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SCP紹介(2)SCP-8900-EX(青い、青い空)

 ホラーSF『国立人体実験所』連載開始記念企画。SCP紹介第二弾です。

SCP-8900-EX(青い、青い空)

アイテム番号: SCP-8900-EX
オブジェクトクラス: keter

 とても有名な作品であり、短いながらもハッと驚かされる凄まじいアイデアが凝縮されている。オブジェクトクラスはKeterだが、EX(Explaind)が付けられている点に注目だ。

 Explaindは「異常現象だと思われてたけど現代科学で説明できるようになった」「もう広まりすぎて逆に常識になっちゃった」というクラスで、SCPの中では亜流だが、それゆえに独特の魅力を持つSCiPたちである。本作は「逆に常識になっちゃった」の方のExplaindであり、いわば財団が完全敗北したSCiPと言えよう。

 短い作品なので、簡単に読んできてもらえると良いのだが、これは簡潔に言うと、「いまわれわれの目に見えている世界は異常現象の結果」というものだ。本当の世界はこんな世界ではなかったが、ある時を堺に(とある会社の商品開発実験の結果として)世界の見え方が異常なものに変わってしまった。

 では、本来の世界はどうだったのかと言えば、それは「モノクロの世界」である。証拠は過去の写真に残っている。昔の写真を見れば、世界がモノクロだったことは明らかだ(!) それが、この異常現象が広まったことによって、世界に青だの赤だの黄色だのといったケバケバしい色が溢れかえってしまったのだ。許せねえな!

 財団側もこの感染症を何とか封じ込めようとし、「世界がちゃんとモノクロに見えるようになる」感染症を逆に開発したりしたのだが、それには副作用があり、感染すると口が利けなくなったらしい。しかも、その感染病のウイルス?が流出したという。

 本文には「未来のエージェントはこれ自体をSCPオブジェクトとして扱わなくてはならないかもしれないな」とあるが、つまり、カラフルになってしまった後の世界では、この人工感染症が「世界がモノクロに見えるようになり口が利けなくなる」異常な奇病と見なされかねない、ということだ。まあ、それはそうだろう。

 財団は世界規模の記憶改変(アンニュイ・プロトコル)を行い、「えっ? 元からカラフルだったじゃん?」と全人類の記憶を上書きすることで、この問題を解決した……というか、諦めた。その結果、本SCiPはExplaindとなったのである。

 なお、「世界がモノクロだったら、このSCPに暴露する以前の世界には色の名前は白と黒しかないはずで、青とか赤とかの言葉はなかったのでは?」などの疑問が湧くと思うが、どうも「モノクロとはいえ濃淡はあり、その濃淡の中で青も赤もあった」ということのようだ。SCP暴露以前の人たちはある灰色を見ると「これは青だね」「これは赤だ」と認識していたということなのだろう。(しかし、そうなると、モノクロ写真をわれわれが見ると「フルカラー写真」に見える気がするのだが、そこはどうなんだろう?)

 それにしても、このSCPに暴露した瞬間の人々の混乱を思うと凄まじいものがある。昨日まで赤く見えていたものが青く見えるようになっただけでも相当に混乱すると思うが、そんなレベルではない。暴露以前の世界の人々には(今のわれわれが認識するところの)赤も青もなかったのだから。

 白と黒と灰色しか色の認識がなかったところに、全く異次元の色彩である赤だの黒だのが突然脳内に入り込んできたら、むちゃくちゃビビるのではなかろうか。想像も及ばないが、発狂してもおかしくない程の情報の洪水だと思う。「色が付いた」というよりは「異常な何かが万物に付着した」感覚だろうし、人とかも化け物みたいに見えたんじゃないかな。最初に感染した人が自身の異常を訴えても、周囲の人は何一つ理解できなさそうである……。

 そういった想像の余地を多く含むところも本作の魅力と言えるだろう。

 *

 最後にちょっと宣伝。『国立人体実験所』に登場する異常物品をご紹介。なお、作中では「奇貨」と呼ばれています。

(おまけ)

『国立人体実験所』は……

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