『かもねんしゃいん』第1話

            X☆TIE(カイタイ)
○スタジオ・中

女性「(気持ちよさそうに)あん、あん♡」
男の声「ふん、ふん、ふんッ」
   声を出す男は大神獅子(おおがみれお・
   28)。ベッド上で、正常位の体勢で
   SEXをしている。
獅子「(真顔で)ふん、ふんんッ」

○獅子の妄想

   華やかな会場──多くの人で埋め尽くされ
   ている。
   壇上に佇む正装した獅子。
獅子「(感激して)」
   手を差し出す獅子に、オスカー像が渡さ
   れる。
   オスカー像を手渡した者の姿はハッキリ
   とはわからない。
獅子「(プルプル震えて)」

○スタジオ・中

   獅子は正常位の体勢のまま、両腕を上に
   挙げている(オスカー像を受け取ってい
   る形)。
獅子「(感激して)うおおおッ!」
   「カットおッ!」の声が響く。
監督「(メガホンを手に、来る)ふざけてんの
 か、お前ッ」
獅子「俺を呼んでるんです(真顔で)オスカー
 が!」
   獅子にメガホンを投げつける監督。
     *    *    *      
   監督にガミガミ言われている獅子。
獅子のN「名前は大神獅子、芸名だ。レオンと呼
 ばれている」
   呆れた様子の監督と、何故か誇らしげな
   獅子──。

○獅子の回想

    産声を上げる獅子。
獅子のN「俺は4567グラムで生まれた。お腹の中
 にゴリラがいるのかと思った、とおふくろは後
 に語る」
   ベビーカーを乗り潰す、赤ちゃんの頃の
   獅子。
獅子のN「ちなみに、ベビーカーを3台乗り潰
 した」
     *    *    *
獅子のN「5歳の時、幼稚園に電線マンが来る」
   ヒーロースーツを纏った電線マン。
獅子のN「俺はずっとローキックをぶちかまし
 ていた」
   連続で電線マンにローキックを決める
   獅子と、痛さのあまり蹲る電線マン。
     *    *    *
獅子のN「小3の時、おじいちゃん先生が友達
 の博の耳たぶを引きちぎる事件を起こす。そ
 れにキレた俺は」
   おじいちゃん先生に頭突きを食らわす
   獅子。
獅子のN「後悔はしていない」
     *    *    *
獅子のN「高校1年の時、登校中に大型バイクに
 はねられる」
   空中で1回転し、地面に投げ出される
   獅子。
獅子のN「無傷だった」
   何事もなかったかのように歩き出す
   獅子。
     *    *    *
獅子のN「中学の話が抜けてる? ああ、確か
 あれは」
   柔道着を着た獅子が構えている。
獅子のN「中学3年の時、校内柔道大会重量級
 決勝、県内1位になった柔道部のキャプテン
 を軽く投げ飛ばしたね」
   「ふんッ」と投げ飛ばす獅子。

○スタジオ・中

   騎乗位の体勢で腰を振る真顔の
   獅子──。
獅子のN「今何やってるかって? 見てわか
 るだろ。といってもマジでヤってるわけじ
 ゃない。俺は俳優だからな」
   「ふんッふんッ」と腰を振る真顔
   の獅子──。
獅子のN「AVじゃないのかって? これは
 エロVシネといわれるものさ。違い? A
 VもエロVシネも演技をしている点で言え
 ば同じだろうが、実際に本番行為を行って
 るか行ってないかの違いだな。見てみな」
   獅子の陰部には前貼りが貼られて
   いる。
獅子のN「前貼りを貼ってるんだ。ただただ
 腰振ってあたかも挿入してるように見せて
 るだけさ」
   「あふん♡」と声を出す女優。
獅子のN「なぜ役者になったかって?」

○獅子の実家(回想)

   俳優養成所のチラシを獅子に見せる
   母親。
母親「応募しておいたから」
   用紙を手に取る獅子。
獅子のN「学生の頃に主役で演劇とかやった
 ことあったし、面白そうだからと気軽に受
 けたら、まさかの合格!」

○芸能事務所・中(回想)

