月明かり、ライオンを想う

 地球の裏側に隠れた太陽は二倍の速さで動いている、はずだ。
少なくとも私はそう感じているし、信じてもいる。
なぜなら、私が自由に飛び回ることの出来る夜の世界は瞬く間に終わってしまうためである。
好きなことに熱中して取り組んでいる夜も、珍しく早く布団に入った夜も、数回の瞬きの間に明けてしまう。
今日も月明かりが綺麗だった。

 きっと世界は私に大きな隠し事をしている。
私を相手に隠し通せる程、小さな秘密ではないのに。
そうだ、それなら地球の裏側へ行ってみたらどうだろうか。
そこにはきっと、私にとってのユートピアが広がっているはずだ。
しかし倍速にされた夜の間では、それほど遠くまで移動する時間も手段も存在しない。
第一、私にはそれを行動に移すだけのエネルギーが足りない。

 ふと動物園のライオンを思った。
昼の間に、飽きるほど眠っている彼らを。
彼らも陽が向こう側に消えてから、脱出を試みているのだろうか。
起きて、食べて、寝て、起きて。
与えられた安寧な環境は、何か満たされない違和感に蓋をする。
私も見えない檻に閉じ込められているのかもしれない。
そして作為的に夜を好むように誘導されているのだとしたら。
「私は何者?」
所詮、私たちは世界に飼い慣らされている。

 力む身体。
何を信じたらいいのか分からなくなり、意識が遠のいていく。
それでも月光は心地良かった。
私がユートピアに辿り着くのはまだ先になりそうだ。

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