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櫻編 11話

櫻坂事務所、休憩室の一室。
爆弾による危機が去った二時間後である。

「……とりあえず、なんとかなったな」

一通りのニュース、ネットに上がる情報を見つくしては一息をつく春樹たち。

「……ありがとう。春樹くんはやっぱり頼りになるね」

力の反動で寝ていた麗奈が起き上がる。
表情に生気が戻ってきたな、と安心する春樹。

「たしかに……あんなときでも冷静やったもんね。……それにしても夏鈴は大丈夫なん?」

時間の巻き戻し、夏鈴の持つ力だ。
その力の大きさ故、使用後の体調を心配しだす保乃。

「うん……。今回は春樹にも負担してもらったから……反動はほとんどないよ」

春樹の増幅の力により、夏鈴自体は体力を消耗してないというのだ。

「ほーんまに便利な男やね」

「ほめてんのか?」

「ほめとるで!」

本当だと強調するように胸を張る保乃だった。



――♪♪ 

通知の音だ。

「マネージャーさんから……爆発の事みたい」

「なんだって?」

春樹の問に続ける夏鈴。

「うん……みんなの無事を確認。連絡があるまで自宅待機だって」

「そうか……」

事件の概要を知ってはいたが、詳しく話せないことにはがゆさを感じる一同。誰にも相談できないことへの不安。

「黙っててええんかな?」

「……話してどうにかなるのか?」

――信じてもらえないだろう。
この世の中に超能力などないのだから……


「……なんでやろな?」

「?」

「爆弾や……なんでここにあったんやろ?」

それは――当然の疑問であった。

全員の息が詰まる。

事態の対処に追われて考えることを放棄していた。
それを考えるのがすごく恐ろしかったから。

「警察に……」

「……」

(それこそ伝えてどうなる? 上空で爆発したのが自分たちのせいだというのか?)

春樹の頭では答えが出ない。
皆同じだろう。不安な表情をしている彼女たちだ。

ふーーー、っと長い息を吐く春樹、

「とりあえず、俺の家に来るか?」

そんな彼女らをこのまま帰すわけにもいかなかった。



 
――黄昏時。
春樹たちは夕暮れの中を歩く。
事務所から春樹宅へ向かうのに歩いていける距離では到底ないのだが、少しだけ外の空気を吸いたいと誰からともなく言い出し今に至る。

「ん~! 風が気持ちいいね」

元気になった麗奈が気持ちよさそうに伸びをする。

「ほんまやねー」

「そうだね」

保乃と夏鈴も気持ちよさそうに目を細める。

(……少しは元気になったようだな)

彼女たちの心身を少なからず心配していた春樹は、元気に歩く姿を見て一安心するのだった。
 

細い道を抜け、古びた公園に入る春樹たち。
老朽化した遊具は使用禁止となっており、今では利用者がほとんどいない公園である。
アイドルである彼女たちがたまに憩いの場として利用するにはもってこいの場所だった。
 
――だったのだ。

(ん? なんだ? は? ありえない……)

「なにこれ……」

「ぃ、いっぱいいる。こ、怖いね」

「……」

(ありえない。なんだこれは……)

その光景に絶句する春樹。
公園で待ち受けていた野良犬の集団――だけではなく、大小様々な猫や鼠、そして電線に並ぶ多数の鴉の群れ。

(囲まれた……)

犬が春樹たちを囲むように、退路を断つように陣取る。

――そして、

「こんばんは」

前方の犬の間を颯爽と歩き、一人の男が現れた。
口元まで隠すつばの長い黒い帽子に、黒いトレンチコート。
全身黒ずくめのその男、

――んふふ、と嗤う。

黄昏時、またの名を”逢魔が時”という。

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