   長テーブル前に座っている社長、社員ら。
獅子のN「事務所の社長らに芝居を見てもら
 うんだけど」
社長「スカーフェイスのアルパチーノみたい
 だね」
獅子のN「とか言われて」
  満更でもない表情の獅子。
獅子のN「その気になったのがキッカケかな。
 その時は誰って感じだったけど。かっけぇ
 じゃん。アルパチーノって響き。で、その
 時決めたわけ」
獅子「(自信に満ちた表情で)俺は…」

○スタジオ・前室

   女性マネージャー・竹内すみれ(35)
   と獅子。
すみれ「次の作品の役が決まったわよ」
獅子「何」
すみれ「銀行員?」
獅子「なぜ疑問形」
すみれ「飲み過ぎちゃってさ。ちゃんと確認
 してないのよ」
獅子「おい」
すみれ「(二日酔いで頭が痛い)エロVシネ
 ってことは確かね」
獅子「また…てか銀行員って何か普通だなぁ。
 まさかヤクザと銀行マンの2つの顔を持つ
 役とか」
すみれ「うっぷ」
   吐きそうになるすみれ。
獅子「…」
すみれ「銀行員の勉強しといてね(頭押さ
 えて)ああ、キツい」
獅子「…」
すみれ「いい? 役者としての責務を果た
 しなさい(口を押さえて)うっぷ」
獅子「(イラッとして)あんたがな」
すみれ「獅子の憧れるあの人も、もちろん
 やってるわ(青ざめた表情でグットと親
 指を立てる)」
獅子「(顔つきが変わり)ほぉう」

○銀行・外景(日替わり)

○同・中

   足を組んでソファーに腰掛けてい
   るジャケット姿の獅子──の前に
   覆面の男1が銃を向けている。
獅子「…」
   入り口付近では、銃を持った覆面
   の男2に女性が人質として捕らわ
   れている。
獅子のM「(真顔で)どうしてこうなったぁ!」

○同・同(10分前)

