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日常を生きるおまじない

日常って、穏やかな顔をしてずんずんやってくるから恐ろしい。

朝の準備も、通学や通勤も料理やゴミ捨ても、寝る前の時間も、なんとなく過ごしてしまうと毎日ぬるっと過ぎて、飲み込まれていく。飲み込まれると、ただこなすだけで、自分の人生が自分の人生ではないようになってしまう。

そうならないように、日常にちょっとずつ自分を滲ませられるように、おまじないのようなものをみんなどこかに持っていると思う。
誰かがそれをこっそり教えてくれると、その人の人生が少し覗けるようですごく好き。日常を自分のものにするおまじないは、その人が滲んでいて美しく、惚れ惚れしてしまう。



同じ職場の、心がぴちぴちの素敵な国語の先生は、「毎朝、通勤中に見える浅間山に大きな声で、おはようございます!!って言っているよ」と教えてくれた。


よくお菓子を差し入れしてくれる社会の先生は、「水曜日を第一金曜日にすることで、金曜日が二回になるんだよ!そうしたら週の後半も頑張れるしおすすめ。」と教えてくれた。


毎朝10分ピアノを弾いている事務のお姉さんは、「心の中にお墓を持っていて、ちょっと悲しいこと、どうしようもないことがあった時、そのお墓に埋めるようにしているんです。たまに、そこにあるかな〜と覗いたりもする」と言っていた。


東京で中高生を過ごした知り合いは、「中央線の立川駅で人がどっと増えたりどっと減ったりすることを、立川的瞬間って呼ぶんだよ。」と教えてくれた。

大好きな友達は、「東京のゴミは分別がないんだけど、私は管理人さんが好きだから片付けるときに手が汚れて悲しい気持ちにならないようにトレーを洗うようにしてるんだ」と言っていた。


大好きな友達は高校3年生のとき、「終電まで勉強を頑張って、机の上の消しカスを集めて捨てる瞬間が気持ちいいんだよね」と教えてくれた。


そういえば、私にもある。
高校の時、ジャズバンドの練習をして終電で帰るときは絶対に駅のセブンティーンアイスを買うというルールがあったこと。


学校に飴を持っていって、消しゴム貸してくれた友達とか、明日英検の友達とか、ちょっと元気なさそうな友達とか、ちょっとしたときに渡すようにしていたこと。

毎朝の通学路をちょっとそれて脇道を通って、綺麗な小さい川にいるカニの数を数えて、10匹を超える日はラッキーデーにしていたこと。

家に虫が出た時、とりあえずこんにちは〜って挨拶するんだよってお母さんに教えてもらったこと。

日本にいても留学しても、学生でも社会人でも、朝は憂鬱なことに変わりはないし、どこに住んでもどうやって暮らしていくかはその人次第だよね、という話をこの前友達とした。

ちょっと憂鬱な朝や、ゴミ捨てや、帰り道の、「はあ、」ってなる瞬間を、ちょっとだけ前向きに生きていくためのおまじない。自分で自分の人生を生きていくためのおまじない。ちょっとしたことだけど、一番大切。

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