1人遊びを極めた妄想家


僕は幼少期から1人遊びをする事が多い人間であった。

別に仲の良い兄妹も居るし、仲の良い友達も居る。

だが、1人で遊ぶのも好きなのだ。

『1人で遊ぶ』と言っても、別にソロキャンプが好きとか、そういう事ではなくて、空想や妄想の世界で遊ぶのが好きなのだ。

幼稚園の頃は、小さなブロック3つでオリジナルのキャラクターを作って「ダダラッピ」と名付け、集落を築いたり、ポケモンの指人形を使って『あいのりごっこ』をしていた。

だが、学生になるとブロックや指人形などが手元になくても遊べる玄人に成長していった。

完全に頭の中で登場人物を動かし、ストーリーを練り上げていく。

ベタな所で言うと、学校にテロリストが侵入して来るのを生徒の力で解決する。
みたいな感じだ。

他には、ファンキーモンキーベイビーズが書きそうな歌詞を考えたりもしたし、先生が結婚式を挙げたら、どんなサプライズをしようか、なんて事も考えていた。

そんな妄想遊びを続けていると、映画の予告編を観るだけで、最高の映画を脳内で作り上げてしまう事もしばしばある。

それで困るのは、僕の脳内で出来上がった作品の方が圧倒的に面白くなってしまい、映画本編を観てイマイチだと思ってしまうのだ。


他にも困った事、と言うか、流石に危ない一線を超えてしまった事が一度だけある。

今日はその話をしようと思う。


フリースタイルバトルは、ご存じだろうか?

MCと呼ばれる、ラッパー達が即興でラップのスキルを見せつけ合い、その場に居る観客や審査員に勝敗を決めてもらうラップのバトルである。

有名所で言うと、Creepy NutsのR-指定。
BAD HOPのT-Pablow。YouTubeやテレビにも最近出ている呂布カルマ辺りだろう。

それぞれのMCにラップの個性があり、それがフリースタイルバトルの醍醐味である。

例えば、R-指定は「日本語ラップの最高到達点」と呼ばれる程スキルフルで、韻の固さはもちろん、フロー(歌い回し)、言葉遊びのセンス、持ち時間で起承転結をまとめ、「本当に即興なの?」と疑ってしまう程の最強のラッパーである。

T-Pablowは、若手の絶対的なカリスマである。
もう「若手」なんて言葉じゃ括れない程、箔が付いているラッパーで、吐き出す言葉のスケールの壮大さと、それを実現して来た人生を以って観客を魅了する。

呂布カルマは、「パンチラインを吐きながら生まれて来た」と言われている程、パンチラインメーカーである。

「パンチライン」とは、フリースタイルバトルにおける必殺技的なもので、相手の揚げ足を鮮やかに取ったり、核心を突いたりする事だ。

百聞は一見にしかずなので、是非YouTubeで調べて見てほしい。

ちなみに、呂布カルマの有名なパンチラインは

「これがボクシングなら有り得ねぇ。
  言葉の重みに差が有り過ぎる。」


である。1vs1の即興のバトルでこんなワードが出てくると、お客さんも大いに盛り上がるのだ。


本当大雑把に紹介したが、他にもフリースタイルバトルで勝敗を分けるのが相手への「dis」である。

相手の生き様や、ラッパーとしてのスタンスなどを蔑んだりする、「ディスる」とか言われるやつだ。

しかし、ただ単にディスるだけでは見応えは無く、お客さんも沸かない。

面白い例えを引き合いに出したり、ディスりながらもしっかりと韻を踏んだり、自分ならこんな事が出来るぜ、とアピールしながらやる事で、会場のボルテージも上がっていく。

ここまで、長々と説明した事で分かってもらえると思うが、僕はラップが好きなのだ。

高校の時から色んなバトルを見て来たし、色んなMCを見てきた。

「好きなMCは誰?」

と聞かれたら、何人も上がってキリが無い。

「じゃあ、一緒にお酒飲みたいMCは?」

と聞かれたら、この人っていうのは決まっている。

ずばり、『輪入道』である。


輪入道という千葉県出身のラッパーなのだが、本当に熱いラップをする人なのだ。

強面にイカつい髪型で、通称「最恐の妖怪」。

だが、本当に真っ直ぐで、本当に熱い魂を持っているラッパーなのだ。

輪入道のフリースタイルは、何度も言うが「熱い」のだ。

輪入道は相手を無闇にディスったりしないのだ。

アイドルラッパーやギャグラッパー、色んなラッパーが居るのだが、誰の事も下に見る事なく、全て受け止めた上で、スキルと熱量で観客を持って行くのだ。

輪入道自身、相当な生い立ちを持っている。

そんな過去の経験があるからこそ、輪入道は相手の目を真っ直ぐに見て、受け止めるのだ。

そして、輪入道のフリースタイルのすごいところは、「言葉に矛盾が無いところ」である。

その場しのぎで取り繕った言葉なら、いずれ他のバトルで真逆の内容を言ってしまう事もあるし、実際にそんなMCも居る。

だが輪入道の場合、何年前のバトルだろうが、先月のバトルだろうが、言葉に矛盾が無いのだ。

それは、全てのバトルで本心で対峙しているからだろう。

相手を蔑む事なく、受け止めた上で、本心でぶつかり合う。

魂を震わすのは魂なのだと教えてくれた、最高に漢らしいラッパーである。

場面は変わり、僕が宮城で工場勤めをしていたある日のこと。

もし、自分と輪入道がフリースタイルバトルをしたらどうなるのかを妄想していた。

輪入道に僕は全てを曝け出した。

自分の過去のこと、本当はあんな事やこんな事がやりたい、でも自分にはこんな弱さがあって、それでも負けたく無くて〜。

正直、韻なんてまるで踏めて無かったし、ビートにも乗れていなかった。

ただ、輪入道に僕を知って欲しくて、全てをぶつけたのだ。

すると、輪入道は僕の目を真っ直ぐ見ながら

俺にだってそんな時期はあった、
誰にだってそうだ、だけどお前が歩んで来た人生を否定する様なことは絶対にするんじゃねぇ!
お前が背負ってきたもんがあって、今のお前があるんだって、だけど俺だってお前に負けらんねー!

みたいな事を言われた。

全て僕の妄想なのに、完全に喰らってしまった。



僕は工場でボロボロと泣いてしまった。



輪入道の熱量の多さと、僕の妄想力の高さに、乾杯。

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