それいけ! ゆうちゃんず
「先輩! お待たせしちゃってごめんなさいっ」
「お疲れさん! 大丈夫だよ、全然待ってないから!」
(嘘。ずっと待っててくれてたのに……やっぱり先輩はとっても優しい! 好き!)
「それじゃ帰ろうか」と言って先輩が優の手を握った。
「はい! あ、先輩……あの~」
「ん? どうしたの?」
「……明後日って用事ありますか?」
「明後日は何もないよ。……ほら、優の誕生日じゃん? だから、いちよ空けてあるし」
「え!? 覚えててくれたんですか!」
「当たり前じゃん。愛しの彼女の誕生日を忘れるわけないっしょ」
「わ!! 嬉しいです! 私すごく嬉しいですっ」
「いやいや、大袈裟だから」
「そんなことないんです。感動しましたもん!!」
「感動の沸点低いなぁ~。……それでさ、その日どこか出かけない?」
「行きます行きます! 行きたいです!」
「んじゃ、行きたいところとかある?」
「行きたいところ……」
「うん、どこでもいいよ」
(私の行きたいところ、か……)
「う~ん」と顎に手を当てて考え出した。
もわもわもわ……
◇優の頭の中◇
『皆さ〜ん! 集まってほしいです!』
首脳ゆうちゃんの号令でゆうちゃんずが集合する。
疑問系ゆうちゃん
「なんだろう? なんだろう?」
お気楽ゆうちゃん
「なになに~?」
真面目なゆうちゃん
「どうしたんですか?」
『なんと! 明後日〇〇先輩からデートのお誘いがありました!』
ゆうちゃんず
「おお~~!」
お気楽ゆうちゃん
「やったね」
不安なゆうちゃん
「どうしよっ、何着させよう?」
お洒落なゆうちゃん
「オシャレなワンピースとかかな?」
普通のゆうちゃん
「夏だし、もっとラフな格好でもいいんじゃないかな?」
お洒落なゆうちゃん
「そんなのダメだよ!! せっかくのデートなんだしっ」
やいよやいよと騒ぐゆうちゃんず。
『はーい! 少し静かにしてくださーい。先輩が待ってるので、先に場所だけ決めちゃいましょうっ』
ゆうちゃんず
「たしかにー!」
真面目なゆうちゃん
「はい! 無難に映画とかどうでしょうか!」
お気楽ゆうちゃん
「いいと思いまーす」
不安なゆうちゃん
「で、でも映画の最中に寝ちゃいそうだよっ」
普通のゆうちゃん
「なら夜更かしを控えて十分な睡眠をとろうよ」
ゆうちゃんず
「たしかにー!」
『時間がないので『たしかに~!』は以後”禁止”とします!!』
ゆうちゃんず
「そ、そんなぁ~」
???
「……ちょっと、いいかしら?」
『はい! どうぞ、ゆうさん!』
色気担当ゆうさん
「優の家でいいんじゃないかしら? もしくはラブホテルね。そろそろ大人の体験をさせたいわ」
能天気なゆうちゃん
「大人の体験……ゴクリ」
堅物のゆうちゃん
「は、反対です! まだ優には早いと思います!」
色気担当ゆうさん
「そんなことないわ。むしろ遅すぎるくらいよ。いい歳してオボコなんて……」
堅物のゆうちゃん
「で、でも……」
不安なゆうちゃん
「おろおろ、おろおろ」
『あ! もう時間無くなっちゃったので出てきた案をいくつか採用します!』
ゆうちゃんず
「りょうかいで〜す」
もわもわもわ……
「先輩、それじゃあ……私の家でDVD借りて映画でも見ませんか?」
「お、いいよ。優のやりたいようにやろうか。おうちデートも悪くないね」
「ありがとうございますっ! あ……家着いちゃった。もう少し先輩といたかったのになぁ」
