もう、どこかに行ったようだ。
だがバスが到着直前に、そのご主人が戻ってきた。
そして紙袋を、はにかみながら手渡してくれた。
お土産だと言った。
そこから良い香りと暖かさが伝わってきた。
バスに乗り込んで中を見ると、焼きたてパンだった。
暖かいうちに食べようと、バスの中で食べた。
パンと一緒に小さな缶も入っていた。
それが何だかわからなかった。
 
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?