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【あと9日】人間にとって最大の謎は人間なんだよな

その棚の名は「R」


娘の部活の待ち時間に、PCを携えて図書館に行った。

人のあまりいない場所を求め、図書館の奥の方に入り込み、案の定テーブルが空いていたのでそこを陣取った。

PCを開く。
キーボードに手を置く。
日記書こうかな。小説のアイデア出しもしたい。昨日思いついたあのネタをエッセイにしようか。
いろいろ考えつつ、ふと、そばの書棚を見た。


その棚の分類番号は、R。
0で始まる分類番号なら総記。1なら哲学や宗教、2は歴史と地理。9で始まる文学のコーナーなら常連の私。しかしそういう分類と、このRとは、どうも毛色がちがう。


R。


並んでいる背表紙のタイトルも、いちいちマニアックである。


『紙の文化事典』

『茶の事典』←『英和ブランド名事典』より分厚い

『土の百科事典』


これはあくまで一例です。


知らない世界があるもんだ。


……ん?
『シュルレアリスム辞典』ってなんだよ。


「辞典」ということは、「シュルレアリスム」に関係する言葉を集めてるってことか。それにしても、それだけでこんな分厚い本になるか?


私はその『シュルレアリスム辞典』を、ギッチギチの本棚から抜き取った。


おお〜〜、
シュルレアリスムだ〜〜〜。(作品の写真も多数掲載されています)
サルバドール・ダリ、知ってる。
うん、ダリだ。
おっとこれはわからないぞ。
全く理解できない世界があるってことだけが理解できるぞ。

私の心の声(図書館内ではお静かに)



何がどうするとこういう発想が生まれて、しかもなんでそれを具現化しちゃったのか。頭の上にパン乗ってっけど? パンの上にさらに人とインク壺乗ってっけど?? なんでそこ???


今あらためてネットで検索し直して気づいたけど、この作品は、

「ミレーの晩鐘から着想を得た」

Artpediaより


ミレーに怒られんか?



パンの上に乗ってる2人の人物、これがミレーの『晩鐘』の男女なんですね。なるほど。


ミレーに怒られんか??



なおパンは《カタルーニャのパン》と異なり、柔らかくなっている。

Artpediaより


パン、実物だったんか?!?!


そんでそんなにパンの質に興味なかったわ。カタルーニャのパンってなに?

今調べました
なんか、もう、そうね。それはそっちが硬いでしょう、しらんけど。)

リンク貼るのもちょっとためらったよ
そしてそれより柔らかいパンが頭に乗ってるこの女性はどういう感情の顔なのよ


もう、自由が過ぎるというか、こじらせてるというか、お母さん心配だよ。
ミレーは1875年に亡くなっているから、ダリ、ミレーにキレられはしないが、呪われたかもしれないな。



そして私は思う。

逆にこれで表現しきれたんか? この先は「展示される表現」に収まらなかったんですって感じなのかもしれない、などとダリの気持ちに寄り添う真似事などしてみる。
真似事くらいにしかならないよ。なんか、寄り添おうとしてもめっちゃ跳ね返されてる感覚あるもん。写真なのに。

私の思想が浅いのかなあ。


『シュルレアリスム辞典』には、『名文』というページがあって、サルバドール・ダリの名文も掲載されていた。

大きな自動車、実物の3倍大きい自動車が(きわめて正確な複製よりも細部まで綿密に)、石膏あるいはシマメノウでつくられ、女性の下着でつつまれて、墓の中に閉じこめられる。その場所は、わらでできた薄い時計の存在によってでしか、見わけることができないだろう。

シュルレアリスム辞典 268ページより引用


……お経……??????



それはもうだれにも見わけることができないだろう。
ダリにも見わけられたか、はなはだあやしいぞ。


この「名文」は、もちろん前後があって、何かの作品について語られたうちの一部なのかな、とは思うんだけど、そこらへんを読解することが、私にはどうしてもできない。


なんなのよ。そもそも「薄い時計」ってなんなのよ。詩的でちょっとかっこいいじゃないのよ。意味はわかんないけど。

『名文』には、ほかの作家(アンドレ・ブルトンなど)の文章もあるが、ダリ、突出して読者の理解というものを求めていない。


清々しい。いっそ清々しいほどに突き放されている。



ここでもう一つ、私の目を引く作品に出会ってしまう。
画像を貼り付けられないので、各自ググっていただければ幸いです。

『催淫作用のあるタキシード』(サルバドール・ダリ、1936〜1967年)
(中略)
催淫作用があるというペパーミントリキュールの入ったショットグラスが、散りばめられたタキシード。
(中略)
これは、非常にゆっくり動く(グラスのなかの液体をこぼさないように)きわめて強力な機械に乗って、深夜の散歩をするときに着たり、非常に静かで感情が大きく揺れ動くときに身に着けたりすることができる。

ダリ本人談、だそうです。シュルレアリスム辞典69ページより引用


「できる」。


できるけど。できるけどさ。


夜のウォーキング中にこれ着た人に出くわしたら笑う。怖いけど笑う。




娘から「部活オワタ」とのLINEが来た。『シュルレアリスム辞典』を書棚に戻しながら、私はつくづく思った。

人間にとって最大の謎は、人間なんだよなーーー。



謎すぎるから、哲学や文学、芸術、宗教、科学、いろんな方法で、みんな昔から掘り下げようとしてきたんだ。なんとか解明してやろうと思って、あらゆる方法を試したんだろう。でも結局、いまだに、人間について人間にわかることって、そんなにない。


だから、人間は人間を探るために命を繋いでいるのかもしれない。


うわ、怖いな。
誰の意思でそんな無謀なリレーをしているんだろう。
ゴール見えないじゃん。ゴールがなにかわかんないし。
ゴールが見えたとき、人間というか、人類は終わるのかなあ。
人類が終わったら、人間が人間を探れなくなるから、なんとか命はつなぎ続ける必要がある。ゴールさえなければ永遠にゴールできない。
だからゴールが見えないように、もしくは、
ゴールなんてないことに気づかないように操作されてるのかも。


……誰に?



#なんのはなしですか



さて、

私がにわかにどハマリした「回顧的女性胸像」は、なんと日本にあるらしい。


なにそれめっちゃ行きたい。


この館、ほかにもダリ作品の所蔵数が半端ない。もう俄然行きたい。今から旅支度してしまいたいくらい興味ある。
でもHPを見ると、今は「回顧的女性胸像」は展示されていない。収蔵庫の中か、他館に貸出中か。修復中だったりして……パンを焼き直してるとかだったらウケる。硬さが違う! とかダメ出し食らってたりして。


しかし、見られないとなるとどうしても見たくなるのが人間のサガである。
展示のタイミングをチェックして、人生初の東北上陸を、福島のダリに捧げるのも悪くないと思った。


寝る前にストレッチ。



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