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夜の怪現象

数日前の夜11時半頃、木工場の二階での出来事である。

寝る前に布団に横たわって本を開いていると、枕もとのアルミサッシから「コツっ」と音がした。
なにやら硬くて軽いものでつついたような音で、ちょうど指の爪で窓をノックしたような音だった。
ちなみに窓の外は横長で狭いベランダがある。

不審に思い、枕から頭をあげて窓の方を見つめていると、またしても「コツっ」と鳴る。
この日は雨も降っていなかったので、雨粒が落ちたのではあるまい。

外を確認しようにも、この窓はお隣さんの家のトイレなどに隣接しているため障子を閉めていてなにも見えない。
なんだろうかと思って障子を見つめていると、今度は「コツっ、コツっ」と続けて二回ノック音がした。
明らかにある程度の重みのある音なので薄気味悪さを感じる。

これはなんだか変だと思い、本を片手に布団から起き上がった。
窓から距離をとって見張っている間にも、「コツっ」、「コツっ、コツっ」と窓をつつく音は続く。

深夜にも関わらず、私の聡明な頭脳がありとあらゆる知識や経験を総動員して原因の究明に努めた結果、3つの可能性に思い当たった。

可能性の一つ目として挙がったのが、”お化けの存在”である。
実体を伴ったこの世ならざるものが、私を脅かすためにベランダの向こうから指先でノックをしているのかもしれない。

だが私は幽霊の存在など本気で信じてはいない。
もし窓の向こうにいるのが幽霊だとして、なぜそのように姿を見せず周到な方法で存在をチラつかせるのか。

百歩譲って霊魂とやらが存在するのだとしても、「こうやったら怖いかしら、、、うふふ。」などと、いたずらっ子めいた脅かし方をしてくるものだろうか。
そうして私は”お化け説”を除外した。

次に考えられるのが”生き物説”である。
先日、寝返りをうった際に足の親指で障子にゴルフボール大の穴をあけてしまった。

その穴へなんらかの生き物が入り込み、窓と障子の間に挟まり出られなくてもがいているというものだ。
お化け説よりもよっぽど濃厚ではないか。

もう一つ、これも濃厚な可能性をもって浮上した、”内緒のメッセージ説”である。
隣家の娘さんが、日中に私を見かけて一目惚れしたのかもしれない。

夜中に二階のトイレなり廊下なりから窓の方を見やると、なんとベランダの向こう、部屋の明かりが漏れているではないかと気づく。
その子はもうロミオとジュリエットの世界に入り込んでしまい、バルコニー越しに私への想いを告げようとしたのであるまいか。

そしてトイレの小窓から、部屋の中にいる私を呼び出す方法はないかと考えたのだ。
悩んだ末に、手近な観葉植物の鉢に入っていた小石をかわいらしい指でつまみ、窓に向かって「コツっ、コツっ」と投げつけてきたのかもしれない。

うむ。充分にあり得る。
隣家に若い娘さんがいるのかどうかも知らないが、考えられる。

しかし、障子と窓の間に生き物や害虫が挟まっている可能性を考えると、開く気がおきない。

そこで私は、害虫駆除薬の”アースジェット”を、足の指で開けてしまったゴルフボール大の穴に向けて噴射することにした。
そうすれば、障子と窓の間に霧が充満して、中にいる生き物は息絶えておとなしくなるはずだ。

穴に向けて勢いよく噴霧すると、寸前まで鳴っていたコツコツ音がぴたりと止んだ。

ホッと胸をなでおろしてそのまま眠りについた翌朝。
障子を開けると、窓との間には何の生き物も横たわっていなかった。

結局、夜中のノック音の正体は謎のままである。
ただ一つわかったのは、アースジェットは害虫のみならず、怪現象まで駆除してくれるという事だ。

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京都で漆と木工の仕事をしている脱サラ職人。父は職人歴50年のガンコ者。絶望的な経済状況の中でおもしろおかしく生きていこうとする、希望にあふれた職人の生きざまをご覧あれ。僕はアウトドア漆器ブランド「erakko」を立上げ活動しています。https://erakko.jp/
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