同期の大園 10. 御神籤
元旦。
いつメンで初詣。
お参りして、甘酒飲んで、屋台を散策する。正月からお腹膨らませて、御神籤引いて。
振袖からちらり、と覗くうなじ。
俺「……」
思わず見とれてしまう。
消し去った筈の煩悩が、正月早々姿を現す。
やれやれ……。
そんな自分に自己嫌悪。
消えろ……色欲。
空を見上げ、再び浄化させるのであった。
武元「いぇ~い! 大吉っ」
大園「私も大吉~」
ハイタッチする二人。
俺はそれを少し離れた所で見ていた。
井上「どうだった?」
と井上が横に腰を下ろす。
俺「……井上は?」
井上「梨名、も……大吉」
……嘘をつくな。
手元を覗くと”末吉”と書かれている紙が見える。
「見んなよ~」と肘内された。
末吉……実に井上らしい。
井上「当方から尋ねよ」
俺「あん?」
井上「あんたのくじに書いてあるじゃん」
「見んなよ~」と肘内し返した。
「しかも大凶」と馬鹿にされる。
井上に馬鹿にされると、無性に腹が立つのは何故だろうか。
井上「待ってると思う」
俺「誰が?」
ジト目で睨まれた。
井上「分かってるんでしょ。玲ちゃんの気持ちも、自分の気持ちも」
俺「……」
井上「男だったらはっきりぢぃや!」
大事なところで噛んだ。
顔に手を当て悔しそうにしている。
俺の気持ち……。
考えたこともなかった。
といえば嘘になる。
井上「……まぁ、これ以上はただのお節介か」
そう言って立ち上がる井上。
井上「ねー。お腹空かなーい?」
と大園らに呼びかけた。
武元「さっきまで食べてたやん!」
大園「私はお酒飲みた~い」
武元「あんたは飲み過ぎるから、こんな明るい内から飲ませません!」
母親みたいな武元。
ツッコミ一人じゃ大変だ。
……仕方ないな。助けてやろう。
俺「ママ~。おうち帰りた~い」
武元「ママちゃうわ!!」
あ、間違えた。
楽しそうに笑う大園。
淡いピンク色の布地が、儚げな彼女に良く似合っていた。
そして、これが最後に見た大園の振袖姿だった。
……
一月半ば。 三週間の出張の辞令が下る。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?