日向編 0話
この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
とあるアイドルの独白
私は星を見るのが好きだ。
これはメンバーにも家族にも誰にもいっていない秘密である。
唯一知っていたのは亡くなった曾祖父だけ。
『御先祖様がお星様となり、空から私たちを見守って下さっている』
幼き頃、二人で星を見に行った時に曾祖父から言われた言葉。
星を見るのが好きになったきっかけである。
星座だなんだと、そういう知識はまったくないのだが、あの星が私のご先祖様なのかな、どの星がどこの家のものなのかなと、ぼーっと眺めているのがとにかく好きだった。
自分でいうのもなんだがとにかく私は変な子だった。
周りとは少し違うと感じたのは小学生に上がった頃だろうか。
親戚はおろか家族にも気味悪がられるようになる。
でも寂しくはなかった。
私を理解してくれる曾祖父がいたから。
その曾祖父がいなくなって本当の一人になる。
私を理解してくれる人がいない。
寂しさを紛らわせようと庭の鯉と遊んだり、近所の猫や犬、しまいには鴉と遊んだりもした。
そんな私に新しい理解者できた。
真夏にも拘わらず黒いコートを着た大人の男性だ。
彼と話すのはとても楽しかった。
来る日も来る日も彼と会える日を楽しみにしていたのだが、ある日を境にぱたりと姿を見せなくなった。
子供だった私は連絡先はおろか、その術も知らなかったから酷く落ち込んだものだ。
そうして私はまた一人になる……
それでも中学生にもなれば一人、二人と徐々に友達というものができるようになってくる。
幼い頃の私が知ったら驚いたことだろう。
たとえそれが、”私”という仮面を被った偽りの姿だとしても……
その仮面が剥がれてしまったなら私という存在は疎まれてしまうことだろう。
だからこそ必死に取り繕うのだ。
そう、一人にならないために――
「ん……? ……あれ?」
突然、空が橙に光り、ものすごい勢いで近づいてきたかと思えば、一瞬のうちに目の前が真っ白になった。
気が付いた時には丘の上にポツンと一人。
森本茉莉は夜空を見上げていた。
「なんだったんだろう? 今の光って……」
「おーい、まりぃ~~ッ」
遠くから声が聞こえる。
日向坂46の三期生、山口陽世の声だ。
茉莉にとっては同期にあたる。
「あ! ここだよ~」
出来る限り大声で答えた茉莉。
大降りに手を振りながら彼女の元へと駆け寄る。
「もう~。なんでこんな所にいるのよ」
「ごめんごめん、許して陽世ちゃん」
手のひらを合わせて謝罪する。
出来る限り申し訳なさそうに。
「……いいけど。みんな待ってるよ。人狼するんでしょ?」
「人狼……。う、うん」
人狼こと人狼ゲーム。
一部のメンバー内で流行っている遊びだ。
村人の中に混ざっている人狼を探す所謂テーブルトークゲーム。
「それにさ茉莉、あんた携帯繋がらないよ」
「え!? ごめん陽世ちゃん! 電源切ってたかも~」
「おぃー!! まったく適当なんだからー」
ばつが悪くなって頭を掻く茉莉。
「それとっ!! 陽世ちゃんってのやめて! 気持ち悪いから」
「ぇ!? あ、ごめんね。それは本当にごめん」
と終始謝っていた。
そんな彼女たちが丘を下ると白い建物が見えてきた。
茉莉たち日向坂が番組収録のために借りている旅館である。
綺麗で真新しい方が本館になり、そのすぐ横にあるのが旧館になる。
本館の玄関先に一人、夜空を見上げていた人物に陽世が声をかける。
「未来虹~。何してんの?」
自らを呼ぶ声に振り返る長身の女性。
髙橋未来虹、彼女も三期生の一人。
「いや、なんか流れ星が多いなって」
「そんなの見えた~?」
「……遠くの方でね」
「どれどれ~」
小さい体を精一杯伸ばして夜空を見上げる陽世。
茉莉はその姿に思わずクスッと笑う。
「背伸びしても見えないでしょ」
「うっさいな~」
「寒くなってきたし中入ろう」
己の体を抱きしめる未来虹。
外に出るつもりなどなかったのだろう。
随分と薄着であった。
「確かに! 冷えてきた。ってこんなことしてる場合じゃない! 人狼だって!」
「そうだった! ひなのもロビーで待ってるから急ごう」
「あ、うん」
慌てるように建物の中に入っていく陽世とそれに続く二人であった。
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