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櫻編 10話

それは強烈な衝撃だった。

窓ガラスは粉々に割れ、爆発音とともに白い煙が溢れ出した。

轟轟と燃え盛る炎は一瞬にして麗奈たちを包み込む。

高温の煙が喉と肺を侵食し――ッゥ、と声にならない声が漏れる。

――熱い!!

なんてものではない。
麗奈の体を焼き尽くしてなお、その熱が彼女を苦しめる。

近くにいた春樹らはすでに黒い塊と化していた。

……ぁあ、なんてことだ。

そんな仲間の姿に悲しくなる。
それも一瞬、未だ収まらない炎が麗奈の意識を飲み込んでいった。

 
これが、守屋麗奈の力によって見た未来だった。

(ぁぁ……熱い、ダメダメ――)

まるで本当に燃えてるように熱くなった体を抱きしめるように麗奈は蹲る。

「ぅぅうう、ヤダヤダ!!」

(……時間がない。早く今見たことを春樹くんたちに伝えないと……)

そう頭では考えていても体が、心が怯えていていうことを聞いてくれない。
今こそ弱い自分を恨む。恐怖を押し殺すように唇を噛み締める麗奈。

ツゥー、と口の端から血が一滴流れた。

「ぁ……はぁ、……ば……爆発っ!! み、みんな――」

なんとか力を振り絞り、精一杯の声を上げた。

そんな麗奈の肩にぽんっ、と誰かがやさしく手を置いた。

「大丈夫だよ、守屋ちゃん。……私も春樹も分かってる」

夏鈴だ。
怯えた表情のまま見上げる麗奈と同じようにしゃがみ込み、優しく微笑みかけた。

「ああ、任せておけ」
 
続けて聞こえてきた春樹の声。
その声に安心するかのように、荒かった呼吸が徐々に落ち着き出した麗奈であった。
 






「え? なに? どゆこと?」

突然怯えだした麗奈と落ち着いた対応を見せる二人。
保乃は一人訳が分からず狼狽えていた。

「夏鈴が巻き戻しの力を使った。詳しくは後で話す。……それで夏鈴、残りの時間は?」

問われて時計を確認する夏鈴。

「2分くらい……」

「あんまりなさそうだな」

話ながら部屋の隅にあった小さなダンボールを持ち上げる春樹。

「夏鈴、窓あけて」

「うん」

「保乃! できるだけ速く動けるドローンを頼む」

「――え?」

「この箱を運べるようなドローンだ」

事態を飲み込めていなかった保乃であったが、ただならぬ二人の空気を察して言われた通りドローンを召喚する。

ヴヴヴ、と音を立て空に佇む一機のドローン。

その脚でガシリ、と小さな箱を掴んだ。

――ッチッチッチ

箱から聞こえるその音を不思議に思った。

「……まさか、この音って? まさかやんな?」

「そのまさかだ」

「……爆弾」

ボソっと、夏鈴が呟いた。

「――ば、ばくだん?」

(こんな所に爆弾? 嘘やろ?)

信じられなかった。
だが、当の二人が冗談を言ってるようには思えない。

「春樹! あと1分!!」
 
少しだけ焦りを見せる夏鈴。

「保乃、そういうことだ。頼む」

「ええ!?」

まさかの事態に思わず尻込む――それでも保乃しかおらんか! と瞬時に決意し、

「と、どうすればええの!?」

「……空へ、それもできるだけ高く! ……たぶん、それしかない」

他に考えている余裕もないようだ。

「急いで! ほんともう時間がないから」

そういうと春樹の手を握り、ぎゅーっと目を瞑る夏鈴。

それがもしものための力をつかう準備だと理解した保乃は、

「てぃりゃあああーーーー!!」

力いっぱい叫ぶ――その力を使うのに叫ぶ必要があるのかは謎だが――

それに応えるかのようにドンッ、という音が聞こえ、猛スピードで窓から飛び出したドローン。

保乃らが確認したときには既に空高くのぼり、後に大きな爆発とともに跡形もなく消えていった。


 
都内某所。
上空数千メートルの位置にて大きな爆発が確認された。
警察の調べでは時刻は十四時過ぎ。人通りも少なく目撃情報もなかったという。幸いなことに街への被害もなく、それによる二次被害なども確認はされなかった。

ミサイル?
テロ?
飛行機事故?

様々な憶測が飛び交ったが結局真相はわからぬまま。
それは後に未解決事件となるのであった。

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