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櫻編 7話

《増幅・ブースト》
触れた対象の”力”を増幅させる能力。また、増幅した対象の力を知覚することが出来る。

それが藤崎春樹の”力”である。

守屋麗奈・藤吉夏鈴、両名の覚醒時に偶然にもその能力が発揮され、予知夢・時の巻き戻しの影響を受けた。
夏鈴が行使した巻き戻しを本人以外で唯一認識できたのもこの能力によるものだった。




「なるほど! そういうことやんな! つまり! その……えっと、きみ……」

大げさな頷きとともに元気よく立ち上がった保乃だったが、ちらちらと春樹の顔をみて言い淀む。

「……藤崎春樹……春樹でいい」

「そ、そぉ? 春樹、うん春樹君……。それでな、春樹君の増幅っていう力によってさ。予知夢を春樹君も見たことにより、夏鈴のピンチに現れることができたったことやろ!! せやろ? 素晴らしくええで君!」

いつのまにか春樹の横に来ていた保乃はバシバシ、と嬉しそうに春樹の肩を叩く。

(こいつ、遠慮というものをしらねえのか?)

高評価だった彼女の認識を改めるべきかもしれないと春樹は思った。

「ほんで、夏鈴と春樹君の二人だけが今日をやり直したと。そういうわけやろ?」

「……ああ、そういうことになる。だから俺は一度死んだようなもんだ。藤吉夏鈴の力によって生き返ったっていってもいいだろうな。俺の能力も影響したんだろう。俺自身も朝まで時間が巻き戻ったってわけだ。」

「……私も夏鈴でいい」

フルネームで呼んでいたからか、名前で呼ぶように促す夏鈴。
わたしもわたしもと、保乃と麗奈が続く。

頷く春樹。

「そうか、……夏鈴。……そういや、礼がまだったな。」

そう言いながら立ち上がり、

「時を戻してくれて、命を救ってくれて、ありがとう。改めて感謝する」

綺麗な動作で頭を下げ、感謝を述べた。

「そんな! 助けてもらったのは私のほうだし!! それに……ごめんなさい。私のせいで巻き込んでしまったみたいで……」

「死ぬ経験なんてそうそうできるもんじゃない。むしろその点には感謝しているよ」

と申し訳なさそうに頭を下げる夏鈴に冗談交じりに笑う春樹だった。


「ほーん。それにしても巻き戻しって、すごいな力やんなぁ~」

今更ながらその力の凄さに感心する保乃だ。

「やけど、気ぃ付けなよ。強すぎる力には代償が伴うもんや。保乃もいまだにやりすぎて頭痛ぉなるもん」

「え!?」

「は?」

「保乃ちゃん!! すごいね! 詳しいんだね!」

「ぇぇ? そこなの!?」

感心する麗奈にツッコむ夏鈴。

(……漫才か?)

そんな二人のやりとりに呆れつつも、

「”も”ってことは、たむ……保乃、お前もか?」

お前も力を持ってるのか? と問いかけた。

「ぁ! な、なるほどね~!」

その言葉でようやくピンときたような麗奈である。

「……うん、実はね、保乃もやねん。昼間の麗奈と春樹君が話してた会話聞こえてきちゃって」

――もしかして、と思ったらしい。

「保乃が力を使えるようになったんは、2週間くらい前やねん。色々あって話すとなごなるから省くけど。誰にも相談できんくて、悩んどった。でも……みんなも同じで嬉しかった。ごめんな、大変やったのに」

「うぅん。そんなことないよ! わたしも保乃ちゃんが一緒で嬉しいよ!」

「ふふ……ありがとうな」

気持ちが楽になったわ、と晴れやかな笑顔の保乃だった。


「ほんでな、これが保乃の力やねん。おいでドローンちゃん!」

そう保乃が見上げた目線の先。

――空間が歪んだ。まるで蜃気楼のようにゆらゆらと。
 の歪みの中から全長一メートルほどの一機のドローンが現れた。

《ドローン召喚》
大小様々なドローンを呼び出せる力。それを手足のように操ることができる。

ヴヴヴッ、と部屋の天井付近で滞空するドローン。

「……すごい」

「わぁ~可愛い~!!」

それぞれ思った感想を述べる中、春樹だけは違う反応をする。

「そのドローン……会場で見たな」

夏鈴の登場時、その付近で飛んでいたドローンを思い出していた。
あの時はそのドローンの存在をそこまで気に留めてはいなかった。

「へー? 気づいとったんや? 夏鈴ちゃんが危ないって聞いたから。もしもの時の護衛や」

でも必要なかった。と春樹を見て微笑む保乃。

「みんなもなんとなく分かってると思うんやけど。この力は使うたびに強なっとる気ぃする。……保乃は今じゃ何体も呼び出せるほどに」

言葉と同時、新たに二機のドローンが現れた。
それを見つめながら、

「だから、何かあったときの為に練習せぇへん? せっかく手に入れた力やし。あの時こうしとけばよかったと後悔しないために……そう思うねん」

と一同の顔を見回す。

しばしの沈黙。

不思議な力を持ったもの同士、これから何かあったら協力していこうと彼女は言っているのだ。

「うん、そうだね。慣れておいた方がいいかもしれない。……たださ、まだ現実感がなくて……よーく考えると、こんな力持っちゃって私どうにかなっちゃうんじゃないかなって怖くなってきちゃって」

