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インスパイア系の行く先


『インスパイア系』というワードを調べてみると、

「インスパイア系」とは、有名ラーメン店の味に着想を得て、同じような系統のラーメンを提供する店のことである。 ネタもととなる本家の店で修業することなく、何度も通って味を覚えることで、メニューを再現、あるいは独自の物に仕立て上げている店が多い。

という説明が出てくる。

主にラーメン業界で使われる用語らしい。

この説明文の中で大事なのは

『ネタもととなる本家の店で修行することなく』

という部分だと思う。



このnoteでも何度も書いていることだが、私自身、どこかで習ったとか修行したという経験もなく、下積みの経験もなく飲食店を始めてしまったので、始めてから色々と独学で学んだ。
(仕事をしながら手探りで仕事を覚えた)

『実学』と称して、他のお店に行って、コーヒーやスイーツやパスタなどを食べ、味や飾り付けや使っている器などをみて参考にする、という日々を過ごした。

そういう意味では、私が今作っているケーキは全部『インスパイア系』だ。

しかし、インスパイア系なんてわざわざ言わなくても料理それ自体には特許や著作権や商標がないので、お互いのお店がお互いのお店の研究をし、時には参考にすることもあるので、料理全体がそもそも『インスパイア系』と言える。

『インスパイア系』とは、要するに『盗用』『パクリ』だ。

それが悪いということではなく、先にも書いたが、料理やお菓子それ自体には商標や著作権がなく、誰が何を作ってもいい。

例えば、デパ地下のスイーツコーナーなんかは、アイデアの宝庫だと、個人的には思っている。

秋には秋の新作、イチゴの季節にはイチゴを使ったケーキの新作が並ぶ。

料理人やパティシエは、誰も味わったことのない食材を使い、今まで見たことのない食材の組み合わせを試し、誰も食べたことのない新しい料理やお菓子作りに日々励んでいる。

しかし、ひとたびそれが世に出てしまえば、次の年にはパクられてしまう。

デパ地下の新商品コーナーは、ある意味では消費者だけでなく、同じく料理人やパティシエの注目の的でもある。

それは料理の宿命のようなもので、我々の食文化はそうやって発展してきたと言っていい。

もし、料理に著作権や特許や独占権を与えてしまえば、我々は何も食べられなくなってしまう。

料理人やパティシエは、お互いに研究し合い、また、互いに影響を与え合う。

盗用し合い、パクり合い、取り込み、放出する。

『盗用』『パクり』、それをストレートにいうことが憚れるから、『インスパイア系』という言葉が生まれたのだろうと思う。

昔は、料理にしろ、製菓にしろ、それが老舗の専門店や職人により、直接教え教わり、門外不出のレシピが連綿と引き継がれてきた。(そこから独立する場合はそれを『暖簾分け』と言った)

今は、レシピ本やネットの普及によって、プロの技やプロユーズの食材やレシピが公開されるようになり、『暖簾分け』や『修行する』ということもなく、料理やお菓子を再現できるようになった。



写真は『シャインマスカットとイチジクのタルト』と、そのリースタルト。




シャインマスカットとイチジクのタルトのオーダーをそれぞれにいただいていて、それぞれの材料が少しずつ余ったので、シャインマスカットとイチジクを使ってみた。

試作の意味合いが強いタルトなので、売り物にはせず、いつもフルーツなどを提供してくれてお世話になっている方にプレゼントした。

インスタでフォローしているプロのケーキ屋さんの画像を参考にして盛り付けてみた。

そういう意味はこれも『インスパイア系』のタルトだ。

今、製菓業界では、斬新なアイデアや盛り付けなどの情報は主にインスタ発信のものが多い気がしている。

しかも、コストや労力を気にするプロの方ではなく、コストを気にしないアマチュアの方が、時間と機材と食材を贅沢に使って、斬新なアイデアのスイーツをインスタで発表している傾向が強くなっている気がする。

以前、同じく飲食店でお菓子を作っている友達と、

「インスタでアマチュアの方にあんなにすごいケーキを作られたら、我々プロはどうすればいいんですかね。」

という話になった。

実はこのことはもう私は何年も前から感じていて、それは『スイーツ』以前に、『カフェ』そのものに対してそう思っていた。

いわゆる『おうちカフェ』だ。

みんながみんな自宅をカフェのように改装して、カフェのような暮らしをして......じゃあ、一体、本業としてカフェをやっている人は何のためにカフェをやればいいのか、と思い悩んだことがあった。

このことを考えるきっかけになったのは三品輝起さんという方が書かれた『すべて雑貨』という著書の中で、『雑貨化する暮らし』『雑貨国の侵略』ということを書かれていて、その”雑貨”の部分をそのまま”カフェ”に置き換えても同じことが言えることに気づいたからだ。

このことは以前にも書いた。
コチラを参照してほしい↓


とりあえず自分の中では『人々の暮らしの”カフェ化”が進む現状の中で、本業としてカフェをやっている人は今後何を目指していけばいいのか』に関しては自分なりに決着がついているが、『一般家庭で作られるスイーツのハイレベル化』が進む現状に関しては、どう折り合いをつけていくか(どういうことを目指して仕事を続けていくか)は、まだ何とも言えない状況が続いている。

が、私の場合は、『スイーツを作るだけの人』ではなく、『カフェそのものを切り盛りしている人』なので、そう考えると『お皿の上の世界観の仕事』ではなく、『空間そのものの世界観の仕事』なので、おそらく、その辺りに答えがありそうな気がしている。

『カフェで食べることに醍醐味があるスイーツ』『カフェのお皿の上で意味を発揮するスイーツ』....そのことを追求することが今後の生き残り戦略のような気がしている。


さて、最後に。

自分で『インスパイア系タルト』を作ってみて思ったことだが、技法的にはほとんど、革新的なものは何もない。

『手持ちの技術』の寄せ集めだけで出来てしまう。

要するに『見せ方』の問題だと思う。

そしてその対極にあるのは『地味菓子』であることにも気づけた。
(そういう意味では、そういうことを言語化してみて本当によかったと思う)


しかし『インスパイア系菓子』も『地味菓子』も、根っこにあるのは『連綿と引き継がれてきた知識と技術』であり、アウトプットされたものが派手であるか、地味であるか、の違いでしかない。


『連綿と引き継がれてきた知識と技術』を日々研究することが何よりの『インスパイア』だと思う。



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