「ふふ、明後日会えるんだし」
「そ、そうですけど……」
「仕方ないなぁ~。おいで甘えん坊さん」
両手を広げる先輩。
「――先輩っ……大好きです!」
と言って優は先輩の胸に飛び込んだ。
「俺も好きだよ」
「えへへ」
「よし。じゃ、詳しい事はLINEで」
「……はい」
優はよほど名残惜しそうな顔をしていたのだろう。
それを見た先輩は少しだけ困った顔をして、
「しょうがないなぁ~」
額に軽くキスをして「じゃ、ばいばい」と言い去っていった。
残された優は「あ……あわわ、あわっ」と訳の分からない言葉を発しながら顔を真っ赤にして倒れ込んだ。
もわもわもわ……
◇優の頭の中◇
ゆうちゃんず
「あー! 優がショートしちゃった!」
不安なゆうちゃん
「えらいこっちゃえらいこっちゃ」
普通のゆうちゃん
「優〜起きて〜」
天然なゆうちゃん
「こんなところで寝ちゃったら風邪ひくよ~」
『あ、パパが返ってきました』
ゆうちゃんず
「おお~! よかったぁ~」
もわもわもわ……
「え!? 優? なんでこんなところで寝てるんだ?」
「あ、パパ……おかえりなさい……大丈夫! 気にしないで……ふへへ、ふへ」
「……か、母さん!! 優がおかしくなってしまったぞっ」
「優がおかしいのはいつもじゃない」
「そ、そうだけど!!」
「ふへへへ」
今日も騒がしい村井家であった。
……
二日後。
「お誕生日おめでとう~」
クラッカーの祝砲が上がる。
「わぁ! ありがとうございます!」
両手をあげながら喜んだ優は「ふう~~」っと蝋燭の火を一息で消し飛ばした。
「おお~、さすがだねっ」
「ふふふ、私頑張りましたっ」
「うん、えらいね!」
にこやかに笑い合う二人。
「……それにしても、良かったのかな? ご両親を追い出しちゃったみたいでなんだか申し訳ないな」
「いえ! そんなことないです! 家族でのパーティーは昨日してもらいましたし! お父さんのお休みも重なって、お盆に帰れなかった分『ちょうどよかった』って言ってました」
「そ、そう?」
「はい。なので先輩は気にしないで下さい」
「うん、分かった。それじゃあ、僕らで楽しもうか」
「はいっ」
もわもわもわ……
◇優の頭の中◇
『皆さ〜ん! 集合してくださ〜い!』
首脳ゆうちゃんの号令で集まるゆうちゃんず。
ゆうちゃんず
「どうしたの~?」
『おうちデートが失敗しないように、私たちで優を導きましょう!」
真面目なゆうちゃん
「それ名案です!」
不安なゆうちゃん
「導くって具体的には何をするの?」
『どうやら優はどの映画を見ようか迷ってるみたいです! なのでまずは映画を選びたいと思います!』
色気担当ゆうさん
「ラブロマンスがいいんじゃないかしら? もちろんR18の」
堅物のゆうちゃん
「却下です! そもそもそんなの借りてません!」
『いえ、いちよ確保はしてあるみたいです』
堅物のゆうちゃん
「え!?」
真面目なゆうちゃん
「はい! ラブロマンスよりアクションがいいと思います。しっとりもいいですけど、楽しめるのが一番だと考えます!」
お気楽ゆうちゃん
「それ賛成ですっ」
能天気なゆうちゃん
「うんうん、それでいいと思う!」
適当なゆうちゃん
「私はなんでもいいよ〜」
『では賛成多数なのでアクションにしましょう』
ゆうちゃんず
「は~い」
もわもわも――
???
