旅人、拾う
それは世間が10連休に沸くゴールデンウィーク直前の4月25日であった。
私は数か月に一度の楽しみである、木材仕入れという名の飛騨地方へのドライブに出かけていた。
夕方頃だったか、滋賀県彦根市で同い年の女性、周防(すおう)嬢が経営しているカフェ兼アトリエに顔を出した。
モノづくりで生計を立てながら、カフェではアルバイトまで雇っているという立派な経営者だ。
進撃の巨人をこよなく愛するエネルギッシュな女性で、異性のみならず同性をも惹きつけるというその男気は巨人をも討伐しかねない。
以前一緒に仕事をさせていただいた仲なのであるというのに、私とのこの差はなんだ。
私なぞアルバイトを雇うどころか、自分がアルバイトをしていた方が収入が安定するんじゃないかと思うことが多々あるほどだ。
まったく、女性の時代だなと痛感させられる。
昼寝ばかりしている自分に情けなさを感じずにはいられない。
それはそうと、周防嬢との半年以上ぶりの再会を喜んだ後、帰り際に一人の青年が入店してきた。
細身で日に焼けた顔にメガネをかけていて、ひょろりというか、なんだかひょっこりとした風貌である。
落ち着かない様子で、いかにも初入店という感じであった。
入れ違いに店を出て岐阜へと向かおうとしたとき、さっき入店してきた彼のものと思しき自転車が目に入る。
後部に「自転車日本一周」と書いた看板が。
それが目に入ったのは、車に乗って駐車場を出ようとした時だったので、少し迷った。
迷った末に、もう一度車を停めてカフェに戻って彼に声をかけた。
「自転車で日本一周してるんですか?」
はい、と答える彼に、僕もしてましたと返す。
そう、今では昼寝ばかりしている職業不詳の私もかつては自転車で日本一周をしていた青年なのであった。
少し話してから、「うちの仕事場に部屋が空いてるから、気が向いたら泊りに来たまへ。」と言って再び店を出て車で出発した。
つづく
しかし、アトリエ兼カフェに複数台の駐車場まで所有しているとは、やはり周防嬢はただ者ではない。
みなさまのご支援で伝統の技が未来に、いや、僕の生活に希望が生まれます。