   足を組んでソファーに腰掛けている
   獅子──。
獅子のM「別に言われたからじゃない。これ
 は役者としての責務。銀行マンになりきる
 ために!」
   店員をジッと観察する獅子。
獅子「…よくわからん」
   入り口付近で女性が警備員と揉め
   ている。
獅子「(見て)」
     *    *    *
   女性は冬美(とおみ)サクラ(20)。
   ワンピース姿で清楚な雰囲気。
   ワンピースのスカート丈は膝が
   隠れる程度。
警備員「1週間前からずっといるでしょう。
 開店から閉店まで。どう見ても怪しい」
サクラ「(笑みを浮かべ)事件が私を呼ん
 でるの」
   と、入り口から覆面を被った2人組
   が入ってくる。
覆面1「おとなしくしろッ」
   覆面1と覆面2は持っていた銃で
   威嚇し、店員、警備員、客を伏せ
   させる。
サクラのM「(心躍らせ)キタ、キタあ
 ー!」
覆面1「(覆面2に)マサ!」
   覆面2はハット帽を被った老人を
   人質に取る。
覆面1「(店員に)金を出せッ。早く!」
店員「(おどおどして)」
サクラ「待ちなさいッ。人質を取るなら私
 にして!」
   ビックリする覆面2人。
サクラ「私はこの時を待ってたの!(胸を
 張って)喜んで人質になるわ」
覆面1「(面倒になって、顎で覆面2に合
 図する)」
   老人を離し、サクラを人質にする
   覆面2。
サクラ「(ワクワクして)」
   と、ソファーで足を組んで座ってい
   た獅子に気づく覆面1。
覆面1「(銃を向け)何やってんだ、お前」
獅子「(鼻で笑う)ふッ」
覆面1「なめてんのかッ、てめぇ(銃で威嚇し
 て)早く向こうに行け!」
獅子「(涼しい顔して、微動だにしない)」
覆面1のM「何だこいつ。ビビってねぇのか?」
獅子のM「やっべえぇ! めっちゃキレてるし。
 動きたいですよ、そりゃ。でも動けないんだ
 もん、怖すぎて!」
覆面1「おいッ」
獅子のM「(真顔で)どうしてこうなったぁ!」
覆面1のM「なな何だ、こいつの余裕は」
獅子「ふッ」
覆面1「(イラッとして、獅子の額に銃を突き
 つける)!」
サクラ「やめなさい!」
獅子「!」
   サクラを見る一同。
サクラ「あなたたち素人でしょう。初めてなん
 じゃない、強盗なんて」
覆面1「黙れ、女」
サクラ「入ってすぐに防犯カメラを壊さなかっ
 た。携帯の回収もしない。入り口の鍵も閉め
 ない。素人丸出しじゃない」
覆面1・2「!」
サクラのM「言えたぁ! 言ってみたかった
 台詞。何かの映画で言ってたのよね」
   すぐさま玄関を閉める覆面1。
   そして「携帯を出せ」と、箱
   で回収する。
獅子「(スマホを差し出す)…」
獅子のM「(サクラを見て)何言ってんだ、
 あの女ッ」
覆面1「(サクラに)何もんだ、お前」
サクラ「私?(得意げに)探偵よ」
   「!」となる一同。
サクラ「なぜ探偵になったかって?」
獅子のM「聞いてねぇ」
サクラ「小さい頃から私の周りではトラブル
 が頻繁に起こったわ」
獅子のM「話し始めたよ」
サクラ「解決出来ない自分をもどかしく思っ
 てた。そんなとき出会ったの、あの名探偵
 に。私は探偵になって自ら解決することに
 した。なんたって私の周りにはトラブルが
 付きまとうんだもの」
獅子のM「トラブル体質だった! しかも
 極度のッ」
   誇らしげなサクラ。
獅子のM「何が探偵だ。あいつらに余計な
 情報を与えやがって」
   覆面1が再び銃を獅子に向ける。
獅子「!」
獅子のM「ふぅ…よし。落ち着け、俺」
   持っていたペットボトルの水を
   飲む獅子。
覆面1「随分余裕だな」
   「早くしろッ」と覆面1に移動
   するように促される獅子。
獅子「ふッ(と立ち上がり、足を踏み出す)」
   が、足が絡まりドンッと前のめりに顔
   からずっこけ落ち、水がビシャッと飛
   び散る。シーンとなる店内。
覆面1「…大丈夫か」
獅子「(顔を上げる。鼻が赤いが、真顔で)
 演技だ」
覆面1のM「なぜ!?」
獅子「(平然と)ふッ」
覆面1「(気を取り直して、銃を向ける)早く
 行けッ」
サクラ「いくら脅しても無駄よ(指をバッと
 指し)偽物でしょ、その銃」
サクラのM「根拠はないんだけど。テへ♡」