「ちょっとまったああああああ!」
ゆうちゃんず
「わっ!?」
『どうしました? ゆうくん?』
坊主頭のゆうくん
「てめぇら正気なのか?」
不安なゆうちゃん
「ひっ」
坊主頭のゆうくん
「いい歳した男女が一つ屋根の下で仲良くアクション映画だ?」
真面目なゆうちゃん
「それの何がおかしいんですか!」
堅物のゆうちゃん
「そ、そうです!健全が一番です!」
『みんな! 落ち着いてくださ――あっ!?』
ゆうちゃんず
「っわ! 首脳ゆうちゃんがやられた!!」
色気担当ゆうさん
「ふふふ、邪魔者にはちょっと寝てもらいましたわ」
坊主頭のゆうくん
「よくやったぁああ! こうなりゃ後は実力行使だ」
不安なゆうちゃん
「じ、実力行使!?」
丸坊主のゆうくん
「覚悟しろよ~」
真面目なゆうちゃん
「ダメですよ!」
丸坊主のゆうくん
「うるせぇやい!」
ゆうちゃんず
「きゃ~~っ」
武闘派ゆうちゃん
「わたしが抑えます! 手伝ってくださいっ」
切れ者ゆうちゃん
「わっかりました! 脚を狙います!」
不安なゆうちゃん
「あわわわ! どうしよう〜」
お気楽ゆうちゃん
「どうにかなるよ〜」
坊主頭のゆうくん
「しゃらくせぇ~ぜ! やれるもんならやってみろや!」
お気楽ゆうちゃん
「よ~し! それいけ! ゆうちゃんず!!」
ゆうちゃんず
「わああああ~!!」
「わあああああ…………」
色気担当ゆうさん
「うふふふ、今のうちですわ……」
不安なゆうちゃん
「あわわわ! 優の主導権が奪われちゃうよっ」
もわもわもわ……
「――え? 優? どうしたの?」
突然、優が先輩を押し倒した。
「せ、先輩……私なんだか変なんです」
「へ、変って?」
「とっても体が熱くて……そ、それに先輩を見るとすごいどきどきしちゃって……」
「それって……」
「せ〜んぱいっ」
「ちょ、ちょっと優! 僕たちまだ……」
「私、もう我慢できません……」
「あ――」
「せんぱ……」
「優……」
「……」
「……」
「…………💤」
「へ? ……寝てる……」
優は先輩に覆いかぶさったまま眠っていた。
「あっ……この匂い」
先輩はコップに注がれた飲み物を一口すする。
「ああ、やっぱり……ワインだ……」
もわもわもわ……
◇優の頭の中◇
普通のゆうちゃん
「優、寝ちゃいましたね……」
坊主頭のゆうくん
「っち……」
色気担当ゆうさん
「あら~残念だわ」
『どうやらパパのお酒とジュースを間違えたみたいです』
お気楽ゆうちゃん
「あ! 首脳ゆうちゃんが戻ってきた!」
不安なゆうちゃん
「よかった~」
普通のゆうちゃん
「首脳ゆうちゃん、やられちゃったんだと思ってた! 大丈夫?」
『大丈夫です! アルコールの摂取により復活しました! お酒は脳への栄養素ですっ』
坊主頭のゆうくん
「思考回路がおっさんすぎんだろ! どうなってんだよ!」
『それと! ゆうくんとゆうさんは以後、勝手な行動は”禁止”とさせていただきます!!』
坊主頭のゆうくん
「っち、くそ! あと少しだったのに!」
色気担当ゆうさん
「仕方ないわね。時が来るまで待ちますわ……」
不安なゆうちゃん
「よかったね! 一時はどうなることかと思っちゃった」
能天気なゆうちゃん
「うんうん~。なにはともあれパーティーはお開きだねっ」
眠たいゆうちゃん
「うん……優も寝ちゃっ……た……し……💤」
真面目なゆうちゃん
「私たちも解散しましょう」
『そうですね。では、また日を改めて!!」
ゆうちゃんず
「は~い」
散開するゆうちゃんず。
そんな中、不貞腐れて寝っ転がっていたゆうくんに駆け寄るゆうちゃんの姿が――
甘えん坊なゆうちゃん
「ゆうくん遊んで~」
坊主頭のゆうくん
「あぁん? なんで俺が――ぉい!? 頭さわってくんじゃねえよ!」
甘えん坊なゆうちゃん
「えへへ。じょりじょりするね〜」
能天気なゆうちゃん
「触ってみたい!」
坊主頭のゆうくん
「よせやい、このやろっ」
ゆうちゃんず
「いいな~! わたしたちも一緒にあそびたいな~」
お気楽ゆうちゃん
「なら、みんなでゆうくんと遊ぼうよ!」
不安なゆうちゃん
「う、うん」
ゆうちゃんず
「よ~し! それいけ!」
「わあああああ……」
坊主頭のゆうくん
「お、おまああああああ――」
色気担当ゆうさん
「……うふふ、楽しそうですわね。――ん? あらあら? 先輩たら……大胆なんだから」
堅物のゆうちゃん
「あわわわ、先輩そんなとこ……ちらっ、きゃー」
色気担当ゆうさん
「……うふふふ」
色々あったけど、今日も賑やかなゆうちゃんずでした。
おわり
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?