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理想郷から、ダメな僕へ

10月一番のクラブイベントが終わった。山梨と長野の新進気鋭の若手が主催、ゲストには首都圏からデッカいDJ数名を招いた、若さと活気があふれるイベントだった。
ありがたいことに僕も出演者として呼ばれていて、出来うる限りの精一杯でこなしてきた。

半年以上前に、企画の話を貰った時には出演者リストに心底怖気づいてしまった。

なぜ、僕なんかに声が掛かったのだろう?
僕からしてみればゲストは「画面の向こう側」で活躍する、錚々たる面々だ。
一緒に並ぶ地元の仲間たちの名前は確かに心強かったが、彼らは彼らで、並々ならぬ努力を積み、実力と人一倍の貪欲さを持っていることを知っているから、コロナ禍や所属イベントの休止以降これといって目立った活動をしていなかった僕の不安は拭えなかった。

それでも、声が掛かるのには何かしら理由があると信じたい。
実力によるものなのか、頭数合わせなのか、いずれにしても喜ぶべきことには変わりないはずだ。

だから出ることにした。
僕には実現出来なかったゲストや、夢みたいな空間でのDJ。
強い憧れと汚い承認欲求。
強がり、カラ元気。
少しでも期待が寄せられているのなら、その分は応えたい真面目さ。

その他にも「ここで逃げたら、何か大事なものを無くしてしまうんじゃないか」という焦りがあった。

日々の合間で練習して、鈍った感覚を取り戻そうとした。
最近は全然曲を掘れていないから何か買おうかと思ったけれど、昔の曲でやるのが楽しくて、僕が一番好きだった頃のハードコアでセットを組もうと思った。イベントを立ち上げて、何か尖ろうとしてて、威勢だけは良かった頃にやっていた曲たち。

まあ懐古するにはいささかDJとしてのキャリアもハードコアヘッズ歴も足りないのだが、あの頃の無邪気さとか、勢いみたいなものが無くなってしまったのは紛れもない事実だ。まず自分が楽しめなかったら意味がない。そう言い聞かせた。


当日。
本当に緊張していた。
胃がキリキリするという感覚を言葉通りに味わった。

初対面、すごい人たち、大人、DJとしての振る舞い。
吐きそうだった。
僕は本当に情けない人間だ。

「ウコンの力」を一気飲みして、実際に現場で挨拶をする頃には、少し和らいだ。
設営の間に、主催の彼が「アンタはすごいんだ、だから呼んだ!」と僕の背中をポンと叩いた。本当は全然すごくないんだけど、僕をそんなふうに記憶してくれていたことが、それを理由に呼んでくれたことが、とても嬉しかった。

オープンからは、とにかく楽しかったし、少し悔しかった。
若い子達の圧倒的な活力、盛り上がり。
始めたばかりの頃の僕らと同じ熱があった。
友達が沢山来てくれて、いっぱい色んな話をした。
喧嘩して以来口をきかなくなった友達も来ていたりして、多分僕なんかの顔は見たくないんだろうけど、それでも嬉しかった。

各々が最高のパフォーマンスを見せて、仲間の完璧なパスからSPゲストの番手が始まった。
夢みたいな空間だった。

そしてSPゲストが終盤に差し掛かり、いよいよ僕の番が迫る。
圧倒的な盛り上がりを見せるフロア。
そこにひとり、僕は顔面蒼白だったみたいだ。ダサすぎる。
友達が「がんばれって。」と背中を叩いてくれて、ハッとした。
緊張で固まる僕を見て気を遣ってくれたのかもしれない。


開き直った。


ハードコアは好きだ。
でも今までずっと、最前線の事情もお作法も知らない。
だったら自分の良いと思うものを取り繕わずに全部ぶつけてやろう。
そう思った。

嫌な予感は当たった。
初手の繋ぎからとちった。いつもこうだ。
苦し紛れのローカットで、下手くそな名乗りを叫んだ。
そうだ、これが僕なんだ。
スキルの甘さもフロアの反応も、全部受け入れよう。
持ってるものしか使えない。
目の前に踊ってくれている人がひとりでもいるなら、それで充分だ。
吹っ切れて、必死に続けた。

裏腹に、手拍子が返ってきた。
ゲストが最高のMCを全力でぶつけてくれた。
泣きそうになった。

終わったあと舞台袖で、一番最初にSPゲストの方が感想を聞かせてくれた。決して上手くは出来無かった筈なのに、僕の好きなものがしっかり伝わっていて、胸がいっぱいになった。フロアに戻ると、みんな温かく迎えてくれたのが本当に心強かった。

後の番手の2人を応援しながら全力で楽しんだ。
パーティはハッピーなのが良いんだ。
我慢できなくて、下手くそMCをもう一度叫んだ。引くほどスベって、ダサかったかもしれないけど、それでもあの頃の熱を帯びた声が出た。

今日は、最初にブースに上がった日から地続きだった。
何者にもなれなかったけど、得られたものはいくつもあった。
一緒にやってきた仲間、繋がった人、尊敬している先輩たちが、そこに居てくれた。
僕が辞めない理由には、充分すぎる。

ゲストでも主催でもないのにこんなことを書き殴るのダサいとか、寒いとか、DJの在り方としてどうだとか言われるかもしれないけど、それでもいいよ。
本当に感謝してます。

理想郷から、ダメな自分にお土産を持って帰れたよ。
パーティやったり、ガンガン動けるかどうかは分からないけど。
でも多分、ずっと好きでいられると思うから、
これからもよろしくね。

Hardcore ArcadiA vol.1
主催2名、ゲストの皆さん、仲間、お客さん
大切なものを沢山貰いました。
本当にありがとう。

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