覆面1「はあ?」
覆面1のM「嘘だろッ。何でわかった!」
覆面1「(平静を保ち)こ、こいつが死んで
 もいいのか」
   獅子に銃口を向ける覆面1。
   落ち着いた表情を見せる獅子。が、
   しかし──。
獅子のM「よくありません! 火に油注いで
 んじゃねぇよ、あの野郎ぉ」
   サクラを睨む獅子。
獅子「!?」
サクラ「(パチパチと獅子にウインクをして
 いる)」
獅子「???」
   ウインクを続けるサクラ。
サクラのM「2人の気を引いて。私が何とか
 するから!」
獅子のM「まさか……俺に気があるのか? 
 こんな状況ではしたないヤツ…いや待て。
 これが吊り橋効果! 可愛いじゃねぇか、
 あいつ」
サクラ「!?」
   両目をギュッとつぶっている獅子。
サクラ「?」
   獅子は何度も両目をギュッと瞑って
   合図する。
サクラ「???」
獅子のM「(立ち上がり)俺がお前を救って
 やる!(もう1度サクラに合図する。両目
 をギュッと瞑る)」
サクラのM「何!? 怖いんですけど」
獅子「(覆面1を睨む)」
覆面1「(獅子の覇気に気圧され)!」
獅子「(足を踏み出す)」
   が、飛び散っていた水に足を滑らせ、
   顔からドンッと落ちる獅子。
一同「…」
獅子「(ムクッと顔を上げる)」
   鼻からツーっと血が流れ落ちる。
獅子「(真顔で)演技だ」
サクラのM「アカデミー級!」
覆面1・2「嘘つけえッ」
サクラ「!」
   サクラは一瞬の隙を見て、覆面2
   の顎に自分の頭を下から突き上げる。
覆面2「ぐわッ」
   顎に直撃した覆面2は、白目を剥
   いて気絶する。
サクラ「(頭を押さえて)痛ッたあぁぁい!」
覆面1「マサあッ」
獅子のM「(見て驚く)すげぇ」
   焦った覆面1は獅子に銃を向ける。
獅子「!(笑みを浮かべ)ハッタリだろ(銃
 を指し)それ」
   内心めっちゃ焦っている獅子。
獅子のM「マジかよ。本物だったらどうする、
 どうする俺!」
サクラの声「伏せて!」
   「!」と振り返りサクラを見る獅子。
獅子「え?」
   星飛雄馬並みに足を振り上げている
   サクラ──覆面2が持っていた銃を
   右手に握っている。※ここでは、サク
   ラの投球フォームは腰から上だけ描く。
一同「(目を見開いて)!?」
覆面1「(同じく)!」
獅子「(同じく)うさぎ?」
サクラ「うりゃああああ!」
   銃を投げつけるサクラの両目は閉じて
   いる。
獅子「(見て)えええッ」
   投げられた銃は覆面1が握っていた銃
   に命中する。覆面1の銃が手元から弾
   け飛んでいく。
覆面1「ぐあッ」
獅子「(目ん玉をひん剥いて)奇跡ッ」
サクラ「(同じく)嘘おッ」
   右手を押さえている覆面1。
覆面1「くそぉ」
   形勢逆転したと見るや否や、強気にな
   る獅子。
獅子のM「ヒーローになるチャンスじゃね?」
   獅子は立ち上がり、覆面1に近づく。
獅子「(ヒーローっぽく)もう終わりだ」
獅子のM「(自分のかっこよさに惚れ惚れして)
 決まった」
覆面1「…必要なんだよ、金が」
獅子「(我に返り)?」
覆面1「妹助ける為には金が必要なんだッ。
 俺たち兄弟が何とかしないと、妹は!」
サクラ「…」
獅子「それがどうした」
覆面1「!」
獅子「こんなことして得た金で助かって喜ぶ
 のか。それを望んだのか、妹は」
覆面1「お前に俺たちの何がわかんだよ!」
獅子「オナってんじゃねぇ! 自己満足だっ
 て言ってんだッ」
覆面1「うるせぇ! もう後には引けねぇ
 んだッ」
   獅子の胸ぐらを掴む覆面1。
覆面1「俺は高校柔道全国大会ベスト4
 の実力者」
   覆面1は獅子に足を掛け投げよう
   とする。
覆面1「!?」
   ビクともしない獅子。
獅子「…」
   獅子が山のようなデカい男に見える。
覆面1「嘘だろ」
獅子「解説、ご苦労さん」
覆面1「!」
   覆面1の目から獅子が消えたと思っ
   た瞬間、覆面1の身体が中に浮く。
獅子「ふんッ」
   一本背負いの形で覆面1を投げ飛ば
   す獅子。
覆面1「ぐはッ(白目を剥いて気絶する)」
サクラ「(驚いて)凄ッ」
獅子「(ジャケットの襟を直しながら)で?
 (親指で流していた鼻血を拭き取り) 
 柔道が何だって」