「うんうん、そうだよね! 夏鈴は今日初めて力に目覚めたばかりやもんね。不安になるのもわかるわ」

「うん……」

「わたしも怖かったよ! 予知夢を見てからずっとね。だ、だけど!みんなと一緒ならっ、たぶん怖くても乗り越えれると思う。だから、わたしも保乃ちゃんに賛成だよ」

アイドルとして共に頑張ってきたメンバーを信じているのだろう。
麗奈は二人に優しく微笑む。

そして、

「ね♡?」

と、まるでハートが見えるような笑顔を春樹に向けた。

「……俺は関係ないだろ」

そんな麗奈のあざとい攻撃に眉を顰めた春樹は、明らかにめんどくさそうな態度でそっぽを向く。

「ええー! 女の子三人危険な目にあったらどうすんねん!」

「れなたち見捨てられちゃうの?」

「……人でなし」

「ちょっとまて、人の家まで押しかけて散々な言いようだな? そこまで言われる筋合いはない。……話は終わりだ。もう帰れ」

シッシ、とまるで犬を扱うかのように帰宅を促す。

そんな春樹にどこからともなく、はぁ~、と盛大なため息が漏れた。

「いけませんよ春樹様。こんな夜遅くに女性を放り出すなんて、紳士の風上にもおけません」

いつのまにか春樹の背後には侍女の静江が佇んでいたのだ。

思わず振り返り、見上げる春樹。

それを睨む静江。

しばらく交差していた二人の視線。

……折れたのは春樹のほうだった。

「好きにしてくれ」

っち、とわざとらしく舌打ちをする。

そんな主を冷酷な目――はたから見たらそう見える目――で一瞥すると、柔和な笑みを彼女たちに向けた。

「お部屋を御用意してございます。差支えなければお泊りになるのがよろしいかと」

「ぇ!? いいんですか?やった~!」

「すいません夜分押しかけたばかりか、宿泊までさせていただけるなんて」

「……ありがとうございます」

「いえいえ、お気になさずに。春樹様のことは気にせずごゆっくりお寛ぎ下さい。……よろしいですね、春樹様」

肩をすくめ同意する春樹に、再び冷ややかな視線を送る静江であった。




深夜某所。
暗みの中に佇む二人の男。

「どうですか? 近藤さん」

『近藤』と呼ばれた男はなにかの格闘技でもしているのだろうか。
筋骨隆々で、身長は二メートル近くあり、隣に佇む細身な男性と比較するとかなりの大柄な男である。

「……間違いない、ここだ。だが、感じるのは残滓だけだな」

「ほぅ、残滓……ですか」

「あぁ。俺の力で感じ取れたのはやはり残滓だけだ」

”力” 
この近藤という男、能力者である。自らの力をエネルギー感知と呼んでいる。

《エネルギー感知》
能力者が力を発揮した時に生ずるエネルギー。力の強さに応じて発生するエネルギーの量もそれに比例して大きくなる。そのエネルギーを感知することができる力。

残滓とは、能力者が力を発揮した後のわずかなエネルギー。――その残りかすのことである。

「力の発生は感知出来きず、残滓だけを感じ取れたということは……アキラさんの能力に似てるってことでしょうか?」

続けて問うこの男。表情が見えないほどつばの長い黒の帽子、これもまた黒いトレンチコートを羽織る細身の男。全身黒ずくめのいかにも怪しい風貌をしている。

「似てるかもな。……だがアキラの能力だとしたら、地球の反対側から移動してきたくらいじゃないと割に合わないな」

「それほどですか」

ほぅ、と感嘆の息を漏らす細身の男。

「今回の力を感知をした時、俺は東京にはいなかったと言ったな。距離にして二百キロは離れていた。俺の力の感知距離はせいぜい数キロがいいところだ。……なのに」

顎に手をあて唸るように考えを口にする近藤。

「そんな距離でも感知できるほどの強大な能力。それもエネルギーの残滓だけで近藤さんに届くほどの」

「……あぁ、そういうことになる」

「――んふふ」

思わず笑みが零れる細身の男。

「櫻坂46、関係あると思いますか?」

「あるだろうな……昼間の事件も偶然じゃないかもしれん……憶測にすぎないがな」

”昼間の事件”
二人の男が見つめる先。とある大きな施設。
この日、櫻坂46という組織がこの会場にてイベントを催していた。その際に起きた傷害未遂事件のことである。

「んふふ。調べてみる価値はありそうですね」

深い闇の中、漆黒の男は静かに笑うのであった。


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