○同・外

   警察に連行されていく覆面2人──
   を見ていた獅子とサクラ。
獅子・サクラ「…」
   2人の前に来る、ハット帽を被った
   老人。
老人「ありがとな、お前さん方。助かった
 わい」
獅子「いえ、別に俺は」
サクラ「(笑顔で)寿命が延びてよかったね、
 おじいちゃん」
獅子「おい」
老人「ええんじゃよ。面白いもんが見れたから
 のぉ。刺激になったわい(サクラにうさぎの
 真似で)ぴょんぴょん」
さくら「ぴょん?」
   ポケットから名刺を出す老人。
老人「これも何かの縁じゃ。ほれ(名刺を獅子
 に渡す)」
獅子「(受け取る)」
老人「いつでも力になるぞい(サクラに)うさ
 ぎもええが、ワシは犬のほうが好みじゃな」
サクラ「?」
老人「ああ、それと…(真剣な眼差しで)なぜ
 ワシと人質代わった?」
サクラ「…」
獅子のM「(サクラを見て)確かに」
老人「死んだらどうするつもりじゃった」
サクラ「(遠い目で)そうだなぁ…運命だと思っ
 て納得する」
老人「…危ういな、お前さん」
サクラ「そう?」
老人「まあええわい(獅子に)しっかり守ってや
 るんじゃぞ」
獅子「え」
   「ホッホ」と言って、去って行く老人。
獅子「不思議な爺さんだな」
サクラ「…」
獅子「(サクラを見て)爺さんじゃねぇけど、
 自分の命は大切にしろよ」
サクラ「(獅子を見て)…」
獅子「何だよ」
サクラ「うさぎって何?」
獅子「え」
サクラ「言ってたじゃん、うさぎとか犬がどう
 とかって」
獅子「(噴き出す)ぷッ」
   笑う獅子。
サクラ「え、何? ちょっと!」
獅子「悪い悪い。うさぎね。傑作だわ、
 あれは」
サクラ「だから何なのよ」
獅子「豪快なフォームだったから、うさぎも
 飛び跳ねちゃったんだな。ぴょんぴょんっ
 て」
サクラ「豪快なフォーム?…ああッ」

○同・中(回想)

   星飛雄馬並みに足を振り上げている
   サクラ──ワンピースのスカートが
   捲れて、パンツが豪快にさらけ出さ
   れている。
   パンツ──可愛いうさぎのプリント
   が入っている。

○同・外

サクラ「(手で顔を覆い)嫌あぁぁぁッ」
獅子「あれには驚いた」
サクラ「見た? 見たの!?」
獅子「(サクラの肩をポンとして)安心しろ。
 守備範囲外だ(シブい表情で)俺はセクシ
 ーパンティ派だ」
サクラ「最低ぇ!(獅子を突き飛ばす)」
獅子「うおッ(手にしていた名刺を落とす)」
   名刺──『帝真財閥(ていしんざい
   ばつ) 会長 轟政継(とどろきまさ
   つぐ)』の表記。
サクラ「(見て)!」
獅子「(名刺を拾い、見る)帝真財閥?」
サクラ「見せて!(獅子の腕をグッと引っ
 張る)」
獅子「痛ッ」
サクラ「(名刺を見て)嘘お!?」
獅子「何だよ」
サクラ「知らないの!? 帝真財閥って言った
 ら日本のトップ3に入る大財閥よ!」
獅子「へぇ」
サクラ「へぇって。会長よ、会長…あ、でも
 エロじじいだわ、あいつ。私のパンツ見て
 ニヤニヤしてたのよ、絶対!」
獅子「(名刺を見ている)…」
サクラ「聞いてるの、ねぇ」
   名刺を胸ポケットに仕舞い、「ぐわ
   ああッ」と伸びをする獅子。
サクラ「ちょっとぉ」
獅子「(ふうと息を吐き)全くとんだ災難だっ
 た。役の勉強しにきたのによ」
サクラ「役の勉強? 私のパンツ見ただけのく
 せにいぃぃ!? もしかして俳優なの?」
獅子「まあ一応な」
サクラ「だからかぁ。あのズッコケ凄かった
 もん」
獅子「(気まずい)お、おう」
サクラ「でも見たことない(顔をジッと見
 て)知らない」
獅子「うっせぇ。特殊なんだよ、俺は」
サクラ「どんなのに出てるの? 教えてよ」
獅子「はいはい、いつかな(帰ろうとして)
 ホント無駄になっちまったな、もう」
サクラ「なんで?」
獅子「?」
サクラ「あなたがいたから、みんな助かった
 んじゃない」
獅子「…」
サクラ「(満面の笑みで)無駄なことなんか
 ないよ」
獅子「(サクラの笑みに見惚れて)」
サクラ「まあ9割方? 私の活躍のお陰です
 けどね!」
獅子「(スンッとした表情に戻り、ボソッと)
 お前のせいじゃねぇのか、トラブル体質が」
サクラ「何か言った?」
   無視して歩き出す獅子を追いかける
   サクラ。
獅子「なあ、何で探偵なんかやってんだ」
サクラ「…(真剣な眼差しで)やり遂げなきゃ
 いけないことがあるの、私には」
獅子「?」
サクラ「それと」
   獅子の前に回り込むサクラ。
獅子「!」
サクラ「憧れてるんだ、私!」
獅子「え」
サクラ「名探偵と言われたシャーロック
 ホームズに!」
獅子「!?」
サクラ「(微笑んでいる)」
獅子「(微笑み)そっか、なれるといいな」
サクラ「え…笑わないの?」
獅子「なんで」
サクラ「みんなこんなこと言ったら笑って
 馬鹿にするから。無理だって」
獅子「…かもねんしゃいん!」
サクラ「!?」
獅子「魔法の言葉だ。人は誰でも輝くこと
 が出来るってな。馬鹿にしたやつら見返
 してやれ」
サクラ「かもねんしゃいん…」
獅子「それに、俺は笑わねぇよ」
サクラ「(獅子を見つめ)」
獅子「だって俺は…」

○某所(日替わり)

   大型スクリーンに流れるニュース
   映像──うさ耳を付けた老人が映っ
   ている。『見知らぬ少女の命を救う』
   の見出し。
老人「なぜ寄付したかって? お願いされたか
 らじゃよ。少女を助けてやって欲しいと。誰
 にじゃと? 誰でもいいじゃろ。ワシは助け
 てもらった恩を返しただけだぴょん」

○道路

   走っている車──。
獅子の声「銀行マンの役じゃない?」

○車・中

   助手席に座っている獅子と運転して
   いるすみれ。
すみれ「銀行強盗だって」
獅子「え」
    *    *    *
   フラッシュバック──。
サクラ「(満面の笑みで)無駄なことなん
 かないよ」
    *    *    *
獅子「(微笑み)ふッ」

○路上(夜)

   外灯に照らされた電柱の前に立っ
   ているサクラ。
サクラ「(電柱の張り紙を見て)事件の予感!」

○高層マンション50階・バルコニー(夜)

   夜空を背景に、バックの体勢で腰を
   振っている獅子──。
獅子「ふんッふんッ」

○獅子の妄想

   オスカー像を受け取る獅子。
獅子「…」
   獅子にオスカー像を渡した男の顔が
   見える。その男、名俳優アル・パチ
   ーノだった。
アル・パチーノ「コングラチュレーション」
獅子「(目を潤ませて)」
アル・パチーノ「Come(カム) on(オン)
 shine!(シャイン)(さあ、輝け!)」
獅子「(感激して)かもねんしゃいん…」

○路上(夜)

サクラ「(歩いている)」
   サクラが持っている張り紙──
   『インコを探しています』の表記
   とインコの写真が写っている。
N「これは…トラブルを呼び込み、名探偵シャ
 ーロックホームズになりたいと願う天真爛漫
 な女と」
サクラ「!(立ち止まり空を見上げる)…」
     *    *    *
   フラッシュバック──。
獅子「だって俺は…」

○高層マンション50階・バルコニー〜路上(夜)

   バックの体勢の獅子は両腕を掲げ
   ている(オスカー像を掲げている
   感じ)──。
N「トラブルに巻き込まれる、名俳優アルパ
 チーノになりたいと願う規格外な男……」
     *    *    *
サクラ「(満面の笑みで)」
   見上げる夜空には満天の星空──。
     *    *    *
N「ふたりの不思議な縁が紡ぐ物語である」
獅子「(両腕を掲げながら)アルパチーノに
 なりてぇ!」
   星空に響く獅子の声──。

                         END


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